表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/36

第八話 鈴を鳴らしたら来てください

 小雪の家は、少しだけ家らしくなった。


 少しだけ。


 床には、もう謎の粉が散っていない。

 焦げた布は捨てられた。


 赤い粉、黒い粉、白い粉、青い粉、紫の粉、光る粉は、それぞれ蓋付きの箱に入れられた。


 箱には札が貼られている。


 赤い粉。

 ――火を近づけない。


 黒い粉。

 ――混ぜない。


 白い粉。

 ――吸わない。


 青い粉。

 ――触らない。


 紫の粉。

 ――分からないので危険。


 光る粉。

 ――綺麗だが危険。


 最後の札を書いた時、ベルは深く息を吐いた。


「……綺麗だが危険って何だ。」

「分かりやすいです。」

「分かりやすいか?」

「はい。綺麗で危険。」

「そういう問題じゃねぇ。」

「敬語。」

「そういう問題ではありません。」


 ベルは額を押さえた。


 小雪はその横で紙を取り出し、ペンで書き付ける。


 危険物、箱へ。

 札、便利。

 ベル、札がうまい。


「今、何を書いた。」

「記録です。」

「また俺を観察してるだろ。」

「観察ではありません。生活文明の進捗です。」

「俺を文明の部品にするな。」

「部品ではありません。」

「なら何だ。」

「生活文明担当。」

「それもやめろ。」

「敬語。」

「やめてください。」


 小雪は頷いた。


 やめるかどうかは、検討することにした。


 家は、確かに変わり始めていた。


 台所には鍋が増えた。

 食材は箱に分けられた。

 寝室には敷布と掛け布と枕がある。


 作業台の横には危険物用の箱が並び、床には歩ける空間ができた。


 少し前まで、床は床であり、作業台であり、寝床であり、物置だった。


 今は、床は床である。


 小雪はそれを進歩と判断した。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「床が床です。」

「当たり前だ。」

「以前は多機能でした。」

「多機能って言うな。散らかってただけだ。」

「敬語。」

「散らかっていただけです。」

「そうですか。」


 小雪は頷いた。


 生活とは、物の役割を一つずつ分けることらしい。


 床は床。

 寝床は寝床。

 危険物は危険物箱。

 食材は食材箱。

 ベルは生活文明担当。


 分かりやすい。


 おそらく。


 問題は、ベルが忙しすぎることだった。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「水。」

「自分で汲め。」

「手が銅線です。」

「手が銅線って何だ。」

「銅線を持っています。」

「最初からそう言え。」

「敬語。」

「最初からそう言ってください。」


 ベルは水を持ってくる。


 小雪は受け取る。


「ありがとうございます。」


 ベルは一瞬止まる。


「……急に礼を言うな。」

「予告しますか。」

「しなくていい。」

「では、突然言います。」

「それもやめろ。」

「難しいですね。」


 しばらくして。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「銅線。」

「目の前にあるだろ。」

「細い方。」

「右の箱だ。」

「右。」

「反対だ。」

「こちら。」

「それは左だ。」

「難しいですね。」

「左右から覚えろ。」

「敬語。」

「左右から覚えてください。」


 また、しばらくして。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「火。」

「何に使う。」

「少し熱します。」

「何を。」

「赤い粉。」

「駄目だ!」

「敬語。」

「駄目です!」

「強い敬語。」

「敬語以前の問題だ!」


 さらに、しばらくして。


「ベル。」

