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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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廻り客

 一度だけ、不思議な体験をしたことがあります。


 大学生の頃に、友達に誘われて、彼の田舎に遊びに行きました。

 彼が言うには「この時期には、『廻り客』って風習がおこなわれるんだ」とのこと。季節は夏で、大学の授業が始まる前だったので、9月上旬だったかと思います。

 この『廻り客』というのは、目には見えないお客様のことです。彼の出身地では、この目に見えない客は山神の一種と考えられていました。

 年に一度、里に降りてきて、村人から歓待を受ける。そうして秋に実りを約束する。そういった風習のようでした。


 彼の故郷に着くと、家々の玄関には赤い手ぬぐいのような布がひらひらと舞っていました。玄関に布を飾るのは『廻り客』を迎える準備ができている、という合図だそうです。

 友達は「ほら、あれ」と言って、一軒の家を指さしました。

 他の家は赤い布をさげているのに対して、その家は白の布をさげていました。

「あの家が、今年の当番なんだよ」

 彼は言いました。


 この集落の全体で、『廻り客』を受け入れる準備はできています。赤い布をさげている家は、『廻り客』の来訪を喜ぶ家。

 そして実際に『廻り客』を迎えて歓待する家は、白い布をさげた家です。

 『廻り客』を迎える日に、集落の人々はひっきりなしにこの家を訪ね、家の住人はやってきた客を歓待します。そうして見慣れた集落の人々の中に、『廻り客』が混ざっているそうです。


 僕がこの集落についた翌日が、『廻り客』がやってくる日でした。

 友達は僕に「俺は親戚に挨拶したりするから、お前、ひとりで散策してこいよ。行く場所がなければ、あの家にいればいい。代わる代わる客がやってきて、話が聞けるぞ。村のジジババは、話を聞いてくれる若者なら大歓迎さ」と言って笑いました。

 彼は、僕がこういう風習が好きなのを知っていて、僕をこの集落に招待してくれたのです。

 僕は彼の言葉に従って、明日は白い布の家にお邪魔しようと思っていました。


 翌朝、僕はあまり迷惑にならない時間に、白い布の家を訪ねました。

 僕を迎えた家の人が驚いた顔をしていたので、僕は友人の誘いでここに来て、風習について聞きたいと伝えました。

 家の人はすぐに笑顔になって、僕を迎えてくれました。

 僕は広い客間に通されました。そこには座敷机が3つ繋げて置いてあり、机の上には料理が並べられていました。

 座敷机には座布団が並べられていましたが、その上座に紫の座布団が置かれていました。あれが『廻り客』専用の座布団なのでしょう。

 僕はその近くの座布団の上に腰をおろしました。


 ややして、友達が言っていたように、お客様がやってきました。軽く食事をしてすぐに立ち去る人や、酒を差し入れする人、僕に昔話をしてくれる人と、実に様々な人が来ます。

 採れたばかりのきゅうりを持ってきたおばあさんが、紫の座布団の席に置かれた杯にお酒を注ぎます。

 おばあさんは僕に向き直って、しわくちゃの顔で笑いました。


「若い人は変な風習だと思うだろ? でも、見えなくても来ているんだよ」


 僕は首を振って「変な風習じゃないですよ」と答えました。

 おばあさんは、ちょっと嬉しそうにしていました。

 僕はその後も、やって来る客たちと言葉を交わして、楽しい時間を過ごしました。


 僕はすっかり長居してしまっていました。

 客間にいた人達は僕を引き止めたのですが、もう夕方になっていました。さすがにこれだけ長居をしていたら、家の人に迷惑がかかります。

 僕は家の人にお礼を伝えました。家の人は少し困惑したような顔をしていて、やはりご迷惑だったかと反省しました。

 家の人に見送られて玄関を出たとき、友達がまさに玄関の戸を叩こうとしていました。


「あぁ、すみませんでした! 俺、今年の『廻り客』は中止になったって知らなくて」

 僕は、彼が何を言っているのか分かりませんでした。

「大丈夫だよ。私の番で止まってしまうのは申し訳なくて、『廻り客』を迎える準備だけはしてたんだ。彼が来たときには、本当の『廻り客』かと思ってビックリしたけれどね」

 家の人は、穏やかに笑っていました。


 中止になった? でも、僕は確かにあの客間で人々と会話をして……。


「ところで君、あの部屋で誰と話をしてたんだい?」

 自分が変な奴だと思われるのを承知で、僕は僕に起こったことの一部始終を話しました。


 翌日には、僕の話は集落中に広まっていたようです。僕は『廻り客』に会った人間として、好奇の目で見られ、お年寄りから拝まれたりしました。

 実は、この集落では高齢化に伴い『廻り客』を迎える家の負担が問題になっていたそうです。中止を求める声が大きくなり、この年から風習をやめることになっていたのです。

 そこに、僕が何も知らずに集落にやって来て、実際に『廻り客』とともに食事をしたのです。

 結果として、この風習は規模を小さくして、続くことになりました。


 これが、僕が小さな集落の風習を継続させることになった不思議な体験です。

 


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