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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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購入した故人の日記

 故人の日記が売られてるのって、知ってる?


 俺さ、個人経営の小さな古書店を巡るのが好きなんだよね。普通の本屋では見ないような古い本が所狭しと山積みになってる。あの感じがすごく好きなんだ。タイトルをざっと見て、気になった本を適当に買う。そんな楽しみ方をしてたんだ。

 で、そんな趣味が高じてさ、古書会館の古書展に行くようになったんだよ。

 古書会館での販売って、店で売れなかったり、そもそも売り物にするには難がある本が買えるんだよ。

 そう、例えば、故人の日記。

 本好きの人が亡くなるとさ、家族が蔵書の処分に困って、本棚の本を丸ごとごっそり売ることがあるのね。そういうのの中に、ときどき日記が混ざってたりするんだよ。


 それで俺は、古書展で黒い革表紙の日記を買ったんだ。

 最初は日記だと思わなくてさ、タイトルの分からない古い本だと思ってた。なんとなく手に取ってみたら、中身は青いインクで書かれた日記だって気付いたんだ。

 そんなものを購入できるチャンスなんて早々ないぞと思ったよ。まぁ、後から調べてみたら、けっこう故人の日記って売られてるらしいんだよな。


 俺は早速、購入した故人の日記を読んでみたんだ。

 日記の最初の方の日付は昭和6年になっていた。女性の日記だということは内容から見て取れたよ。友達が遊びに来たとか、知り合いから手紙が届いたとか、風邪を引いたとか、そういう些細な日々の生活が丁寧に書かれていた。

 書いている人が何歳くらいの女性かは分からなかったけど、その女性には孫がいるみたいだった。だから日記にはその孫について書かれていることも多かった。

 しかもその孫が、俺と同じヒロノリって名前だったんだ。


「2月9日 ヒロノリが公園で遊んでいたら転んでしまった。でも泣かずに立ち上がった。強く育っている。」

「3月12日 ヒロノリ、おたふく風邪になる。耳の下がふくれ、高熱。」

「4月10日 今日はヒロノリの入学式の日。晴れの衣装は少し大きくて、動きにくそう。門の前で口をへの字に曲げて不満そうにしている。」


 そんなことが書いてある。

 あぁ、俺も幼稚園の頃におたふく風邪にかかったことがあったなぁ、小学校の入学式ではブカブカのブレザーを着てムッツリと怒った顔の記念写真がアルバムに残っているなぁ、なんて思ってた。

 故人の日記の中のヒロノリの記録に、俺は自分自身の思い出を重ね合わせて、まるで俺自身の成長を誰かの目を通して眺めているような、そんな気持ちになっていたんだ。

 でも日記を読み進めて行くにつれ、日記の中のヒロノリと、俺の経験は奇妙な一致を見せ始めたんだ。

 例えば俺とヒロノリは木登りをしている最中に木から落ちて左足を骨折してる。しかもその日の日記の日付と、実際に俺が骨折した日が同じなんだ。俺が骨折した日は父の誕生日でケーキを食べられなかったのが悔しかった記憶があるんだ。


 しかもその日記は年をまたいでいない。つまり、ずっと昭和6年に起きたことを書いているにもかかわらず、ヒロノリは年齢を重ねているんだ。

 2月の日記で転んでも泣かないことを書いているということは、4月の入学式は尋常小学校の入学のはずだ。だけど6月の日記では、「ヒロノリの背は、私の背をすっかりと抜いてしまった」という文章がある。さらに8月27日の日記には「ヒロノリが18歳になった」と書かれていた。ちなみに、俺の誕生日も8月27日だよ。

 なんだか奇妙な気持ちだったよ。

 単純に最初だけ昭和6年と書いてあって、それからは年代を書かなくなっただけで飛び飛びに日記を書いていた可能性はあるけどさ。とはいえ、4月の日記でヒロノリは6歳で、8月の日記でヒロノリは18歳だ。12年だぞ? 同じ日記帳を使って、日記の続きを書こうって気になるか?

 

 気持ち悪いなと思いつつも、俺は日記を読むのをやめられなかった。

 その後もヒロノリの名前は何度も日記に登場したし、ヒロノリの経験と俺の経験は重なり続けた。

 日付はまた1月に戻った。昭和7年とは書かれていなかった。

 そして日付は、3月27日になった。その日は、古書展でこの日記を購入した日。まさに日記を読んでいる当日の日付だ。そしてその日が日記帳の最後のページだった。


「3月27日 ヒロノリにまた出会えた。ヒロノリが私を見つけてくれた。嬉しく思う。ヒロノリ、私はいつまでも貴方を見守っているよ。」


 その文章を読んだ瞬間、俺しかいないはずの部屋の中に誰かの気配を感じて、俺は家を出てゴミ収集所に日記を置いてきたよ。翌日がちょうど、ゴミの回収日だったから、誰かが出してたダンボールの中に日記をねじ込んできた。

 部屋に戻ってきてもまだ気配が残っているような気がして、部屋にはとりあえず塩をまいておいた。

 まぁ、こんな経験はしたけど、いまだに古書展に行くと故人の日記が欲しくなったりするんだよなぁ。



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