「今度は何だ。」

「敬語。」

「今度は何でしょうか。」

「お腹が鳴りました。」

「それは先に言え。」

「今鳴りました。」

「飯にする。」

「はい。」


 ベルは台所へ向かう。


 小雪はその背中を見送った。


 ベルは、よく来る。


 呼ぶと来る。

 怒りながら来る。

 敬語を要求すると、言い直して来る。


 文句を言いながら、水も銅線も火もごはんも持ってくる。


 小雪は、しばし考えた。


 便利。


 非常に便利。


 だが、声で呼ぶのは少し非効率だった。


 作業に集中していると、声を出すのも面倒な時がある。

 遠くにいると聞こえにくい。

 ベルが台所で何かを切っている時は、包丁の音で聞き逃すかもしれない。


 生活文明は、改善できるところから改善すべきである。


 小雪は、買い出しの時に雑貨屋で買った小さな鈴を取り出した。

 銀色の、小さな鈴だった。


 雑貨屋の店主は、「扉につけると可愛いですよ」と言っていた。


 小雪は扉につけなかった。


 手元に置いた。


 振る。


 ちりん。


 澄んだ音がした。


 台所からベルの声が飛んでくる。


「何だ!」


 小雪は鈴を見た。


 来る。


 実験成功だ。


 少しして、ベルが台所から顔を出した。


「今の音は何だ。」

「鈴です。」

「それは見れば分かる。」

「では、なぜ聞いたのですか。」

「鳴らした理由だ。」

「呼びました。」

「声で呼べ。」

「声より効率的です。」

「俺は犬じゃねぇんだぞ。」


 小雪は、しばし考えた。


「犬。」

「そうだ。」

「ベル。」

「何だ。」

「敬語。」

「何でしょうか。」

「ベルは犬ではありません。」

「当たり前だ。」

「チワワ?」

「違う!」

「敬語。」

「違います!」

「では、何ですか。」

「人間だ!」

「敬語。」

「人間です!」

「そうですか。」


 確かにそうだ。


 小雪は頷いた。


 ベルは人間。


 記録しておこう。


「書くな。」

「なぜ分かりましたか。」

「おまえがペンを持ったからだ。」

「観察が鋭いですね。」

「褒めるな。」

「有能。」

「単語で撃つな。」

「敬語。」

「単語で撃たないでください。」


 ベルは台所から出てきた。


 手には包丁ではなく、布巾を持っている。


 小雪はその布巾を見た。


「台所中でしたか。」

「夕飯の下ごしらえだ。」

「それは中断しても大丈夫ですか。」

「鈴が鳴ったから来たんだよ。」

「やはり来ましたね。」


 ベルが固まった。


「おい。」

「はい。」

「試したな。」

「はい。」

「素直に認めるな。」

「実験なので。」

「俺を実験するな。」

「助手なので。」

「助手は鳴らして呼ぶものじゃねぇ。」

「では、何で呼びますか。」

「名前だろ。」

「ベル。」

「何だ。」

「来ました。」

「もう来てる!」

「効率的ですね。」

「そういう話じゃねぇ!」

「敬語。」

「そういう話ではありません!」


 ベルは深く息を吐いた。


 小雪は鈴をもう一度鳴らした。


 ちりん。


「鳴らすな!」

「音の確認です。」

「今しただろ。」

「二回目の音も同じでした。」

「当たり前だ。」

「安定しています。」

「鈴を評価するな。」

「有能。」

「鈴を褒めるな。」

「ベルも有能です。」


 ベルは顔を逸らした。


 耳が赤い。


「……ついでみたいに言うな。」

「ついでではありません。」

「そうかよ。」

「敬語。」

「そうですか。」

「はい。」


 小雪は鈴を手のひらに載せた。


 小さく、丸く、銀色で、軽い。


 これなら持ち歩ける。


 作業中も。

 寝室でも。

 台所でも。

 外でも。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「鈴を鳴らしたら来てください。」

「嫌だ。」

「おい、ベル。ベル鳴らしたら来い。」

