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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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19/33

御神体

 これは僕が、趣味でやっているフィールドワークで聞いた、とある土地の昔話です。

 僕は古い民話や口伝の話を集めるのが好きで、連休になると出かけていってはその土地に住む人に話を聞いてまとめています。

 聞いた話は伝聞調ではなく物語として記録しているので少し読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。



 今は合併されて市になってしまったが、この辺りがまだ村だった頃、一体は田んぼが広がるばかりの風景だった。

 その田んぼの中に、ポツンと神社がある。古い神社だ。誰もこの神社にどんな神が祀られているのかは知らない。

 小さな鳥居が設けられ、小さく古ぼけた社がある。それだけの神社。

 けれど村人はその神社に手を合わせ、家族の健康を、豊かな実りを祈っていた。

 古ぼけた社には、御神体として大きな石が祀られていた。石は漬物石のように丸く村人が慈しんで撫でるので表面はつるりとしていた。


 この御神体だが、時折ひとりでに動くことがある。

 御神体が動いているのを見たという村人は、ひとりやふたりではなかった。村人の八割が御神体が動くのを目撃していた。

 何の前触れもなく、昼もなく夜もなく、唐突にガタガタと何かに鳴動するように揺れ動くのだ。

 村の長老は「かつては御神体の石が動くのは天変地異の前触れと恐れられることもあったが、実際は天変地異が起こることはない。御神体はただ、動くだけだ」と語っていた。

 だからこの村にとって、御神体が動くのは何の不思議でもなく当たり前のことだった。


 しかしそれが当たり前になると、人は神に対する畏れの心が薄れるものである。

 その日、大工の与助は仲間と一緒に夜道を歩いていた。すっかり酔っ払っていい気分になっていたところである。フラフラとした足取りで歩いていると、例の神社が目に入った。

 どうだひとつお参りでもして帰ろうと千鳥足のまま神社に立ち寄る。すると御神体の石がガタガタと揺れ動いていた。

 与助と仲間はそれを見て芝居がかった口調で「これは御神体が悪霊に憑かれおる」などと言いながら、持っていた大工道具からノミと金槌を取り出した。

 仲間がゲラゲラと笑いながら見守る中、与助はエイヤッとノミを打ち付けて御神体の石を割ったのである。


 割れた御神体の石から、でろりと何かが出てきた。

 何だ何だと提灯で照らしてみると、割れた石からずぶ濡れになった山羊の胎児のような何とも奇妙なものが出てきていた。

 すっかり酔いが覚め、与助たちは固唾をのんでその奇妙なものを見つめていた。

 それはしばらくピクピクと動いていたが、やがてシンと動かなくなった。

 ビョォと生ぬるい風が吹いて、我に返った与助たちは慌てて逃げ出した。


 翌日、村は大騒ぎになった。

 御神体から出てきた何かはたった一晩で形が分からなくなるほど腐り落ち、辺りにはひどい悪臭が漂っていた。

 与助は神社に仕事道具を放り出して逃げ出したため、すぐに与助の仕業と知れ渡った。

 村人たちは御神体から出てきた何かを御神体の石とともに丁重に土に埋め、収穫した米などを供えた。

 しばらくは何か祟りがあるのではないかと恐れられたが、その後も別段不幸が起きたり天変地異が起きることもなく穏やかな日々が続いたという。

 御神体の正体が何だったのか、あの神社が何を祀っているのかは今をもってしても不明なままである。

 今では田んぼのあった地域は埋め立てられ、神社もどこかに移動されたようではあるが、移動された神社がどこにあるのかの記録は残っていない。



 何を祀っていたのかも分からず、今では神社がどこにあるのかすら分からなくなってしまったというのは、少し寂しい話だなと思います。

 御神体の中に山羊の胎児のような何かが入っていた。ということは、もしかするとその御神体がガタガタと揺れていたのは胎動だったのでしょうか。そうであるならば、御神体の石と思われていたものは、子宮のような役割を持っていたのかもしれません。

 山羊といえば、西洋には山羊の頭を持つバフォメットという悪魔がいます。

 村人たちが崇めていたのは、本当に神様だったんでしょうかね。



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