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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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指をくれ

 あぁ、俺の左手?

 そう、あんまり動かないんだよ。ほら、上手く曲げられないんだ。痺れてて感覚もないよ。いや、別にケガをしたとか、病気とかじゃないんだ。

 話しても信じてもらえないかもしれないけど、不思議な夢を見るようになってから、徐々に動かなくなったんだ。


 半年くらい前かなぁ。

 夢の中に、男が出てきたんだ。肌が真っ白くて、ひょろっと背が高くて、髪の毛は生えてないし、服も着てない。左足もなかったなぁ。

 目鼻はあるんだけど、目の部分は目玉がなくて空洞になってて、口は閉じられないのか半開きだった。

 そして、そいつは指のない手を俺に差し出してきた。


「指、指、1本でいいから、くれ」


 俺は当然断ったよ。

 そうしたら今度は「じゃあ、目をくれ。右目だけでいい」って言う。もちろんそれも断った。次には腎臓がほしいと言われた。俺は断った。ならば左足をよこせ、と。

 男の要求を断ると「それならお前は俺に何をくれるんだ」って言ったから、「お前には何もやらない」って答えたんだ。

 男は空洞になった目でじっと俺を見つめた。

 そしてまた「指、指、1本でいい……」って言うんだ。俺が再度断ると、男は「早くよこした方がいい」と呟いた。


 その瞬間、俺は目を覚ましたよ。シャツがびっしょりと汗で濡れてた。

 気味の悪い夢だが、所詮は夢だ。俺はさして気にもとめてなかった。でも次の日も、同じようにその男は俺の夢に現れた。


「指、指、2本だ……よこせ」


 昨日と同じように俺は断った。男の要求は、指、右目、腎臓、左足と変わっていって、すべて断ると「やはり指だ、2本よこせ」と最初に戻って来る。

 それも断ると、男は昨日の夢と同じ捨て台詞を吐いて、俺は目を覚ます。

 2日連続で同じ夢だ。

 俺は疲れているから変な夢を見るのだろうかとも考えたが、夢見が悪い程度で仕事を休むのも大袈裟な気がして、いつも通りの日常を過ごした。

 そうして1日を終えてベッドに入ったとき、また同じ夢を見るんじゃないかと不安になったんだ。すっかり気が弱っていて、自分でも少し笑えたよ。さすがに3日連続で同じ夢は見ないだろう。

 そう思っていた俺の期待は、あっさり裏切られた。


 夢の中にまた男が出てきて「いいか? 指だ、指を3本よこせ」と言ってきた。俺は断ったよ。いつものように、要求は指、右目、腎臓、左足へと移る。

 男は空洞の目で俺をぐぅと覗き込んで言った。


「ならば、心臓か。心臓をよこすか。選べ、心臓か、指3本か」


 あまりに理不尽だったので、俺は男に怒声を浴びせた。でも男は俺を嘲笑って「お前にはもう選択肢はない。指をよこさないなら心臓をもらう」と言った。

 俺は心臓と指を天秤にかけた。まぁ、天秤にかけるまでもないよな。俺は仕方なく「指をやる」と答えた。


 すると男は俺の左手に、指のない手を伸ばした。親指、人差し指、中指に、冷たい何かが触れるような感覚があった。

 男は笑いながら「最初からよこしておけば、1本で済んだのになぁ」と言った。

 男の手に、すぅと指が3本現れた。親指、人差し指、中指。そして俺の左手からはその3本の指が失われた。

 男はニタニタ笑い、周囲に溶け込むようにして消えてしまった。


 俺は目を覚まして、自分の左手を見た。何のことはない。いつもの左手だ。夢の中で失われた3本の指もちゃんと動く。

 相変わらずすごい汗をかいてたけど、やっぱり夢だ。嫌な夢を見ただけだ。

 その日以降、夢の中に男は現れなかった。


 変な夢を見たことすら忘れた頃、俺の左手の3本の指が痺れるようになってきた。

 最初のうちはちょっとした痺れだったんだ。それが徐々に感覚がなくなって、上手く動かせないようになった。病院にも行ったが、原因は不明。

 気に病み過ぎだとは思ったが、神社に相談もした。ぽかんとした表情をされて、かなり恥ずかしかったよ。一応、お祓いみたいなのをしてもらったが、俺の指は動かないままだ。


 まぁ、こんな話だよ。

 夢の中の男が言うように、最初に指1本くれてやったら、3本も動かなくなるなんてことはなかったのかもしれないけどなぁ。

 俺は、あの男は夢を渡って、体のパーツを分けてくれる人間を探してるんじゃないかって思うんだよ。少なくとも、指や目、左足はなかった。腎臓もくれと言っていたから、腹の中身もないのかもしれない。

 俺が要求されたのは、基本的に2つ以上ある部位だったけどな。目だって右目しか要求されてない。でもこの先、あの男がどんどん体のパーツを手に入れていって、体に1つしかないものを要求したら、どうなると思う? 断っても、最終的には心臓との2択だぞ?

 俺はまだ、指だったからラッキーだったのかもしれないな。



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