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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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ミセカケ窓

「ミセカケ窓って知ってる?」

 塾帰りのコンビニで、そう聞いてきたのはサトシだった。

 その当時、俺は小学6年生。サトシは同じクラスで、俺と同じ塾に通っていた。塾帰りにサトシとコンビニに行くのは、いつもの決まり切ったコースだった。


 俺はそのとき、ミセカケ窓って言葉を初めて聞いた。だからサトシに、ミセカケ窓が何なのかを聞いたんだ。

「何か、別の街が見える窓なんだって」

 サトシの話に、なんだそりゃと思ったよ。サトシは続けて「◯町の方に、ガラス工場跡があるだろ。外階段を上って、3階と4階の間にある割れた窓が、ミセカケ窓なんだって」と言った。

 ◯町にあるガラス工場には、広い1階スペースの奥に、小ぶりな4階建ての建物が残っている。ガラスが散乱しているし、建物もかなり傷んでる。母親には危ないから入るなって言われてるところだった。


「他の奴も誘ってさ、今度見に行ってみない?」

 サトシはイタズラっぽく笑って、俺を誘った。サトシも俺も、中学は私立を受験するから、卒業したら離れ離れになる。それに、その年の夏休みは夏期講習ばっかりで、思い出らしい思い出もなかった。

 勉強にうんざりしていた俺は、サトシの誘いに乗った。

 夏休みの間に遊べなかった友人にも声をかけて、俺とサトシを含めて5人でガラス工場に行くことになった。


 肝試しも兼ねていたとは言え、俺とサトシはやっぱりその日も塾だったから、集まるのは昼間だった。人数も多いし、明るいからぜんぜん怖くない。

 足元に転がるガラスの欠片を蹴りながら、工場内を進む。

 サトシが言ってたミセカケ窓は奥の建物にある。

 誰かが「あそこには従業員の休憩所や事務室があったんだって」と語っていた。俺達が生まれた頃には廃業していたが、両親やその上の年代だとガラス工場に勤めてたって人も少なくない。友人はそんな人から工場について聞いてたんだろう。


 4階建ての建物には、確かに外階段がついてた。

 すっかり錆びてボロボロになってて、穴が開いてるところもある。肝試しにはならなかったけど、この階段を上るのは度胸試しにはなったな。子どもとはいえ5人も乗ったら壊れるんじゃないか。そんな想像が俺の脳裏に浮かんだ。

 でも案外、大丈夫なもんだ。

 サトシを先頭にして、俺達はどんどん階段を上って行った。


 そうして、お目当ての窓にたどり着いた。

 それは3階と4階の間の、階段の踊り場にある窓だった。サトシが言った通りに割れていて、割れたところからは建物内の階段が見えた。たぶん、外階段は非常用の階段だったんだろうな。

「ホントだ、何か、街が見える!」

 友人のひとりが叫んだ。俺達はぎゅうぎゅうと押し合いながら、窓を覗き込んだ。

 通常なら、窓ガラスには室内の様子が透けて見えるか、反射して俺達の顔が映るかしたはずだ。

 でも実際には、見たこともない街の風景が見えた。それはテレビで見るような、昔の日本の風景に見えた。江戸時代とかそういう昔じゃなくて、昭和初期くらいかな? ちょっとレトロな感じの風景が、セピア色に滲んで見えた。


「誰かいる」

 食い入るように窓を見ていたサトシが、ぼそりと言った。

 サトシの言葉に、俺も窓に映る街をじっくり見てみた。たしかに、広い通りにポツリと立っている人影があった。帽子をかぶって、トレンチコートを着ているようなシルエットだった。

 しばらく立ち止まっていた人物は、やがて、じり、じり、と俺達の方に向けて歩き出した。


「こっちに来る! 逃げろ!」

 友人が叫んで、それを合図にしたように、俺達は階段を下った。

 ふと、俺はサトシがついてきていないことに気がついた。足を止めて振り返ると、サトシは魅入られたように窓を見つめていた。

「何やってんだよ、サトシ!」

 俺は階段を駆け上って、サトシの腕を引っ張った。窓を見ると、人影は窓いっぱいに迫り、サトシに手を伸ばそうとしてた。

 俺は渾身の力でサトシを引っ張って、窓から離した。足元のおぼつかないサトシを引っ張って、なんとか階段を下りきる。

 階段の下では、先に逃げ出した友人たちが心配そうな顔で待っていた。


 サトシはぼんやりしていた感じだったけど、俺達の言葉に反応は示した。でも「うん。……へぇ? うん、うん」みたいな感じの受け答えで、完全に上の空って感じだった。

 とりあえずその日は塾もあったし、俺達は早々に解散した。サトシに「また塾でな」って言ったけど、サトシは曖昧に「へへっ」って笑って、ふらふらと歩いていった。

 サトシが歩き出した方向はサトシの家の方だったから、サトシはビビって変になっちゃっただけだ、たぶん大丈夫だろうって思ってた。


 でも、サトシはその日、塾に来なかった。

 結局その後は学校にも来なくて、気が付いたときには引っ越ししてどこかに行っちゃってた。親にも聞いてみたけど、どうやら夜逃げみたいに引っ越したみたいで、誰も引っ越しの理由を知らなかった。

 ミセカケ窓は、子ども達の間ではまだ噂になってるみたい。この間、小学4年生の俺の子どももミセカケ窓の話をしてて、びっくりしたよ。

 ガラス工場跡はそういった噂を聞いて入り込む子どもがいるからってことで、今は敷地内に入れないようになってる。

 権利の問題かなんかで、取り壊すのは難しいらしい。



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