第六話 光を宿す水晶
翌朝――。
窓から差し込む柔らかな朝日が、ミリアの部屋を優しく照らしていた。
庭からは小鳥たちのさえずりが聞こえ、風に揺れる木々の葉が、さらさらと心地よい音を奏でている。
目を覚ましたミリアは、窓の外を眺めながら大きく伸びをした。
「いいお天気……。」
思わずこぼれた言葉に、小さな笑みが浮かぶ。
この世界へ転生してから、まだ数日。
それでも毎朝見る景色が、少しずつ「自分の日常」になってきていることを感じていた。
(今日は魔法のお勉強の日……。)
昨日は、ユーリ先生からタルトミア王国や周辺諸国について教わった。
知らないことばかりだったけれど、地図を見ながら話を聞いているだけで、まるで自分も旅をしているような気分になった。
そして今日は、その世界で当たり前のように使われているという「魔法」について学べる。
(ゲームや物語で見てきた魔法とは違うのかな。)
(本当に私も使えるようになるのかな。)
胸が期待でいっぱいになる。
急いで身支度を整え、フィーネに案内されて食堂へ向かった。
食堂には、すでに家族が揃っていた。
「おはようございます。」
ミリアが一礼すると、父リンフォルが穏やかな笑みを向ける。
「おはよう、ミリア。」
「昨夜はよく眠れたかい?」
「はい!」
「ぐっすり眠れました!」
母ミルティアも優しく頷く。
「それは良かったわ。」
「体調もすっかり良さそうね。」
「ありがとうございます、お母様。」
席に着くと、焼きたてのパンの香ばしい香りがふわりと鼻をくすぐる。
湯気の立つスープ。
新鮮な野菜のサラダ。
テルファメート領自慢のチーズとバター。
彩り豊かな朝食が、食卓を華やかにしていた。
前世では、こんなにゆっくり朝食を囲むことはほとんどなかった。
仕事へ行く準備をしながら慌ただしく食べたり、コンビニで買ったパンを車の中で済ませたり。
だからこそ、この穏やかな時間が、とても新鮮に感じられる。
「昨日のお勉強はどうだった?」
リンフォルがパンを口に運びながら尋ねた。
その一言を待っていたかのように、ミリアの表情がぱっと明るくなる。
「すごく楽しかったです!」
「タルトミア王国のことや、周りの国のお話をたくさん教えていただきました!」
「ほう。」
リンフォルは嬉しそうに頷いた。
「もう我が領地のお隣ダーガトーク王国のお話も聞いたのかな?」
「はい!」
「山に囲まれた騎士の国なんですよね!」
「その通りだ。」
リンフォルは満足そうに微笑んだ。
「テルファメート家はダーガトーク国の隣に位置する辺境の領地を治める貴族だからね。」
「自分の国だけでなく、他国を知ることも大切なんだ。」
ミリアは真剣な表情で頷く。
「はい!」
昨日ユーリ先生も同じようなことを話していた。
国は一つでは成り立たず、それぞれの国が支え合って暮らしている。
だからこそ、他国を知ることは大切なのだと。
「今日はその続きで、魔法について学ぶんです!」
そう言うと、兄リンタスクがにっこり笑う。
「それは楽しみだね。」
「魔法は最初こそ難しく感じるかもしれないけれど、焦る必要はないよ。」
「みんな最初は初心者だからね。」
「うん!」
ミリアは元気よく返事をした。
その様子を見ながら、母ミルティアも優しく口を開く。
「分からないことがあったら、そのままにしないこと。」
「遠慮せず、ユーリ先生へ聞くのですよ。」
「はい、お母様!」
リンフォルも穏やかな表情で続ける。
「魔法は便利な力だ。」
「だが、本当に大切なのは力そのものではない。」
「どう使うかを学ぶことだ。」
その言葉に、ミリアは静かに頷いた。
(どう使うか……。)
前世でも、便利なものはたくさんあった。
スマートフォンも車も、使い方を間違えれば誰かを傷つけることがある。
きっと魔法も同じなのだろう。
便利だからこそ、正しく学ばなくてはいけない。
そんなことを考えながら朝食を終えると、フィーネが椅子を引いた。
「それでは、お嬢様。」
「そろそろ勉強部屋へ向かいましょう。」
フィーネと並んで歩く廊下には、朝のやわらかな陽射しが差し込んでいた。
窓の外では、庭師たちが花壇の手入れをしている姿が見える。
色とりどりの花々は朝露をまとい、風が吹くたびに小さく揺れていた。
「今日は、本当に良いお天気ですね。」
フィーネが穏やかに微笑む。
「はい。」
ミリアも窓の外を見つめながら頷いた。
「なんだか、お勉強日和って感じがします。」
「ふふっ。」
フィーネは小さく笑う。
「きっとユーリ様も、お嬢様がいらっしゃるのを楽しみにされていますよ。」
