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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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おばけの木


 小学生のときに、「おばけの木」って呼んでた木があった。

 木の種類なんて分からない。大きい木だったからだいぶ昔からあったんじゃないかな。

 通学路の近くの脇道を入っていくと車が2台停められそうな砂利の駐車場があって、そこにおばけの木は生えてた。

 近くに民家はあったけど、人通りはあんまりないところだった。そもそも、その道に面して玄関がある家が少なかったから、いわゆる裏道だったんだと思う。だからその駐車場に車が停まってることもなかった。


 おばけの木には、いろんな噂があった。

「夜に通ると、木の下に幽霊が立っている」とか、「木がうめき声をあげる」とか、「木を傷つけると血が出てくる」とか。「顔が浮き出ているのを見た」なんて話も聞いたな。

 女子はもちろん、男子でも怖がりな奴は近寄らなかった。俺達は度胸試しをするような気分で、おばけの木のある駐車場でよく遊んでたんだ。


 近くで見ると、枝ぶりがなんとも不気味な木だった。駐車場側にはぐりんと枝が伸びてるんだけど、他の枝は切られたのか短くて、すごくアンバランスだった。たぶん、民家に枝が伸びないようにしてたんだろう。でも子どもの頃にはそんなこと分からなかったから、気味が悪いとしか思わなかったな。

 木肌もひび割れてて、ウロコみたいだった。本当に血が出るか試してみようって剥がしてみたこともある。カラカラに乾いてたのか、樹液すら出てこなかったよ。

 そんな感じで、俺達はおばけの木に対して大人に怒られない程度にいろんなイタズラをした。でも別に何が起きるってわけもなくて、結局「嘘じゃん」ってなってた。


 俺達は徐々におばけの木に興味を失って、「そういえば、そんな木があったなぁ」くらいにしか思わなくなっていった。当然、おばけの木がある駐車場で遊ぶこともなくなった。おばけの木以外にも、楽しいことなんていっぱいあったし。

 中学生にもなれば、外で遊ぶより、家でゲームをやってることの方が多くなるしな。


 で、最近、その駐車場を取り潰すってことで業者が入ったそうだ。

 そして工事が始まって少し経った頃、おばけの木の下から人骨が出てきたってニュースになった。

 作業員が木の根の掘り出し作業をしていたときに、人骨が埋まっているのを見つけたらしい。

 警察が来て、その辺りは大騒ぎになってた。

 普段は物騒なことなんて起きない平凡な町だったから、みんなその話で持ちきりだった。


「話によると、そんなに深い場所に埋まってたわけじゃないみたいよ。今まで誰も気が付かなかったのかしらね。あんた、子どもの頃、あそこで遊んでたじゃない」

 新聞を見ながら、母親が俺に向かって言ってきた。

「小学生だし、そんなの気が付かないだろ」

「でもあんた、あそこの駐車場の木を『おばけの木』とか呼んで、いろいろ調べてたみたいじゃない。骨が埋まってないか掘ってみようとか思わなかったの?」

 母親の顔は笑ってたし、からかい半分だったんだと思う。

 でも、俺はその母親の言葉で、唐突に思い出したんだ。


 ある日、友達が「これ、何だろ」って言って、おばけの木の根元を指した。

 友達の指し示す先には、白い何かが飛び出していた。

 触ってみたり、引っこ抜こうとしたけど、びくともしなかった。

「もしかして、骨じゃねーの? ここ、誰かの墓だったりして!」

「だから、おばけの木ってこと?」

「ばーか、墓にそのまま骨を埋めるわけないだろ。骨は壺の中に入れて、埋めるんだよ」

「あっ、去年じいちゃんが死んだとき、そうだった。燃やして骨にして、みんなで箸で骨を拾った」


 掘ってみるかって話にもなったんだけど、土が硬いし砂利も混ざってるしで、素手では掘れそうになかった。誰も本気にしてなかったし、スコップを持ってきてわざわざ掘り返そうって程でもなかった。

 俺は「なんだ、つまんねーの!」って言いながら、その白い何かを思いっきり蹴っ飛ばした。

 思ってた以上に固くて、逆に俺が足を痛める結果になって、友達はゲラゲラ笑ってた。


 あの日、俺が蹴っ飛ばした白い何かって、実は人骨だったんじゃないか?

 でも、あんな風に人骨が露出してたなら、もっと早い段階で誰かが通報して、騒ぎになってたんじゃないだろうか。

 それとも、俺達以外にあの白い何かに気がついた人間はいなかったんだろうか。

 いや、そもそも、そんな日常風景の中に人骨があるなんて、誰が思うだろう。木の根元から出ている白い何かを見たって、それが人骨だなんて夢にも思わないのが普通じゃないか。


 もし本当に、あの日蹴っ飛ばした白い何かが人骨だったら……?

 そう思ったら、あの日に感じた足の痛みを思い出して、ちょっと背筋が寒くなったよ。



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