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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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寝言


 自分の子どものことを気味悪く思ってしまうなんて、母親失格だなぁと思います。

 でも、ひとりで抱えているのも不安で、ちょっと吐き出させてもらいますね。


 私には、子どもがふたりいます。どちらも元気いっぱいの男の子です。お兄ちゃんは5歳、弟は3歳です。

 3歳の方の息子は、しばらく言葉らしい言葉が出てこなくて心配していたんですが、最近になって急におしゃべりするようになりました。

 これまでの分を取り戻すように、寝ていても寝言でむにゃむにゃ話しているんです。

 その寝言が、なんだか気味が悪くて……。


「おにい、きょうも、こわいゆめね」


 私が記憶している限りでは、これが最初でした。

 お昼寝しているときに言った寝言です。「おにい」っていうのは、お兄ちゃん、つまり5歳の子のことです。

 聞いたときには、変な寝言だな、くらいにしか思っていませんでした。

 でも翌朝、上の子が起きるなり私にしがみついて泣きながら「口が大きい鬼に、食べられる夢を見た」って言うんです。

 私は下の子の寝言のことを思い出しましたが、そのときには偶然だろうと思っていました。


 そして、また別の日には「おじいちゃん、しんじゃった」って寝言を言いました。

 その寝言の3日後に、お隣に住んでいた夫婦の旦那さんが亡くなりました。70代だと聞いていましたが、まだ若々しく、うちの子どもたちを孫のように可愛がってくれました。

 奥さんから聞いた話によると、心臓麻痺とのことで、救急車を呼んでも間に合わなかったそうです。別に持病らしい持病もなく、本当に急なことでした。

 私も子どもを連れてお通夜に行きました。子どもたちはまだ人の死にピンときていない様子でした。上の子はそれでも周りの空気を察して、大人しくしていました。

 下の子は横たわっている旦那さんに近付き、不思議そうな顔で「おじいちゃん、しんじゃった?」と聞いてきました。

 私はその言葉を聞いて、寝言のことを思い出しました。


 下の子は、寝言で予言をするんじゃないか。

 私はそんな風に思い始めてました。

 息子の寝言を恐ろしく思いながらも、私は息子の寝言に耳をすませていました。大体はむにゃむにゃ言っているだけで、聞き取れません。

 でもある日、はっきりと言いました。


「くろいの、ままのうしろ」


 その寝言が聞こえた瞬間、私は背後を振り返りました。

 私の背後には、何もいませんでした。

 まさか、寝言に私のことが出てくるなんて、思いもしていませんでした。……いえ、本当はいつかはこんな日が来るんじゃないかと、怖かったんです。

 もし息子が寝言で私の死を予言したらどうしようって怯えてたんです。

 私についての寝言は、私の死に関することじゃありませんでした。だけど、「くろいの」がなんなのか、私には分かりませんでした。


 その寝言のあと、私は2、3日怯えて過ごしていました。「くろいの」について考えていましたが、何も起きないまま日々が過ぎました。

 5日も経った頃、あまりにも平和で慌ただしい子育ての日々に、怯えていることが急にバカバカしく思えてきました。偶然が重なっただけ。そう思っていた矢先のできごとでした。

 キッチンで夕食の準備をしていたとき、視界の端に黒い影が映った気がしたんです。

 え? と思った次の瞬間、私は包丁で手を切ってしまいました。

 そこまで大きなケガではなかったのですが、出血量がすごくてパニックになりました。

 ちょうどそのタイミングで夫が帰ってきたので、大事には至らなかったのですが、本当に怖い経験でした。


 こんなことがあったので、夫にも下の子の寝言について相談したのですが「考えすぎだよ。きっと疲れてるんだよ。今度の休みは俺が子どもの面倒を見るから、少し羽を伸ばしておいで」と返されました。

 夫の言う通り、少し疲れているのかもしれない。夫のやさしい言葉に、私は素直に甘えることにしました。

 ですが、息子の寝言に関しては、不安が拭えないまま日々が過ぎていきました。


 そして昨日。

 また、下の子が寝言を言ったんです。


「つぎはぱぱだって」


 眼の前が真っ暗になった気分でした。夫に何かあったら、私はどうしたらいいんでしょう。

 偶然かもしれない、考えすぎかもしれない、でも、本当に予言だったら?

 誰にも相談できなくて、どうしたらいいのかも分からなくて、不安で不安で仕方ないです。



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