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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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パクった傘

 ちょっと懺悔したいから、聞いてくれ。

 この間コンビニに行ったとき、俺が買い物をしてる間に雨が降ってきたんだ。コンビニの扉を出たときに雨が降ってることに気付いて、思わず「げっ」って声が出たよ。

 しかも、大粒の雨が激しい音を立てて降ってたんだ。コンビニから俺の家までは5分かからないくらいだけど、確実にびしょ濡れになるだろうことが予測できた。


 俺は「ちょっと借りるだけだし」って、本当に軽い気持ちで、コンビニの傘立てからビニール傘を1本引き抜いた。

 こういう降り方をするときって、だいたい5分10分の間にザッと降るだけだ。だから雨はすぐに上がるし、傘の持ち主がコンビニを出る頃には、きっと雨は上がっている。

 そんな感じで、俺は自分に都合のいいことを考えたんだ。

 傘を開いて、雨の中を一歩踏み出した。

 その瞬間、俺の手は傘の柄に吸い付いたように動かせなくなった。

 驚く間もなく、俺の足が勝手に動き出した。

 雨の中を水たまりも関係なくバシャバシャと歩いていく。おかげでスニーカーもズボンの裾もすぐにぐしょぐしょになったよ。


 声も出せないまま、俺の足は小走りするようなスピードで、俺をどこかに連れていこうとした。

 心臓がバクバクして、呼吸も浅くなる。すれ違う人が怪訝な顔で俺を見てた。

 傘をさしていてもこんなスピードで進んでたら、傘の意味なんてほとんどない。

 俺の手は冷たい雨に濡れて、かじかんで感覚がなくなりつつあった。


 そうやってしばらく歩いて、誰もいない神社の前で俺の足は止まった。

 やっと止まったかと思ったのもつかの間。俺の足はぎゅいんと向きを変えて、神社の中に入っていった。

 社務所なんてない、古い小さな神社。木が鬱蒼と茂っていて、薄暗い。水が枯れて、落ち葉で埋まった手水舎を横目で見つつ、俺の足はずんずん参道を進んでいく。

 そしてボロボロの社の前で、今度こそ止まった。

 相変わらず体の自由が効かなくて、俺ははふはふ息を吐きながら、目だけキョロキョロと動かした。

 神社とは思えないくらい、重くて嫌な気配が漂ってた。


 動けないまま、何分くらいそこに立ってたんだろう。

 傘を持った俺の右手に、どろりとした感覚があった。視線を動かすと、赤黒いゼリー状のものが俺の右手を這っていた。

 そのゼリーみたいなのは、傘の骨が放射状に伸びてる真ん中の辺りから湧き出ていた。

 普通なら俺の手を伝って地面に落ちるはずなのに、そのゼリーは俺の手をたどって肘から肩へと向かおうとしてた。ゼリーが意思を持ってるみたいで、気持ち悪いし、すごく怖かった。

 俺は思わず絶叫した。

 絶叫したら体が動くようになって、傘を神社の賽銭箱に思いっきり投げつけた。

 腕にへばりついてたゼリーも払って、コンビニ袋も放って家に逃げ帰ったよ。

 家に帰り着く頃にはすっかり雨も上がって、雨雲の間から青空がのぞいてた。


 そんなことがあったんだけど、数日して、俺はもう一度あの神社に行こうと思ったんだ。

 なんだか傘のことが気になっちゃってさ。なんとなくだけど、ちゃんと傘を回収してコンビニの傘立てに戻した方がいいんじゃないかって思ったんだ。

 記憶を頼りに住宅街を抜けて、神社があった辺りまで行った。……だけど、神社はどこにもなかった。地図アプリで調べてみたけど、近くに神社なんてない。

 俺の現在地を知らせるマークのすぐ近くに、点線で囲われてるところがあった。地図アプリってさ、空き地になってるところって点線で囲われてるんだよ。

 俺は案内がないだけで、そこが神社かもって思って、行ってみることにしたんだ。

 でも、そこは本当に何にもない空き地で、雑草がぼうぼうに生えてた。

 その空き地の中心辺りに、骨の折れたビニール傘が一本、ぽつんと置いてあった。

 俺があの日、投げ捨てたビニール傘だって思った。


 傘を回収して……って思ってたけどさ、空き地の中にあるビニール傘が何とも異質で奇妙だった。俺は腕を這うゼリーの感触を思い出して、とてもじゃないけど拾いに行けなかったよ。

 俺は傘に向かって頭を下げて、空き地から走り去った。

 これが、俺の懺悔。

 やっぱり人の物を勝手に拝借するなんて、しちゃダメだよなぁ。



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