「そうだと嬉しいな。」
そう答えた、その時だった。
「ミリアー!」
聞き慣れた元気な声が耳に届く。
ふわりと金色の光が舞い、小さな妖精が嬉しそうに飛んできた。
「おはよう!」
「おはよう、ライト。」
ミリアは口元をほころばせ、小さな声で返事をする。
「今日は魔法のお勉強だね!」
ライトは目をきらきらと輝かせながら、ミリアの周りをくるくる飛び回った。
「昨日の夜、ずっと楽しみで眠れなかったよ!」
「そんなに?」
「うん!」
ライトは勢いよく頷く。
「だって、ボク、お勉強なんてしたことないんだもん!」
「昨日だって、知らないことがいっぱいあってびっくりしたし!」
「だから今日も、ミリアと一緒にお勉強する!」
胸を張る姿に、ミリアは思わず笑みを浮かべる。
「一緒に頑張ろうね。」
「うん!」
ライトは嬉しそうに羽をぱたぱたと動かした。
「今日はちゃんと静かに聞くから!」
「本当?」
「……たぶん。」
「もう。」
思わず笑ってしまう。
「お嬢様?」
フィーネが不思議そうに振り返った。
「何かございましたか?」
「あっ……。」
ミリアは慌てて首を横に振る。
「お花がとてもきれいだなって思って。」
「ええ。」
フィーネも庭へ目を向ける。
「春は、このお庭が一番美しい季節ですから。」
やがて二人は勉強部屋の前へたどり着いた。
フィーネが静かに扉をノックする。
「ユーリ様、お嬢様をお連れいたしました。」
「どうぞ。」
落ち着いた声が返ってくる。
部屋へ入ると、昨日と変わらず、本棚いっぱいの書物が迎えてくれた。
窓から差し込む朝日が本棚を照らし、落ち着いた空気が部屋全体を包んでいる。
「おはようございます、お嬢様。」
ユーリが穏やかな笑みで一礼した。
「おはようございます、ユーリ先生。」
ミリアも丁寧に挨拶を返す。
「本日もよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ。」
ユーリは優しく頷いた。
「昨日は、この国や世界について学びましたね。」
「はい!」
ミリアは元気よく返事をする。
「知らないことばかりで、とても楽しかったです!」
「それは何よりです。」
ユーリは嬉しそうに微笑んだ。
「知ることを楽しめるというのは、とても素晴らしい才能です。」
「では今日は、その続きになります。」
そう言うと、一冊の教本をゆっくりと開いた。
ページいっぱいに描かれていたのは、大地を流れる光の筋。
それは川のようにも、風の流れのようにも見える、不思議な絵だった。
「今日は、この世界を支える不思議な力――魔法について学びましょう。」
ミリアは自然と背筋を伸ばした。
「魔法とは、不思議な力。」
「そう考える人も少なくありません。」
「ですが、本当は少し違います。」
ユーリはゆっくりと窓の外へ視線を向けた。
庭では風が吹き、花が揺れ、小鳥たちが楽しそうにさえずっている。
「お嬢様。」
「今、お庭では何が見えますか?」
突然の問いかけに、ミリアは窓の外へ目を向ける。
「花が咲いています。」
「木もあります。」
「風が吹いています。」
「鳥も飛んでいます。」
ユーリは優しく頷いた。
「その通りです。」
「では、その花は、なぜ咲くのでしょう。」
「えっ?」
ミリアは少し考え込む。
「太陽の光を浴びて……。」
「水を飲んで……。」
「土から栄養をもらっているから……でしょうか。」
「素晴らしい。」
ユーリは嬉しそうに頷く。
「花は、自分一人の力だけでは咲けません。」
「太陽、大地、水、風――。」
「自然の恵みを受けることで、美しく花を咲かせることができるのです。」
ミリアは静かに耳を傾ける。
「人も同じです。」
「人は決して一人では生きられません。」
「空気を吸い、水を飲み、食べ物をいただき、自然の中で命を育みます。」
「そして、この世界に満ちる生命エネルギーもまた、人々の暮らしを支えています。」
「生命エネルギー……。」
聞き慣れない言葉を、ミリアはそっと口の中で繰り返した。
「生命エネルギーとは、この世界のあらゆるものに宿る命の流れです。」
「空にも。」
「大地にも。」
「草木にも。」
「水にも。」
「風にも。」
「そして、私たち人間にも流れています。」
部屋が静まり返る。
その静けさの中で、窓の外から吹き込む風だけが、そっとカーテンを揺らした。
「魔法とは、その生命エネルギーを無理に支配する力ではありません。」
「世界に流れる生命エネルギーと、自分の生命エネルギーを調和させ、その力を少しだけ借りる技術なのです。」
