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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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30/33

崩れる顔

 県外の国立大に合格して、私は高校卒業後にひとり暮らしを始めました。

 地元を離れるのがさみしくて、ひとり暮らしの家に高校の卒業アルバムを持って行ったんです。

 そしてときどき卒業アルバムを見返しては、さみしさを埋めていました。

 でもある日、気が付いたんです。

 個人写真のページってあるじゃないですか。正面からの顔写真の下にフルネームが記載されてるページ。

 その個人写真の、Aくんの顔が、他の人に比べて不鮮明な感じになってたんです。

 ノイズが入ったというか、少し崩れているように感じました。

 それまでに個人写真のページをそこまでしっかり見ていなかったので、「ここだけミスがあったのかな?」とか「私のだけ印刷ミスなのかも」って思って、そんなに気にしていませんでした。


 大学生活と慣れないひとり暮らしに翻弄されて卒業アルバムを開くことは徐々に少なくなっていきました。

 でも高校の友だちから連絡が来ると懐かしくて、卒業アルバムを眺めます。

 すると、Aくんの写真はさらに不鮮明になっていました。

 前よりもノイズが激しくなって、顔が崩れてしまったかのように左右の目の位置がずれ、口が歪んでいます。

 前に見たときは、こんなにひどくなかったはずです。

 私は気味悪く思って、個人写真のページを極力開かないようにしました。


 大学の友達が家に遊びに来て、私の卒業アルバムを見たいと言われたことがありました。

 私はAくんの写真のことが気になったのでやんわりと断ったのですが、どうしても高校のときの私が見たいと友達に言われてしまい、見せることになったんです。

 友達は私の個人写真を見ながらきゃあきゃあ楽しんでました。幸いなことにAくんの写真には気が付いていないようでしたが、私は見てしまいました。

 Aくんの写真はもっとひどくなっていました。

 今や目は頬の辺りに落ち、輪郭は溶けたようになり、口はなくなっていました。

 私はこの不気味な写真を友達に見られたくなくて、「後ろのページの方に、クラス写真もあるよ」と言って、ページをめくりました。

 友達が帰った後、私はなるべくAくんの写真を見ないように、彼の写真を付箋で隠しました。


 大学を卒業する頃に、高校時代の友達から連絡があり、地元で同窓会があるから来ないかと誘われました。

 私は大学のある県での就職が決まっていたので、これからは地元に戻る機会も減るだろうと思い、同窓会に参加しました。

 同窓会では懐かしい顔ぶれが揃っていました。みんなすっかり大人びていて、私も友達から「変わったねぇ」なんて言われました。

 この同窓会は3年生のときのクラス同窓会で、同じクラスだったほとんどの人が参加しています。

 しかし、私はAくんを見つけることができませんでした。


 私は幹事をやっていたBちゃんに「今日はAくんは来れなかったの?」と聞いてみました。

 するとBちゃんはさっと表情を曇らせて「そうか、県外にいたから知らないよね。Aくんね、病気で亡くなったの」と教えてくれました。

 Aくんと親しくしていた人達はAくんのお葬式に行ったそうですが、私はAくんとそんなに親しくなかったですし、実家に戻るのも年末年始だけでしたから、私の耳にはAくんが亡くなったという話は入らなかったのです。


 Aくんが亡くなったと聞いて、私の脳裏には卒業アルバムの個人写真のページがよぎりました。

 開くたびに崩れていったAくんの顔。

 今は付箋を貼って見えないようにしていますが、私はその付箋の下の顔がどうなっているのか気になって仕方ありませんでした。

 同窓会後、数日実家に滞在したのですが、その間も卒業アルバムのことばかり考えていました。

 なので、ひとり暮らしの家に戻ったときに、私はまっさきに卒業アルバムを確認しました。


 個人写真のページ、Aくんの写真は付箋で隠されています。

 その付箋を取るとき、私はすごくドキドキしていました。付箋の下を知りたいような、知りたくないような気持ちでした。

 私は思い切って、一気に付箋を剥がしました。

 付箋の下のAくんは、顔がすっかり崩れ去り、首から上には何もありませんでした。

 私の喉から、引き連れたような小さな悲鳴が出て、私は慌てて卒業アルバムを閉じると近くにあった雑誌にはさみ、ビニール紐でぎゅうぎゅうに縛ってゴミ捨て場に持っていきました。

 私が捨てた卒業アルバムは古紙回収の日に回収されてなくなっていました。

 あの個人写真は、Aくんの消えゆく命を表していたのでしょうか。



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