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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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口の中

 いつからだったか、喉の辺りがちくちくするような、ガサガサするような、そんな感覚があったんだ。

 咳をするといくらかおさまるんだけど、しばらくするとまた違和感。

 病院にも行ってレントゲンを撮ってもらったりもした。でも異常なし。日常的に咳が出るってこともなかったから、ストレスが原因じゃないかって言われてた。

 ストレスが原因ってさぁ、働いてたらストレスなんて当然あるもんじゃん? 俺の職場、けっこう面倒くさい上司もいたしさ。ってことは、俺はこの喉の違和感とずっと付き合っていかなくちゃいけないのかなって思ってたんだ。


 でさ、この間、寝る前に歯をみがいてたときにさ。

 歯みがきって洗面台でやるだろ。洗面台には鏡がついてるじゃないか。だから、歯をみがいている自分の口の中が見える。

 その泡まみれの口の中で、何かが動いたような気がしたんだ。そして舌から喉へと何か小さなものが這う感覚もあった。

 口の中に虫が入ったんだと思って泡を吐き出したんだけど、洗面台には泡以外には何もなかった。

 急いで口をゆすいで、うがいもしてみた。虫は出てこなかった。喉がガサガサするのはいつものことだけど、もしかしたら虫が入っちゃったのかなと思ったら、かなり気持ち悪かった。

 とは言え何も出てこなかったから、俺は気のせいだって思い込むことにした。ちゃんと見たわけじゃないし、喉の違和感はいつものことなんだから、虫が入ったとは言い切れなかったし。


 ちょっとモヤモヤしたけど、その日はもう寝ることにしたんだよ。

 そしたら、夢を見た。

 暗い空間にいて、周りは何も見えないんだけど、俺以外にも誰かがいる気配。しかもひとりじゃなくて、複数人だ。

「ふう〜、さっきは危なかったな」

「まったく、気をつけろよ。バレたらどうするつもりなんだ」

「バレない、バレない。今までだってうまくいってるんだから」

「でも気をつけるに越したことはないよ」

 そんな会話をしている。

 その空間は洞窟みたいな場所らしくて、声は反響してたし、壁はちょっとぬめぬめと湿ってた。

「そんなこと言ったってさ、たまには冒険もしてみたいじゃん? ここは居心地がいいけど、外の世界も見てみたいんだよ」

「あ、待てよ、また行く気か?」


 そんな夢を見ている途中で、眠っていた俺は喉に猛烈なかゆみを覚えて目を覚ました。

 何度か激しく咳き込むと、口の中で何か小さいものがうごめく感覚があった。

 俺は飛び起きて、口の中のものが喉の奥にいかないように舌でガードしながら、慌てて洗面所に行った。歯みがきのときに口の中に入った虫が、夜になって出てきたんじゃないかって思ったんだ。

 で、洗面所の明かりをつけて、勢いよく口の中のものをプッと吐き出した。

 俺の口の中から出てきたそれは、洗面台に叩きつけられた衝撃のせいか動かなかった。


 それは、1センチくらいの小さな人間みたいに見えた。

 俺はまだ夢を見てるんじゃないかと思った。

 でも白い洗面台の上で倒れているそれが、ぴくぴくと動き出したとき、言いようのない恐怖が俺を襲ってきた。

 もうどうすればいいのか分からなくて、洗面台のゴミ受けを外して水を全開で流した。

 その小さな人間みたいなのは水と一緒に流れていった。ゴミ受けを戻して、5分くらい水を出しっ放しにしたよ。ジャバジャバ流れる水の音を聞きながら、それでもまだ夢の中にいるような気分だった。


 やっと気持ちが落ち着いてきて、俺はもう一眠りすることにした。

 うつらうつらとしていたら、さっきの夢の続きみたいなのを見た。

 やっぱり俺は真っ暗でじめじめした洞窟みたいなところにいて、俺の周囲にいる誰かの話を聞いているんだ。

「あいつも馬鹿だな。ここにいれば安全なのに」

「冒険心なんて、ろくなことになりゃしないよ」

「まったくだ」

 そんな感じの夢。


 この夢を見てから、喉の違和感はだいぶ軽減したんだ。ストレスの原因になってた職場も辞めて転職して、精神的な負担がなくなったのも良かったのかなって思う。

 でもあの夜、俺が見た小さい人間みたいなやつって何だったのかな。あれもストレスが見せた幻だったりしたのかな。だとしたら、ストレスってマジでヤバイよな。

 


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