表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/50

名前を呼ばれる

 父親の実家は、かなり田舎にあるの。周りは畑と山ばっかり。

 私にとって父親の実家に泊まりに行くのは、かなり憂鬱な年中行事だった。

 男の子だったら、自然の中で遊ぶのも楽しかったかもしれない。私だって小さい頃は、山も川も珍しくてはしゃいでた記憶があるけど、中学生にもなったら何も楽しいことなんてない。

 知り合いもいないし、見たこともない大きな虫もいるし、楽しい娯楽は何もないし。

 祖母が住んでる広い家の畳の上でゴロゴロしてるだけの時間を、暇と戦いながら過ごすだけって感じだった。

 両親も、祖父が亡くなってからひとりで暮らす祖母を気にかけて同居を勧めてたけど、祖母はずっと拒んでた。

 私としても、祖母が自宅に来てくれた方が田舎に泊まらなくて済むからありがたい。でも祖母はどうしても田舎を離れたくなかったみたい。


 私がうんざりしてたのは、田舎だけじゃない。

 私が小さい頃から祖母が言い聞かせていたことにも、もううんざりだった。


「夜に山の方から名前を呼ばれても、返事をしちゃなんねぇ。本当は、その声を聞くのもよくねぇ。それは、『名前を奪うもの』だから」


 小さい頃は、何か恐ろしい化け物を想像して、本当に怖かった。

 だから夜になるとすぐに布団に入って、母にしがみつきながら眠ったよ。たぶん、子どもを寝かしつけるためのおとぎ話だよね。

 そもそも『名前を奪うもの』って何? 名前を奪われたからって、どうなるっての??

 祖母は私が中学生になっても、夕方になると同じおとぎ話をくり返した。私は「はいはい」って感じで聞き流してた。


 祖母の家に滞在してると、昼間にやることがなさすぎてついつい昼寝しちゃう。

 だから自然と夜に目がさえちゃうんだよね。両親と同じ客間で寝てるんだけど、ふたりはすうすう寝息を立ててる。外からはカエルの鳴き声だとか、虫の声なんかが聞こえた。そうしてると、この世の中で目を覚ましているのは自分だけのような気分になってくる。


 寝付けなくて何度も寝返りを打ってたら、小さな声が聞こえた。


「アカリ……アカリ……」


 私の名前だった。

 え? と思った瞬間、私の心臓は跳ね上がった。

 かすかに聞き取れる程度の小さな声なのに、私は聞き間違いじゃないって確信してた。

 私の名前を呼びながら、声は徐々に近付いてきた。近付くにつれ、確信はどんどん強くなる。

「アカリ、アカリ、アカリ……」

 それ以外、何も言わない声。声はもう、すぐ近くまで来ている。雨戸のすぐ向こう側に、私の名前を呼ぶ何かがいる。

「アカリ、アカリ、アカリ……」

 感情のない、機会的な声。壊れてるみたいに、ただひたすら、私の名前を呼び続ける。

 何度も、何度も、何度も繰り返される。

 その声を聞いていたら、アカリっていう自分の名前が、まるで意味を失くしたただの”ア”と”カ”と”リ”っていう文字列になって、崩壊していくような気分になった。

 私は頭から布団をかぶって、強く強く目を閉じた。でも、何かが私を呼ぶ声は、容赦なく布団を突き抜けて聞こえてくる。


「アカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリアカリ……」


 気がついたら、朝になっていた。

 眠っていたのか、気絶したのか、私には分からなかったよ。でも寝起きとは思えないくらい体は重かったし、自分の体を見ても、自分のものだっていう実感が薄かった。

 のろのろと布団から起き出して居間に行くと、祖母がいた。両親は、外でご近所さんと話してるみたいだった。ちゃぶ台の上に、私の朝ご飯のおにぎりが置いてあった。

 私は祖母に「昨日、山から名前を呼ばれた……気がする」って伝えた。

 祖母はすごく驚いた顔をして、私の手を握ると、拝むみたいに両手に挟んだ。


「偉かったねぇ、返事をしなかったんだね。返事をしてたら、名前を奪われてたよ」

「名前を奪われるって、どういうこと?」

「名前を奪われるってのは、自分が自分じゃなくなるのさ。相手がアカリになって、アカリが相手になっちまう。そしたら、アカリは別の人の名前を奪いに行かなきゃなんねぇ」


 つまり、自分を失って、今度は私が誰かの名前を呼び続け、替わってくれる誰かを探しに行くってこと……? って思ったよ。

 この一件があってから、私はますます祖母の家に泊まりに行くのが憂鬱になった。本当、祖母がこっちに住んでくれないかなってずっと思ってる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