「悪くなってる!なんか上手いこと言ったみたいな顔すんな!」

「嫌ですか?」

「当たり前だろ。俺は犬じゃねぇ。」

「人間でしたね。」

「そうだ。」

「では、人間として来てください。」

「言い換えればいいってもんじゃねぇ。」

「敬語。」

「言い換えればいいというものではありません。」

「来ませんか。」


 小雪はベルを見た。


 ベルは一瞬、言葉を詰まらせた。


「……必要な時だけだ。」

「はい。」

「遊びで鳴らすな。」

「はい。」

「赤い粉を熱する前に鳴らせ。」

「はい。」

「腹が減った時も鳴らせ。」

「はい。」

「眠くなって、床で寝そうになった時も鳴らせ。」

「床では寝ません。」

「本当か。」

「たぶん。」

「鳴らせ。」

「はい。」


 小雪は鈴を握った。


 これで生活文明が一歩進んだ。


 便利。


 小雪はそう判断した。


 鈴システムは、すぐに運用された。


 ちりん。


「何だ!」

「水。」

「自分で……いや、今、火を使ってるな。待て。」


 ベルが水を持ってくる。


 ちりん。


「何だ!」

「銅線。」

「右の箱だ。……だから反対だ。待て、俺が取る。」


 ベルが銅線を持ってくる。


 ちりん。


「何だ!」

「お腹。」

「飯はまだ早い。」

「鳴りました。」

「腹の音に合わせて鈴を鳴らすな。」

「連携です。」

「腹と連携するな。」


 そして。


 ちりん。


「何だ!」

「ベル。」

「だから何だ!」

「来るか確認。」

「遊びで鳴らすなって言っただろ!」

「確認です。」

「遊びだ!」

「敬語。」

「遊びです!」


 小雪は、しばし考えた。


「怒っていますか。」

「怒ってる。」

「敬語。」

「怒っております。」

「でも来ました。」


 ベルは黙った。


 小雪も黙った。


 事実だった。


 ベルは来た。


 怒っていても来た。


「……本当に必要かもしれねぇだろ。」


 ベルは小さく言った。


「何がですか。」

「おまえが。」

「私が必要?」

「違う。いや、違わねぇ。おまえに何か必要かもしれねぇだろ。」

「敬語。」

「あなたに、何か必要かもしれませんでしょう。」

「変です。」

「分かってる。」

「敬語。」

「分かっております。」


 小雪は鈴を見た。


 ベルは来る。


 必要かもしれないから。


 小雪は、その言葉をどう分類すればよいか分からなかった。


 便利。

 有能。

 生活文明担当。

 暑がり。

 荷造りが上手。

 買い物が上手。

 毛づくろいが上手。

 呼ぶと来る。


 最後の項目だけ、少し違う気がした。


 何が違うのかは、まだ分からない。


 午後になると、ベルは鈴の規則を作り始めた。


「いいか、小雪。」

「はい。」

「一回は普通の呼び出し。」

「はい。」

「二回は危険物。」

「はい。」

「三回は飯、もしくは体調。」

「はい。」

「連打は緊急。爆発前、怪我、魔物、火事、その他だ。」

「はい。」

「遊びで鳴らすな。」

「はい。」

「確認で鳴らすな。」

「はい。」

「暇だから鳴らすな。」

「はい。」

「……枕の反発を見せるために鳴らすな。」

「なぜ分かりましたか。」

「やる顔をしてた。」

「観察が鋭いですね。」

「おまえの行動が読めてきたんだよ。」

「有能。」

「今は褒めても許さねぇ。」

「敬語。」

「許しません。」


 小雪は鈴を振った。


 ちりん。


 ベルが目を剥いた。


「今、鳴らすなって言っただろ!」

「一回は普通の呼び出し。」

「目の前にいる!」

「では、不要でした。」

「そうだ!」

「運用試験です。」

「俺の心臓で試験するな。」

「心臓に影響がありますか。」

「ある。」

「病気ですか。」

「違う。」

「敬語。」

「違います。」

「なかなか治りませんね。」

「だから病気じゃねぇから長引いてんだよ。」

「敬語。」

