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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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一生の夢

 高校の倫理の時間に、先生がこんな質問をした。

「人は、死んだらどうなると思う?」

 高校で勉強したことなんてほとんど記憶に残ってないけど、この授業のことだけはすごくよく覚えてる。

 先生は俺達に5分くらい考える時間を与えて、クラスの端から順に、ひとりひとり答えさせていった。


「あの世に行く」

「新しい魂になる」

「生まれ変わる」

「何もない」

「光りに包まれて消える」


 そんな風に、みんな思い思いに答えてたけど、だいたいがあの世に行く、輪廻転生するっていうのをそれぞれの言葉で語ってる感じだった。

 俺も「次の場所に行く」って答えて、たぶんこれは輪廻転生に近い考え方かなって思った。

 そして回答の順番が早坂さんに回ってきた。

 早坂さんはクール女子って感じで、いつも物静かであんまり友達と一緒にいるのを見たことがない子だった。あんまり印象に残らない子だけど、意思の強そうな目をしたショートカットの似合う女の子だった。

 早坂さんは立ち上がって


「また、一生の夢を見る」


 って答えたんだ。

 先生が感心したような顔をして「一生の夢って、自分の一生の夢?」って聞いたんだ。彼女は頷いて「赤ちゃんから死ぬまでの、同じ一生の夢を見ます」って言った。

 それで回答は次の人に移ったんだけど、俺には早坂さんの言葉がすごく強烈に残ってさ。

 だから、授業が終わったあとに思い切って早坂さんに声をかけたんだよ。


「さっき言ってた、一生の夢を見るってやつさ、何かで読んだの?」

 急に俺から話しかけられて早坂さんはちょっと驚いた顔をしてたけど、別に嫌がる様子も見せずに答えてくれた。

「本で読んだわけじゃないよ。実際にそうなんだ」

「実際にそうって?」

「ちょっと、説明が難しいかな。眠っている誰かの、その夢の中に私達がいるって感じ。何回も、何回も、くり返すんだよ」

 早坂さんは窓の外を眺めながら、ぽつり、ぽつりとそう呟いた。俺に話しているというより、独り言みたいな感じだった。

 俺は早坂さんが何を見てるんだろうと思って、窓の外を見てみた。

 窓の外の景色は、ぽこぽこと雲が浮いてる青空だった。

 休み時間の終了を告げるチャイムが、空に向かって響いていくような、少し遠くに感じる音で鳴った。


「じゃあ、これも誰かの夢なのかな……」


 そう呟いた瞬間、俺はベッドの上で目を覚ました。

 時計を見るとまだ5時だった。でも目がさえて、ぜんぜん二度寝する気分にならなかった。

 倫理の時間が終わって、休み時間の終わりのチャイムが鳴って、そこからの記憶はなかった。倫理の時間は木曜日の3時間目だったから、その後も学校はあったはずだし、部活もあったはずだけど、俺には早坂さんと話してからの記憶がない。

 携帯を確認したら、ちゃんと次の日になってた。


 変なこともあるもんだなーって思いながら、俺はいつも通りに朝飯を食って学校に行った。

 なんとなく気になって早坂さんの席を見てみたけど、彼女は来てなかった。珍しく遅刻かなと思っていたら、先生が教室に入ってきて、早坂さんが昨日の下校中に交通事故で亡くなったって話をしたんだ。

 クラスは騒然となったし、俺もちょっと信じられなかった。

 昨日、初めて会話をした早坂さんが、今日にはもうこの世からいなくなってしまうなんて。


 そのとき俺は、ふと彼女の言葉を思い出した。

 赤ちゃんから死ぬまでの一生の夢を見る。

 眠っている誰かの夢の中に俺達はいる。

 何度も、何度も、くり返す。


 もしかしたら、早坂さんは、本当にそれを経験して知ってたんじゃないかな。なんて思った。

 早坂さんは、生まれてから16歳で交通事故にあって死ぬまでの夢を、一生の夢として、くり返し、くり返し経験してるのだとしたら……?

 でも彼女は、一生の夢をくり返し見ることを知っている。

 運命に逆らおうとしないのだろうか。あるいは、逆らうことを諦める程に、くり返してきた?

 そんなの、正気でいられるのかな。



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