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もりとき怪談 第二集【一話完結/短編怪談】  作者: もりとき


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17/33

覗く者

 小さい頃、祖父母と一緒に古い家に住んでたんだ。

 風呂もない木造の平屋。母方の祖父母、母、姉、俺(うちには父親はいない)で住んでた。母が言うには、この家はいわゆる長屋で、母が子どもの頃にはこの家に3家族が住んでいたらしい。

 長屋を改造して一軒家になってるから、ちょっと不思議な構造をしてた。

 まず、道路に面したところに玄関があるんだけど、家の中程にも引き戸の玄関がある。これは引き戸が残っているだけで、木の板で打ち付けてあって開かないようになってた。

 姉が使っていた3畳の部屋にある障子を開けると土間になっていて、そこにも玄関扉があった。土間は物置になってた。

 そんな感じで、所々に長屋だった頃の面影が残ってる家だったんだ。


 母は女手ひとつで俺達姉弟を育ててたから日中は働いてて、俺達は祖父母に面倒を見てもらってた。

 ゲームとかもあんまり買ってもらえなくて暇だった俺は、よく家の中や家の周りを探検して過ごしてた。

 さっき言ったみたいな、長屋だった頃の名残を探すのがけっこう好きだったんだ。


 それで、俺達が寝室として使ってた部屋に、タンスに塞がれた扉があったんだよ。

 ふすまみたいな感じだったんだけど、小さな取っ手がついてて引いてみたらちょっとだけ扉が開いた。

 タンスに邪魔されて本当にちょっとしか開かなかったんだけど、俺はその扉の向こう側が見てみたくて顔の角度を変えたりして何とか覗いてみたんだ。


 扉の先に見えた風景は、ちゃぶ台が置かれた畳の部屋だった。使われてないって感じじゃない、むしろ人がいたんだ。着物に割烹着の母親らしき女の人と、その傍らに吊りスカートのおかっぱ頭の女の子。

 今思い返してみると、まさに昭和レトロって感じの風景が広がってた。

 でもここ、俺の家なんだよ。

 俺の家に、まだ長屋みたいに知らない家族が住んでるの? ってなった。そのときまで、扉を隔てた向こうに人が住んでるなんて、ぜんぜん気が付かなかった。

 俺はこの家族の様子をもっと見たくて、ちょっと強引に扉を引っ張ってみた。でもやっぱりタンスにつっかえて扉はたいして開かないのね。

 それでも頑張って見てたら、扉の向こうの女の子とバチッと目が合った。


「お母さん、誰かが覗いてるよー!」


 女の子がそう言ったから、俺は怒られると思って慌てて扉を閉めて、祖父母のいる茶の間に走っていった。

 祖父母に、この家に知らない家族が住んでるって伝えたんだけど、ふたりとも「それは昔の話で、今は私達しか住んでないよ」って言ってた。俺は自分が見たものを、上手く説明ができなかった。

 俺の様子を見て、祖母が「あんたは長屋の話、好きだもんね」って言って、古いアルバムを出してきたんだ。


 そのアルバムは、母の成長アルバムだった。生まれたばかりの母が若い頃の祖母に抱かれている白黒写真から始まって、写真はカラーになり、写真の中の少女も成長していく。

 俺はその写真を見て「あれ?」って思った。若い頃の祖母は扉の向こう側にいた割烹着の女性によく似ていた。そして写真の中で成長していく母は、やっぱり扉の向こうで見た女の子に似ていたんだ。

 だから俺は、「扉の向こう側にいたの、昔のおばあちゃんとお母さんだよ!」って叫んだ。


 ちょうどそのときに母が仕事から帰ってきて、俺は自分が扉の向こうで見たものを母に説明した。

「え? タンスで塞いでる扉の向こうって、使ってないトイレじゃなかった?」

「そうそう、前はそこにトイレがあったわよねぇ」

「私、あのトイレ怖くて苦手だったな」

「そう言えばあんた、小さい頃にトイレから誰かが覗いてるって言って、しばらくひとりでトイレに行けなくなったわね」

「ちょっと母さん、やめてよ、そんな小さな頃の話」

 母と祖母は、そんな話をして笑ってた。その後も昔話に花が咲いて、ふたりは楽しそうだった。


 母が子どもの頃に見た「覗いてる誰か」って、あの日の俺自身なんじゃないかって思うんだよね。たまたまあの日、あの扉を覗いた俺が過去の風景を見ていて、過去の母はあの扉の隙間から未来の俺を見たんじゃないかって思うんだ。

 ちなみにあの後もう一回、扉の隙間を覗いてみた。

 母が言ったように、扉の向こうはくすんだ水色のタイルの床にぽつんと便器が置いてあるトイレだった。

 俺が中学生の頃に、母が再婚して古い家は取り壊されて新しい家が建った。

 新しい家はきれいだし風呂もあったし、念願のひとり部屋もゲットできたけど、不思議な思い出のある古い家も大好きだったなぁ。



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