「病気ではありませんから、長引いております。」

「変。」

「知ってる。」

「敬語。」

「存じております。」


 ベルは疲れた顔で椅子に座った。


 小雪は鈴を手元に置く。


 ちりん、と鳴らさないように、そっと。


 少し学習した。


 ベルはそれを見ていた。


「……まあ。」

「はい。」

「持っているだけなら、いい。」

「はい。」

「危ない時は鳴らせ。」

「はい。」

「床で寝そうな時も鳴らせ。」

「床はもう寝床ではありません。」

「分かってるならいい。」

「床は床です。」

「そうだ。」

「生活文明。」

「そうだな。」


 ベルは少しだけ笑った。


 怒っていない顔だった。


 小雪はその顔を見た。


 ベルは、怒っていない時もある。


 記録が必要かもしれない。


「書くな。」

「まだ何も。」

「顔で分かる。」

「顔。」

「おまえ、書く時の顔がある。」

「そうですか。」

「そうだ。」

「ベルは私の顔をよく見ていますね。」


 ベルが固まった。


 小雪は首を傾げる。


「違いますか。」

「……違わねぇ、けど。」

「敬語。」

「違いません、けど。」

「そうですか。」


 ベルは両手で顔を覆った。


「何でおまえは、そういうことを平気で言うんだ。」

「事実なので。」

「事実が一番危ない時もある。」

「危険物ですか。」

「そうだな。おまえの事実は大体、危険物だ。」

「箱に入れますか。」

「入るな。」

「私が?」

「おまえの発言もだ。」

「発言用の箱。」

「作るな。」

「敬語。」

「作らないでください。」


 小雪は少し残念に思った。


 発言用の箱は、もしかしたら便利かもしれないのに。


 夕方。


 家の中は、さらに少し整った。


 危険物は箱。

 食材は棚。

 鍋は台所。

 櫛は三本のうち一本を使用中。


 まだ折れていない。


 床は床。


 小雪は寝室の入口に立った。


 新しい寝具がある。

 枕もある。


 ベルが選んだ敷布は、床よりずっと柔らかい。

 掛け布は、元布ではない。

 枕は反発する。


 小雪は鈴を持ったまま、寝床の横に座った。


 鈴を鳴らす。


 ちりん。


 廊下の向こうから、すぐに足音がした。


「何だ。危険物か。腹か。眠いのか。どこか痛いのか。」


 ベルが来た。


 少し息が上がっている。


 小雪は見上げた。


「来ました。」

「そりゃ来るだろ。」

「確認です。」

「だから、確認で鳴らすなって言っただろ。」

「はい。」

「はいじゃねぇ。」

「敬語。」

「はいではありません。」

「変です。」

「おまえのせいだ。」

「敬語。」

「あなたのせいです。」


 ベルは部屋の入口に立ったまま、小雪を見た。


 小雪は寝具の横に座っている。


 手には鈴。

 髪はいつもより少しだけ整っている。

 袖は長い。

 顔はいつも通り眠そう。


 だが、床ではない。


 寝床の横にいる。


 ベルは、少しだけ安心したようだった。


「寝るのか。」

「まだです。」

「なら何だ。」

「確認です。」

「何の。」

「鈴を鳴らしたら、ベルが来るかどうか。」

「……来る。」

「そうですか。」


 小雪は鈴を見た。


 銀色の小さな鈴。


 鳴らすと、ベルが来る。


 不思議な道具だった。


「小雪。」

「はい。」

「用がないなら、あまり鳴らすな。」

「用はありました。」

「だから何の。」

「ベルが来るかどうか。」


 ベルは目を閉じた。


 なぜか、とても困った顔をしている。


「それは用じゃねぇ。」

「違いますか。」

「違……いや、おまえにとっては用なのかもしれねぇけど。」

「敬語。」

「用なのかもしれませんけど。」

「はい。」

「……来るから。」


 小雪は顔を上げた。


 ベルは視線を逸らしていた。


「必要な時は、来る。」

「はい。」

「危ない時も来る。」

「はい。」

