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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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嘘つき

 俺には悪い癖があったんだ。

 同級生との飲み会の席で、わざと嘘をつくんだ。

「ほら、Aっていただろ? え、覚えてない? お前、めっちゃ仲良くしてたじゃん。一緒に木に登って、落ちて骨折したAだよ。本当に覚えてないの?」

 本当はAなんてやつはいない。

実際にあったエピソードと絡めて、絶妙な嘘をつくのが楽しいんだ。

 みんな程よく酔っ払ってるから、俺に合わせて「あぁ、A、いたなぁ。懐かしい。あいつって引っ越したんだっけ?」とかテキトーなことを言う奴もいて、それがまた楽しいんだ。

 そんな話をした翌日に、飲み会にいた奴から焦った声で「卒アル見たけど、Aなんていないぞ」って電話がかかってくると本当に愉快。

 心の中で「騙されてやんの」ってほくそ笑みながら、「え、マジでいたって。なんで卒アルに載ってねぇんだよ……」って真剣な声で返すんだ。そうすると相手は、たいていビビる。俺はあえて種明かししないんだ。まぁ、性格悪いよな。


 で、この間、中学のときの友達と飲み会やってさ。

 酒が進んで、いつもみたいに嘘をついて遊ぼうかなって思った頃、隣りに座ってたBが俺に話しかけたんだ。隣に座ってたけど、Bは俺とはそんなに仲良くなかったから、Bに話しかけられたのはちょっと意外だった。

「俺さ、小学生の頃に仲良かった友達がいたんだけどさ、そいつが急にいなくなったんだよ。家出とか行方不明じゃないぞ。存在そのものが消えちまったんだ。小学校の頃、一緒に遊んだ連中に聞いても、誰もそんな奴知らないって言う。卒アルにも載ってないんだ」

 なんか、俺がお遊びでつく嘘が、本当になったみたいな話だなと思って聞いてた。

 それまで遠くを見つめてたBが、急に俺に向き直って言った。


「でも、お前もそうだもんな」


 Bが言った言葉が、俺にはよく飲み込めなかった。だからBに聞き返したんだ。「俺もそうって、何が?」って。

 そうしたらBは「お前も、中学の頃に仲良かったCっていたじゃん? 最近、卒アルを見て気がついたんだけど、卒アルにCが載ってないんだ。あいつ、引っ越したりしてたっけ?」

 俺は確かに、Cという名前に聞き覚えがあった。

 むしろ、Bの口からCの名前を聞いて、一気にCの記憶がよみがえってきた。俺と同じソフトテニス部だったC。部活帰りに一緒にたこ焼きを買い食いしたC。夏休みにキャンプをしたり、仲間連中と初詣に行っておみくじで凶を引いてたC。

 俺とも仲が良かったけど、Cは天真爛漫で友達が多かった。この飲み会に参加してるメンバーの中にも、Cと仲が良かった奴が何人かいる。


 俺は思わず、飲み会のメンバーに「なぁ、Cっていたよな? ソフトテニス部だった、C。お前、俺達と一緒に初詣に行って、Cが凶引いたの見てゲラゲラ笑ってたじゃん。覚えてる?」って言った。

 一瞬しんとしてから、みんな一斉に笑い出した。

「お前、また同じ嘘かよ!」

「前も飲み会のときにそんなこと言ってただろ」

「毎回同じネタだと飽きるって。それにお前、みんな噂してんぞ。お前がつまんねー嘘つくって」

「いねーよ、Cなんて奴!」

 みんなから笑われながら、俺は「マジでいただろ、なんで覚えてねぇんだよ!」ってガチギレしたんだけど、結局Cなんていないって説得されるばかりだった。


 俺はCの存在がみんなから忘れ去られていることが信じられなくて、次の休みに実家に戻った。

 卒アルを確認してみたけど、Bが言うようにCは卒アルには載ってなかった。

 中2の夏休みにCが泊まりに来て、うちの庭でバーベキューをやったことを思い出して、親父とおふくろにそのときのことを確認してみたが、ふたりとも覚えてなかった。

 俺は気が狂いそうになった。俺は鮮明にCのことを覚えているのに、誰もCのことを覚えていない。と言うか、Cの存在すら確かじゃない。

 そこで俺はハッとした。

 Bだ。

 Cの話をしたのはBじゃないか。BはCのことを覚えているから、Cの話をしたんだ。なら、やっぱりCは存在している。


 俺は同級生に連絡して、Bの連絡先を聞いた。

 Bは俺の電話番号を知らないから、電話をかけても出ないかなって思ってたんだけど、3コールぐらいでBが電話に出た。

 俺はBに、Cが卒アルに載ってないこと、誰もCを覚えていないことを伝えて、何でBはCを覚えているのかを聞いたんだ。

 そうしたらBは、ちょっと笑いをこらえているような声で言ったんだ。


「お前、存在していない人間が実際に存在してるって嘘をつくけどさ、あれ、どこまでが嘘なんだろうな」


 電話はそこで切れて、その後は何度電話してもBが電話に出ることはなかった。

 なんとなくだけど、俺がついた嘘と、Bが言ってたいなくなった小学校の友達っていうのが、なんか関係あったのかなって思うんだ。

 Bとは小学校が違うから、俺はBの言ういなくなった友達が誰なのかは知らないけど、もし俺のついた嘘が本当になって、消えてしまった誰かがいるのだとしたら……って思うと、本当にゾッとする。

 つまんねー嘘なんてつくもんじゃないな。




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