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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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残された声

 俺が小さい頃の話です。

 俺は引っ込み思案で友達も少なく、いつもボッチでした。放課後も遊ぶ相手がいなくて、学校の校庭とか公園に行っても空しいだけだから、近所の神社によく行ってました。

 神社の本殿の辺りはお参りの人がいるから、俺はいつも本殿の周りの木が鬱蒼と生えている辺りをぶらぶらしました。本殿の方から細い道が伸びて、古い小さな社があったりして、周りの景色も相まって、ちょっとした冒険気分でした。


 その日も、いつもと同じように神社の中をひとりで遊んでいました。

 日が暮れるのが早くなった頃だったので、季節は秋だったでしょうか。俺はお決まりのコースを歩いて、面白い形の葉っぱを拾ったり、石を蹴って進んだりしてました。

 すると、どこかから声が聞こえてきたんです。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

「痛い、やめて!」

「もう帰るから!」


 当時の俺と同じくらいの年齢の子どもの声。

 声は切羽詰まった感じでしたし、言ってる内容もこんなだったので、俺は誰かがいじめられているんじゃないかと思って、すごく心臓がドキドキしたのを覚えています。

 俺はけっこう正義感が強い方で、もし誰かがいじめられてケガをしたりしてたら、助けてあげなくちゃと思ったんです。

 だから、赤い夕日が差し込む雑木林の中を、声の主を探して歩きました。


「まだかなぁ……」

「ひとりは怖いよ」

「お腹、空いたなぁ」


 今度は独り言のような声が聞こえます。

 声のした方に歩くのですが、誰もいません。

 俺は思い切って、声の主に話しかけました。


「誰かいるのー?」


 返事はありませんでした。

 その後も落ち葉をかさかさ鳴らしながら歩いたのですが、やはり声の主は見つかりません。やがて日が傾き、雑木林の中もだいぶ暗くなりました。いつの間にか誰かの声は聞こえなくなって、俺が落ち葉を踏む音と、カラスの鳴き声ばかりが響きました。

 神社の周りにある雑木林ですから、そんなに広い場所じゃありません。それなのに、いくら探しても声の主はいない。

 俺はなんだか怖くなって、その日はもう家に帰ることにしました。

 雑木林から出ようとしたときに背後から


「今日は許してあげるよ……」


 と声がしました。

 その声はさっきの声とは違って、暗い池のように落ち着いた声でした。振り返っても、声の主はいません。俺はゾッとして家まで走って帰りました。


 その日、夕食のときに親にその話をしました。

 母は「いやねぇ、その子、ちゃんと家に帰ったのかしら」と声の主を心配しているようでした。

 しかし父は、「うーん」と唸ってぽつぽつと語りました。

 父の家系は代々この辺りに住んでいるのですが、父が子どもの頃に遊び回って帰りが遅くなると、祖父母にこんな言葉で注意されていたそうです。


「暗くなる前に帰ってこないと、ノベリに食べられて声だけになっちゃうぞ」


 俺はそのとき、初めて『ノベリ』という言葉を知りました。

 父が言うには、この辺りに伝わる民間伝承みたいなもので、夕方を過ぎても家に帰らない子どもを食べてしまう妖怪だそうです。ノベリに食べられた子どもは、声だけがその場に残ると言われています。

 だから、俺が神社の雑木林で聞いた声は、ノベリに食べられた子どもの声だったのではないか、と父は言っていました。

 怖いのが嫌いな母は「気持ち悪い話をしないで」と父に怒ってました。


 でも俺は思うんです。あの切羽詰まった声や独り言はノベリにかつて食べられた子どもの声だったのではないか、と。

 そして、俺が雑木林を出るときに聞いた「今日は許してあげるよ」というのは、俺に向けたノベリの言葉だったんじゃないか。

 もしあの日、日が沈み切るまで俺が雑木林にいたら、俺もノベリに食べられて声だけになってしまったんじゃないか。

 そんなことを、今でも考えます。



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