体育祭本番
「体育祭実行委員は武田さんと守山さんに決まりました。」
体育祭実行委員が決まり、私は先生の言っていることがわからなくて、ボーっとしていた。
タイイクサイジッコウイインハタケダサントモリヤマサン二キマリマシタっていいました?
体育祭実行委員は武田さんと守山さんってこと?運動が壊滅的な私がまず体育祭実行委員になることすらわからないんですけど。その日は、どよーんとした気持ちで学校を終えたのでした。
それから体育祭本番。私は早めに登校して、校庭に線を引いたり、カラーコーンを置いたりしていた。あ、プログラムも張らなくちゃ!私は生徒用テントの隣の壁にプログラムを張った。体育祭実行委員だから、種目の説明とかをしなくちゃいけないんだよね。その人が競技に出るときのために、交代でアナウンスをするようになっていて、私は開会式の時のナレーターと、最終種目のリレー(クラスの中でも10人、足が速い人が選ばれる)、それと、2年生の徒競走、3年生の障害物競走だ。私が出場する種目は1・2年合同のパン食い競争、あとは1年生の大縄跳びだ。全部で10個種目があって、多い人は4,3個ほどは出場するらしい。私は壊滅的に運動ができないから二個だけでよかったけれど、一番不安なのは大縄跳び。もしチームメイトに迷惑をかけてしまったらどうしようと思ってしまう。そう思っていると、体育祭が始まってしまった。慌てて体育祭実行委員の席に座る。そして、口を開いた。
『これから、プログラム一番、始業式を始めます。まず初めに準備体操です。河村先生お願いします』
ふぅ……。噛まずに言えた……。準備体操の音楽が流れて、みんなで準備体操を始める。
『選手宣誓。1年生代表・村山美玖。2年生代表・神代英治。3年生代表・高村兵賀。』
学年代表の選手宣誓の人が前に出る。神代先輩が前に出ると、みんなが黄色い悲鳴を上げた。
「「「私「僕たち、選手一同は、正々堂々戦い、お互いに助け合います。」」」
『素晴らしい選手宣誓をありがとうございました。では、プログラム二番・徒競走に参加する2年生は、準備をお願いします』
そして、徒競走が始まった。
「位置について。よーいドン!」
トップバッターは神代先輩と男の人2人、女の人1人。神代先輩たちが走り出すと、キャーキャーという声が上がった。か、神代先輩早すぎるっ……。一位でゴールする神代先輩に、少しドキッとした。なぜかあの日助けられてから、神代先輩を意識するようになった気がする。って、次大縄跳びだ!早くみんなのほうに向かわなくちゃ。私は小走りで一年生のほうに向かった。背の順で並んでいたので、身長が148㎝の私は一番前に向かった。周りからはちっちゃいってよく言われて、一見小学六年生に見えるけど、まだ中学1年生だし、伸びるはず。だよね?笛の音で、校庭の四つ角に分けられた。私はAクラスだから、校庭の上のほう。
「いっせいのーで!」
縄を回している人の掛け声で飛んでいく。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十!」
それから何回も飛んで、何とか200回飛んだ。一年生では大繩は一位になった。次は3年生の障害物競走。私はアナウンスをするために向かった。
『次は、プログラム5番、3年生の障害物競走です。参加者の3年生は、校庭の真ん中に移動してください。』
障害物競走では4つのステップがある。まず1つ目はネットを潜り抜けるステップ。これが案外難しい。ネットは案外大きくて、自分がどこにいるかとかを忘れてしまう。2つ目のステップはなわとびをしながら移動するもの。一回引っかかったらもう一回2つ目の一番最初のところに戻される。それで、またゴールを目指す。たくさん引っかかっているとどんどん差が開いていっちゃう。3つ目はフラフープを回しながら4つ目のステップがある場所まで目指す。これも2つ目のステップと同じ形式で、一回でも落ちたら3つ目のステップの最初のところに戻される。4つ目は普通に走る。これは全部理事長が考えて、1~3つ目のステップが大変で体力を削っている人も多いからあまりゴールする人がいないだろうということだった。こんなことを言うと失礼だけれど、理事長って意外と悪趣味なんだなって思っちゃった。でも親しみやすくて人気なのかも(?)あ、そろそろ始まる。
「いちについて、よーいドン!」
