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第4章 美智子の父からの承認

【父親の条件、不器用な愛の形】


 道之の言葉は、厳しさの中に、娘を想う不器用な愛情が痛いほど詰まっていた。

 東京にいた時、電話で厳しく突き放したのは、決して美智子が憎かったからではない。

 一人で生きていかねばならない娘の行く末が、心配で、心配でならなかったからこそ、あえて鬼になっていたのだ。


 進は、背筋を真っ直ぐに伸ばし、道之の目を真っ正面から見据えて答えた。


 「お気持ち、本当にありがとうございます。僕も、美智子さんのことを生涯大切にしたいと思っています。でも、僕自身の生活の基盤がまだできていないから、今は結婚を待ってもらっているんです。美智子さんを不幸にしたくないから……。僕の勉強のことは、心配しないでください。美智子さんが近くにいてくれることは、僕の邪魔なんかじゃなく、むしろ僕の支えになっていますから」


 進の、衒いのない、誠実そのものの言葉。

 少しだけタメ口を交えながらも、一文字ずつに覚悟を込めたその返答を聞いて、道之は深く、深く得心したように頷いた。


 そして、道之は隣に座る美智子の方を向き、父親の顔に戻って言った。


 「美智子」


 「……はい、お父さん」


 「お前、黎明大学の食堂のバイトは、段取りが上手くいかなくてすぐに辞めてしまったそうだな」


 美智子は小さく肩をすくめ、俯いた。「うん……ごめんなさい」


 「謝ることはない。お前にはお前の、向き不向きがある。あのな、美智子。京都で、別の、もっとお前のペースで働ける違うパートかバイトを探しなさい。あんな戦場みたいな食堂じゃなくて、一つ一つ落ち着いてこなせる仕事が、探せば必ずあるはずだ」


 道之は、きっぱりと言い切った。


 「そうして、お前が自分の力で新しい仕事をちゃんと見つけて、伊崎君の足引っ張りをせずに、自分の足で立てるようになったら——その時は、私は二人が結婚して良いと思う。いや、ぜひ結婚しなさい」


 「お父さん……!」


 美智子の瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ちた。


 いつも自分を否定し、叱ってばかりいると思っていた父親が、自分の「不向き」を理解した上で、それでも新しい一歩を踏み出せと、伊崎進との未来を認めて背中を押してくれたのだ。


 「分かりました、ありがとうございます」

 進もまた、胸を熱くしながら道之の手を強く握り締めた。

 「美智子さんが新しい仕事を見つけられるよう、僕も一緒に探します。そして、僕も必ず、次の試験で結果を出します」


 「うむ。頼んだぞ、伊崎君。……美智子、がんばれよ」


 夕暮れの京都。

 四条大宮の喧騒の中で、岡山の父は二人の手を合わせるようにして、市営パスに乗り、再び新幹線へと向かっていった。


 嵐電の鳴滝駅へと戻る車中、美智子は進の隣で、何度も何度も涙を拭っていた。


 「進君……私、今度こそ諦めない。私のペースでできる仕事、絶対に探すからね」


 「うん。焦らなくていいよ、美智子さん。一緒に、一つずつ段取りを考えていこう」


 まだ何一つ、生活の安定もない二人だったが、信州の伯父、そして岡山の父という、二人の不器用な男たちの確かな理解と承認を得て、その絆は揺るぎないものへと変わっていた。

 平成の静かな夜、鳴滝のアパートの窓からは、今日も遅くまで、六法全書を照らす一筋の灯火が、二人の未来を明るく照らし続けていた。

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