「飯でも、寝床でも、火でも、赤い粉でも、呼べば来る。」

「はい。」

「だから、何でもない時に試すな。心臓に悪い。」

「病気。」

「違う。」

「敬語。」

「違います。」

「そうですか。」


 小雪は頷いた。


 それから、鈴を寝床の横に置いた。


 手の届くところ。


 ベルはそれを見ていた。


「そこに置くのか。」

「はい。」

「寝る時も。」

「はい。」

「……そうか。」

「はい。」


 小雪は掛け布を少し持ち上げた。


 今日から、ここで寝る。


 床ではない。

 元布でもない。

 ベルが選んだ寝具。


 小雪は、しばし考えた。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「少し、家らしくなりました。」


 ベルは黙った。


 それから、小さく息を吐く。


「そうだな。」

「敬語。」

「そうですね。」

「生活文明が進みました。」

「その言い方はどうかと思うが、進んだな。」

「敬語。」

「進みましたね。」


 小雪は頷いた。


 それから、静かに言った。


「ありがとうございます。」


 ベルはまた止まった。


 本当に、よく止まる。


「……急に礼を言うなって。」

「突然言うことにしました。」

「何でだよ。」

「その方が、ベルが止まります。」

「止めるな。」

「面白いです。」

「おまえ、今、面白いって言ったか。」

「はい。」

「俺で遊ぶな。」

「敬語。」

「俺で遊ばないでください。」

「善処します。」

「善処は信用ならねぇ。」


 小雪は少しだけ、口元を緩めた。


 ベルがまた止まった。


 小雪はそれを見て、少し満足した。


 鈴は便利。

 寝具は柔らかい。

 床は床。

 ベルは来る。


 そして、止まる。


 生活は、少し面白い。


「では、寝ます。」

「寝るのか。」

「はい。」

「ちゃんと布を掛けろ。」

「はい。」

「鈴は手元。」

「はい。」

「夜中に作業するな。」

「善処します。」

「作業する気だろ。」

「敬語。」

「作業する気でしょう。」

「少しだけ。」

「寝ろ。」

「敬語。」

「寝てください。」

「はい。」


 小雪は布にくるまった。


 枕に頭を乗せる。

 反発する。


 よい。


 ベルは入口に立ったまま、しばらく見ていた。


「……おやすみ。」


 小雪は目を閉じたまま答える。


「おやすみなさい。」


 ベルの足音が少し遠ざかる。

 扉が静かに閉まる。


 小雪は目を閉じたまま、手を伸ばした。

 鈴に指先が触れる。


 小さく、冷たい。

 そこにある。


 鳴らせば、ベルが来る。


 小雪は、少しだけ安心した。


 それが何なのかは、まだ分からない。


 ただ、床で寝ていた頃より、寝やすい気がした。




 翌朝。


 ベルは自室の入口に、小さな紙を貼った。


 鈴一回、通常。

 鈴二回、危険。

 鈴三回、食事または体調。

 鈴連打、緊急。


 その下に、少し迷った跡のある字で書き足す。


 ――確認で鳴らさない。


 小雪はそれを見た。


「ベル。」

「何でしょうか。」

「確認で鳴らさない、とあります。」

「ある。」

「敬語。」

「あります。」

「確認したい時はどうしますか。」

「声で聞け。」


 小雪は、しばし考えた。


「ベル。」

「何だ。」

「来ますか。」


 ベルの手が止まった。


 鈴は鳴っていない。


 それでも、ベルは答えた。


「……来る。」

「そうですか。」


 小雪は頷いた。


「確認できました。」

「……そういうところだぞ。」

「敬語。」

「そういうところです。」


 小雪はもう一度頷いた。


 鈴を鳴らさずに確認できた。

 生活文明は、確実に進歩しているようだ。


 ベルは、なぜか朝から耳が赤かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