ドンの時に鉄砲の音が聞こえた。生徒用テントからは、応援する声がたくさん聞こえた。午前最後の種目だからかな。そろそろ12時なる。体育祭は5時ほどまで開催されるから、その次の月曜日は振り替え休日でお休みなんだ。12時になると一回休憩時間があって、お弁当を食べる。ピクニックに来たみたいでとっても楽しいらしい。らしいというのは私がこの神代学園に入学したばかりだから。あ、一番前の人、もう二つ目のステップに進んだみたい。そして、無事に午前最後の種目は終わったのでした――
「ねぇねぇ心菜。誰と一緒にご飯食べる?」
「わ、私⁉李由ちゃんと食べるよ。」
「ホント?やった~!うれしいな。」
私は李由ちゃんと一緒にご飯を食べ始めた。
「心菜、その卵焼きって手作り?」
「あ、うん。李由ちゃんのハムがついたアスパラガスも美味しそうだね。」
「そう?ありがとう。これ、弟が好きで、よく作ってるんだ。」
李由ちゃんと一緒に二人でキャッキャと話しをしていると、後ろから声が聞こえた。
「ねぇ、僕と一緒に食べない?食べる人がいないんだよね。」
振り返らなくてもわかる。この声はおそらく神代先輩。李由ちゃんの方を振り向くと、キラキラと目を輝かせていた。
「は、はいっ!ぜひ!」
思わず敬語になっちゃってる李由ちゃん。李由ちゃんのこんな一面を見ることはあまりないから、ちょっとびっくりしちゃった。みんなでブルーシートの上に座ってお弁当を食べる。私は、神代先輩のお弁当を見て目を見開いた。
「か、神代先輩、それ、なんですか?」
「あ、これのこと?ローストビーフだよ。」
ニッコリ笑顔でそういう神代先輩。ちょっと笑顔が怖いよ……。ローストビーフってあの?美味しいものっていうのは知ってるけど、1度しか食べたことはない。なんかバラみたいな形してるし……。
「美味しいですか?」
「うん。黒毛和牛だから。」
く、黒毛和牛……⁉食べたことはないけど、すごく高級とかは聞くよ。
「心菜ちゃん、その卵のやつ何?」
こ、心菜ちゃん……⁉その卵のやつって卵焼きの事かな?
「卵焼きですけど……。」
「へぇそうなんだ。始めて見たよ。」
た、卵焼きを始めてみた⁉神代先輩ってもしかして、私が思ってる以上にお金持ちなの?じ、次元が違すぎる……。というかお弁当にローストビーフ入れるのがすごすぎるよ……。
「もう、二人で話し広げないでくださいよ。心菜、そろそろ実行委員テントに行かなきゃじゃない?」
ちょっと頬を膨らませた李由ちゃんがそういった。実は私、前言った三競技のほかに、お昼休憩を終える放送もしなきゃいけないんだ。
「もう食べ終わったし、私は行くね。じゃあプログラム8番のパン食い競争で会おうね」
「うん。じゃあね、心菜」
急いで実行委員テントへと向かう。席に座りアナウンスをした。
『あと3分でお昼休憩を終えます。プログラム6番2・3年生の綱引きに参加する児童は各自並んでください』
ふわぁ……。いつ嚙んじゃうかとか悪い妄想ばっかりしちゃったよ~!これがあと1回で終わるんだとしたらもうキセキかもしれないっ……。急いで私は李由ちゃんのいる生徒用テントに向かった。
「李由ちゃ~ん!」
生徒用テントの全部の席を見回してみたけれど、李由ちゃんの姿はなかった。り、李由ちゃんいったいどこに行ったんだろうっ……。きょろきょろと周りを見回してみると、大きな杉の木の下で、李由ちゃんが誰かと話していた。あの人は……たぶん、学年が1つ上の中山累先輩。神代先輩とも仲のいい2年Bクラス。李由ちゃん、確か、中山君が好きっていってたな……。じっと見つめていると、李由ちゃんがうれしそうな顔をして、中山君と恋人つなぎをしてやってきた。こ、恋人つなぎっ……。本とかでは読んだことはあるけれど、生にみるのは初めてだよっ。どうやら李由ちゃんは私に気づいたみたいでパッと手を離した。
「こ、心菜……。」
いつもクールな李由ちゃんが顔を真っ赤にしてる姿が可愛くて、思わずほおが緩んじゃった。
「ふふっ、お幸せに。」
「ちょっと心菜、からかわないでよ!も~。心菜だって彼氏できたらこうなるんだからね!」
いやぁ……そもそも私は可愛くないしモテないから彼氏はできないと思うっ……。そう口に伝えると、わけのわからないことを言われた。
「心菜……。これだから無自覚は。神代先輩から好意だだ漏れだっていうのに。鈍感すぎよね。」
「へぇ。英治って武田のことが好きなんだ。うちの学年でも武田は、恋人百人!とか、恋愛百戦錬磨!とかいううわさが広がってるんだけど、実際は違うんだね~」
「ちょ、それを累は信じるわけ?」
「信じてたやつもいたけど、今結果わかったし。」
「何そのあいまいな答え!」
言ってることは全然わかんないけど、二人の仲が順調って事がわかった。そして、最終種目のリレーに。私は放送をするために体育祭実行委員席へと向かった。




