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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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40/50

棚町さん

 私が中学生の頃、私のクラスにはたしかに棚町さんがいました。

 でも、棚町さんを見かけた人は誰もいませんでした。

 入学式を終えた後、それぞれの教室に向かいます。同じ小学校の友達と「同じクラスになれたね」なんて笑い合いながら、高揚した気持ちで教室のドアをくぐりました。

 先生が名前の順に生徒の名前を読み上げます。名前を呼ばれた生徒は立ち上がって、簡単な自己紹介をします。

 そうして高橋くんの自己紹介が終わった後、先生は名簿に目を通し、驚いたように目を見開きました。

 先生が生み出した沈黙は、私達に「あれ?」と思わせるには十分な時間でした。


「あー……棚町」


 先生は、その名前を口にしました。

 でも、返事をする生徒はいません。高橋くんの後ろは空席になっていました。

「あぁ、棚町は……欠席か」

 なんとも歯切れの悪い、先生の言葉。

 入学式の日に欠席するなんて、ひどい風邪でも引いたのかな? と思ったのを覚えています。


 その後も、棚町さんが学校に来ることはありませんでした。

 クラスでは「誰か、棚町さんを見た人いる?」とか「棚町さんと同小だった人いる?」みたいに、ときどき話題になっていました。

 同級生が「私のお姉ちゃんがこの中学に通っていた頃にも、クラスに棚町さんがいた」と言っていました。その棚町さんもずっと欠席していたそうです。

 中には、親の時代にも棚町さんがいたとか、棚町さんはこの中学の七不思議のひとつだとか言う人もいました。

 結局、中学1年生の間に、棚町さんは一度も学校には来ませんでした。


 そうして、私は中学2年生になりましたが、また、棚町さんと同じクラスでした。

 中学2年生の担任も、名簿を読み上げるときに棚町さんの番が来ると驚いたような顔をしました。そしておずおずと「棚町……」と点呼するのです。

 最初のうちこそ、学校にやって来ない棚町さんは話題にのぼります。棚町さんについての学校の怪談めいた話もいくつか聞きました。

 けれど体育祭や文化祭の時期になると、みんなの口に棚町さんの名前は出なくなりました。

 やっぱり、中学2年生の間にも、棚町さんを見ることはありませんでした。


 中学3年。中学校最後の年も、私は棚町さんと同じクラスでした。最初の点呼で、先生が棚町さんの名前を呼ぶ前に驚いた顔をする。そんなことも私にとってはもう、毎年の行事のようになっていました。

 私の他にも、棚町さんと3年間同じクラスになった子がいて、その子達は気味悪がって、棚町さんの話をしたがりませんでした。

 3年生になって引っ越してきた小野さんが、いつも欠席している棚町さんを疑問に思って、先生に「棚町さんはどうして学校に来ないんですか?」と聞きましたが、先生は「棚町は、その、特別なんだ」と言い淀んだっきりでした。


 先生の口から棚町さんについて語られることはなく、私達は誰も、棚町さんの姿も、棚町さんの家も知りませんでした。

 小野さんはその後も食い下がって、先生から棚町さんのことを聞こうとしていました。なんで小野さんがあんなにも棚町さんについて知りたがったのか、私は知りません。

 小野さんは小野さんなりに棚町さんについて調べ回っていたみたいですが、2学期になると棚町さんのことを言わなくなり、むしろ話題にするとひどく怖がるようになりました。

 だから、小野さんが棚町さんについて何か知ってしまったのか、それすらも分かりません。


 私は最後まで、棚町さんに会うことはなく中学を卒業しました。

 もらった卒業アルバムのクラス写真には「棚町玲子」の文字があり、本来顔写真が入る部分は白に塗りつぶされていました。

 私はこのとき初めて、棚町さんの名前が玲子だったことを知りました。ただ、それだけです。

 その後、同じ高校に行った子から、「◯◯ちゃんの弟のクラスに、棚町さんがいるらしいよ」と聞きました。

 棚町玲子とは、一体何者だったのでしょうか。



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