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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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俺だけに聞こえる

 俺に特殊能力があったかもしれない話をする。

 いや、実際には特殊能力なんかじゃない。

 でも俺は、これで散々な目にあった。だからもし、俺と同じような特殊能力を持っていると思うなら、それは勘違いだから注意してもらいたい。

 高校生のとき、テスト中に突然、耳元で声がしたんだ。

「答えは、Cだよ……」

 男の声とも、女の声とも判断しにくい、小さな声。でもテスト中で静かだったから、その声はよく聞こえた。

 声がした瞬間、体が跳ねるくらいビックリした。テスト中だったからそんなにキョロキョロはできなかったけど、目を動かして見える範囲には誰もいない。みんな真面目に机に座ってテストしてるし、先生も離れたところを見回ってた。


「答えは、C」

 もう一度、聞こえた。テスト用紙に目を落とすと、俺がこれから解こうとしている問題は、答えがABCの三択だった。しかも、俺はその問題の解答が分からなかった。

 だから声に従って、解答欄にCって書いた。

 どうせ当たっても当たらなくても勘なんだから、聞こえてきた声を天からの声だと思うことにしたんだ。

 その後も、謎の声は俺の耳元でそっと解答を囁いた。

 正直に言って、俺は勉強ができるタイプではない。テストは基本的に空欄、もしくは当てずっぽう。

 そんな俺が、声の導きに従って空欄なく解答用紙を埋めることができた。


 そしてテストが返却されると、俺は最高得点を叩き出していた。

 むしろ俺が自信満々で答えた部分が間違っていた。いつもは赤点をギリギリ下回っているのに、今回は70点を超えていた。

 テスト返却のとき、先生には「勘が当たったな」って言われたし、友達からも「運を使い果たした」って言われた。まったく失礼な話だ。

 とはいえ、点数が良ければ母ちゃんの機嫌もいいし、俺も悪い気はしない。

 俺の耳元で正解をささやく声の主がなんなのかはちょっと気になったけど、親切な背後霊くらいに思ってた。むしろその親切心をもっと早く出してもらいたかったと思ったくらいだった。


 それからも、俺はテストのたびにその声に助けられた。

 最初のうちは「運が良かった」「勘がさえてた」「ヤマが当たった」と言っていた先生や同級生も、徐々に俺の実力を認め始めた。

 俺は、これは神から与えられし特殊能力だと思うようになっていた。

 幽霊なんかより、特殊能力の方がよっぽど信憑性がある。俺の特殊能力が、俺を正解へと導くのだ。そんな風に思ってた。

 俺はやがて、勉強をやめた。だって、勉強しなくても、声が正解を教えてくれるんだ。むしろ俺が解答すると間違ってることが多い。それなら勉強するだけ無駄ってもんだ。

 声に従ってると、全問正解してしまう。だから俺はあえて声と違う解答を書いて、不正してないっぽい感じを演出したりもした。


 俺はみるみる成績上位者になった。この特殊能力があれば、大学も楽に合格できる。大学には憧れがあったが、勉強するのはダルかった。でもこの特殊能力で、遊びまくりのキャンパスライフをゲットだ! って思ってた。しかも有名大学に入れれば、就職だって余裕だ。

 どうせ正解は、全部声が教えてくれる。受験勉強なんてしなくたっていい。

 みんなが必死に机にかじりついているのを横目で見ながら、俺は一切勉強せず、共通テストに臨んだ。


 共通テストはマークシートでめっちゃ楽。問題なんて、何が書いてあるのかちんぷんかんぷんでも、声に従ってちょいちょいって鉛筆で塗るだけ。

 俺は楽々と共通テストを終えた。先生から口酸っぱく「自己採点しろ」って言われてたから、全問正解なのは分かってたけど、とりあえず自分の解答をメモしてた。

 そんで翌日、新聞で共通テストの解答を確認すると……全部外れてた。


 は? 嘘だろ?! 俺は声に従って解答したはずだ!

 そう思って、何度も見直した。何度見直しても、どれひとつ合っていない。

 血の気が引く感覚ってのを、初めて味わった。体が鉛になったみたいだったよ。頭は真っ白。対して俺の顔が真っ青。母ちゃんにめっちゃ心配された。

 途端に、耳元で我慢しきれなかったような笑い声が聞こえた。

 その瞬間、俺は理解した。

 この声は、俺の人生のもっとも大事な瞬間に、俺を裏切るために正解を呟いていたんだ。


 当然だけど、何も勉強していなかった俺には、もうリカバリーする方法はなかった。

 親には浪人生になったらどうかと言われたが、勉強する気になれず、今はコンビニバイトをしてる。

 そして今も、俺の耳には俺を嘲笑うように

「なんで信じちゃったの?」

「大事なことは、自分で考えないと」

 って声が聞こえる。腹が立つし、文句のひとつでも言いたいが、人の目を考えるとそれもできない。俺はただ耐えるしかないのだ。


 だから、俺と同じ特殊能力を持っている奴、持った奴に、忠告する。

 それは特殊能力でもなんでもない。悪魔の声だ。絶対に信用するな。



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