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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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24/33

俺の彼女

 俺の彼女の話を聞いてくれ。違う、惚気話じゃない。……たぶん。


 俺には大学生の彼女がいるんだ。街を歩いてたら逆ナンされた。高校生の俺からしたら、大学生なんて大人だぞ。きれいなお姉さんからナンパされるなんて、夢なんじゃないかと思った。

 でもこれが、夢じゃなかったんだなぁ。マジで、俺に大学生の彼女がいる生活が始まったんだよ。些細なことで連絡を取り合ったりしてさ。俺にしても、初めての彼女だったから、もう毎日が楽しいのなんの。

 待ってくれ、だから惚気話じゃないんだってば!


 で、この間、ついに、彼女の家に泊まることになったんだよ!

 親には友達ん家に泊まるって誤魔化したけどさ、初お泊りだぞ。しかも彼女、ひとり暮らしなんだよ。これはもう、期待に胸も胸じゃないところも膨らむだろ。

 彼女の手作りの晩ごはんを食べてさ、一緒に映画を見てさ、シャワーを浴びて……。パジャマ姿の彼女もめっちゃ可愛かった。

 それでさ、俺ももう、ついに男として一皮むけるときが来たのかとドックンドックンしてたわけ。彼女の部屋にはベッドがひとつ。このベッドで一緒に寝るわけだよ。

 ベッドに腰掛けた彼女がさ「ちょっと暑いね」なんてパジャマのボタンを下からひとつ、ふたつ……って外したんだ。


 そしたら、彼女の腹に、もうひとつ彼女の顔があった。


 あぁ、そうだ、惚気話じゃないんだよ。俺だって、ただの惚気話だったらどんなに良かったか……。

 彼女の腹についた顔は、目を閉じて眠ってるみたいだった。

 確かに鼻も口もある。彼女の薄い腹に、彼女の顔にそっくりな、もうひとつの顔。

 俺がよっぽど驚いた顔をしてたんだろうな。彼女は苦笑しながら「あぁ、ごめん。驚かせちゃった?」なんて、何でもないことみたいに言うんだ。

「大丈夫だよ。何もしないから。そろそろ寝よっか」

 そう言って、彼女は俺の手を引いてベッドまで導いた。

 情けないかな、俺は何もできずに彼女の横に寝そべってるだけだった。期待に膨らんでいた胸も胸じゃないところもすっかりしぼんでた。


 それでも俺の右腕に腕を絡めるようにして眠っている彼女の安らかな寝息を聞いているうちに、俺もうとうとしてきて、いつの間にか寝てたんだな。

 右手の甲や指に何かが絡みつくような感覚がして、俺はうっすら目を覚ました。

 手を動かそうとしたんだけど、眠っている彼女がしっかりホールドしてて自由に動かせなかった。

 その間も、何か湿ったものが手の甲や指先に触れて、くすぐったいような、気持ち悪いような感覚だった。

 かすかに、ぺちょ、ぺちゃ、みたいな音もしてる。

 寝ぼけた頭で「何だ……?」と思ってたんだけど、電撃が走るみたいに、俺の右手が彼女の腹の辺りにあることに気が付いたんだ。


 気付いてしまったらもう、俺の手の甲を、指を、彼女の腹についた彼女の顔が、その舌で舐めているんだってリアルに想像できちゃって、一気に目が覚めたよ。

 下手に動いたら噛まれるかもしれない。噛まれるだけならまだしも、噛みちぎられるかもしれない。

 そう思ったら硬直したまま動けなくなった。

 噛まれることはなかったけど、しばらく俺の手はペロペロされてた。どのくらいの時間、舐められていたのかは分からないけど、俺にとっては気の遠くなるような時間だったよ。

 カーテンの向こう側が明るくなり始めた頃には、もう手は舐められてなかったんだけど、結局一睡もできなかった。

 やがてスマホのアラームが鳴って、彼女が目を覚まして、やっと俺の腕は開放されたよ。開放されて即座に自分の右手を見たけど、別に赤くなったり噛み跡があったりすることはなかった。

 とりあえずトイレに行って、めっちゃ手を洗ったよ。


 これが、俺と彼女のエピソードなんだけどさ。

 俺、これからどうしたらいいのかな。もちろん、まだその彼女とは付き合ってるよ。だって腹に顔があること以外は何の問題もない可愛い彼女なんだ。

 でもこれから先さ、もっと彼女との仲が発展したとしても……腹に顔がついてんだよな〜〜。

 どうしよう。別れを切り出すのも、何か怖いよなぁ。

 


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