見てたから
その当時勤めていた会社が激務だったのもあって、寝てるときに金縛りにあうことが多かったんだ。
私、怖がりだし、金縛りは心霊現象じゃないと思う。体は寝てるけど、脳が覚醒してる状態ってやつ?
でも不思議なもんで、おばけなんていないって思っても、何か気配は感じるの。気配がすると怖いから、心の中で読経するんだよ。ナンミョーホーレンゲキョって。
そうすると、なぜか金縛りが解けるんだよね。
で、何とか取った有給を使って、友達と3人で宮城に遊びに行ったことがあったのね。遊ぶ暇もなくて貯金はあったから、奮発して松島のホテルを予約したの。もう、いかにも日本って風景で、テンション上がったよね。緑も鮮やかで、空と海が青くて。
でさ、ホテルに3人で泊まると、一人はエキストラベッドとか、ソファーベッドになったりするじゃない? そのホテルは珍しくちゃんとベッドがあって、きれいに横に並んでたんだよね。部屋も明るくて広々してたなぁ。
ホテルで晩ごはんを食べて、大浴場を堪能して、明日の散策に備えて早めに寝ようってなった。
私は真ん中のベッドを使うことになったの。で、私の右側のベッドをAちゃん、左側のベッドをBちゃんが使ってた。
Aちゃんのベッドは窓側で、Bちゃんのベッドは出入り口側だったのね。
それでさ、案の定というか、運が悪いというか、私、金縛りになったんだよ。
えー、旅行中に金縛りになる?
どうしよう、どうしよう。
そんなことを考えてたらさ、足元に気配があるの。
その気配は、ベッドの上に乗ってきた。
でもその感覚が、人間のそれとはちょっと違う。
ベッドに、ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ、と4つの感覚。
犬みたいな、四つ足の獣だって思った。
しかも気配は1匹じゃない。もう1匹、ベッドに乗ってくる。獣は2匹いる。
わぁ〜〜、やばい、やばい!!
金縛り、早く解けてー!!
そう思って、私はいつもみたいに心の中でお経を唱えた。
でもなかなか、金縛りは解けない。その間もゆっくりと、四つ足の獣は私の顔の方に近付いてくる。早くこの状況を抜け出したくて、心の中では大絶叫でお経を唱えた。
そうしたら、ちょうど「ホーレンゲキョ」の「ゲキョ!!」で声が出て、私の体は金縛りから開放された。
深夜に私が「ゲキョ!!」って叫びながら飛び起きたから、Bちゃんがびっくりして悲鳴を上げた。
Bちゃんは「何、何、何?!」って叫びながら、電気をつけた。
私、もう平謝り。「ごめんね、ごめんね、私、怖い夢を見てて」って言い訳したよ。だってさ、金縛りにあってましたなんて言えないじゃん。しかも獣が2匹いたとか、絶対に言えないよ。
Bちゃんが「も〜、寝ぼけてたの? やめてよぉ〜」って泣きそうな声で言ってて、本当に申し訳なかったよ。
で、こんだけ大騒ぎしてるんだから、Aちゃんも起きてるでしょ? 謝らなくちゃって思って、Aちゃんの方を見たの。
そしたら、Aちゃんは鼻まで布団をかぶって、目だけがギョロリと開いてた。目は私じゃなくて、虚空を見てるって感じ。Aちゃんを見て、かなりビビったけど、Aちゃんもビビったのかもって思い直して謝ったよ。
「Aちゃんもごめんね、起こしちゃったよね?」って言ったら、Aちゃんはまばたきもしないで「うん、大丈夫」って答えた。その声があんまりにも平坦で、かなり不気味だった。
Bちゃんが「まだ3時だよ〜。寝よ、寝よ」って言って、電気を消した。私はちょっとAちゃんの様子が気になったけど、おとなしく寝たよ。
その後は金縛りになることもなく、無事に朝を迎えられた。
翌朝、ホテルで朝食を取りながら、私はふたりにもう一回謝ったの。
「昨日の夜は本当にごめんね。実は私、あのとき金縛りになってたんだ」
「そうだったの? 最近、金縛りにあうって言ってたもんね」
Bちゃんが心配そうな顔で私のことを見てた。
Aちゃんは食後のコーヒーを飲みながら、じっと私のことを見て、こう言ったの。
「うん、大丈夫。見てたから」
え? 見てたって、何を? 金縛りになってる私を? それとも……。
そう思ったけど、私はAちゃんの言葉の意味を探る気にはならなかったよ。だってこれで、おばけとか妖怪がいたって言われたら、怖いもん。
今、この話をしてて思い出したんだけどさ。泊まったホテル、けっこう眺望もいいホテルだったんだよ。
でも、誰も部屋のカーテンを開けなかったんだよね。窓の近くのベッドで寝てたAちゃんも、朝にカーテンを開けるってことはなかったな。
私達、無意識のうちにカーテンを開けることを避けてたのかな。
あのカーテンを開けてたら、何が起きてたんだろうなって、ちょっと気になるよね。