ミリアは思わず目を輝かせた。
「世界と……一緒に魔法を使うんですね。」
一瞬、ユーリは驚いたように目を見開いた。
そして、穏やかに微笑む。
「ええ。」
「まさに、その通りです。」
「世界と共にある。」
「それこそが、この世界の魔法なのですよ。」
「うん!うん!」ライトも、嬉しそうに何度も頷いていた。
もちろんライトの声はミリアにしか聞こえない。
ミリアはそっと窓の外を見つめた。
花が揺れる。
風が吹く。
木漏れ日が大地を照らす。
昨日ライトと歩いた庭が、今までとは少し違って見えた。
世界は生きている。
その世界と心を重ねることが、魔法なのだ。
そんな気がした。
「はい!」
ミリアは、もう一度机の上へ目を向けた。
朝日を受けて輝く、透明な水晶。
さきほどから気になっていたその美しい球体が、静かに光を反射している。
「先生。」
ミリアはそっと手を挙げた。
「その水晶は、何に使うんですか?」
ユーリは優しく微笑んだ。
「良い質問ですね。」
そう言うと、水晶を両手でそっと持ち上げる。
「これは、属性判定に用いる魔導具です。」
「属性判定……。」
聞き慣れない言葉に、ミリアは小さく首を傾げた。
「先ほどお話ししたように、この世界には生命エネルギーが満ちています。」
「ですが、人によって生命エネルギーの流れ方には、それぞれ違いがあります。」
ユーリは教本を開く。
そこには六つの紋章が、美しい彩色で描かれていた。
赤。
青。
緑。
茶。
白。
黒。
「これが六つの属性です。」
「火・水・風・土・光・闇。」
「生まれ持った生命エネルギーの性質によって、人はそれぞれ得意な属性を持っています。」
ミリアは真剣な表情でページを見つめる。
「誰でも全部使えるんですか?」
その問いに、ユーリは穏やかに頷いた。
「基本的な魔法であれば、努力によって扱えるようになる方もいます。」
「ですが、一番力を発揮できるのは、自分の属性です。」
「得意な属性ほど少ない魔力で大きな力を発揮でき、逆に相性の悪い属性では、多くの魔力を消費してしまいます。」
「だから、自分の属性を知ることは、とても大切なのです。」
「なるほど……。」
ミリアは前世を思い出す。
(得意科目みたいなものかな。)
(数学が得意な人もいれば、国語が得意な人もいるような感じ?)
そんなことを考えていると、ライトが耳元で小さく囁いた。
「ミリアは何色かな?」
「ボクは光だと思う!」
「なんとなくだけどね!」
胸を張るライトに、ミリアは思わず笑ってしまう。
ユーリは水晶を机の中央へ置いた。
「では、お嬢様。」
「実際に、ご自身の属性を見てみましょう。」
その一言で、部屋の空気が少しだけ引き締まる。
「緊張しなくても大丈夫ですよ。」
ユーリの穏やかな声に、ミリアは小さく息を吐いた。
「この水晶は、体内の生命エネルギーへ反応し、その人の属性を色として映し出します。」
「難しいことは何もありません。」
「普段通りの気持ちで、水晶へ両手を添えるだけです。」
「……はい。」
返事はしたものの、胸はどきどきしていた。
(もし何も光らなかったらどうしよう。)
(私だけ魔法が使えなかったら……。)
そんな不安が胸をよぎる。
すると、ライトがふわりと肩の高さまで飛んできた。
「大丈夫!」
「ミリアなら絶対できるよ!」
満面の笑みで親指を立てる。
その姿に、自然と肩の力が抜けた。
「ありがとう、ライト。」
小さく微笑み、ミリアはゆっくりと席を立つ。
フィーネも少し離れた場所から、優しく見守っていた。
「きっと大丈夫ですよ、お嬢様。」
その言葉にも背中を押される。
ミリアは深く息を吸い、水晶の前へ立った。
透明な球体には、自分の少し緊張した顔が映っている。
「まずは、心を落ち着けましょう。」
ユーリが静かに語りかける。
「呼吸を整え、自然体で。」
「何かを起こそうと力む必要はありません。」
「ありのままの、お嬢様でいてください。」
ミリアは静かに目を閉じた。
一度、大きく息を吸う。
そして、ゆっくりと吐く。
心臓の鼓動が、少しずつ落ち着いていく。
「それでは。」
ユーリが優しく促した。
「両手を、水晶へ。」
ミリアはゆっくりと目を開き、そっと両手を水晶へ添えた。
部屋が静まり返る。
誰も言葉を発しない。
聞こえるのは、窓の外を吹き抜ける風の音だけ。
ライトも羽ばたくのをやめ、小さく息を呑んで見つめている。
その瞬間――。
透明だった水晶の奥で、小さな光がふわりと灯った。
「……!」
やがてその光は、雪のようにやさしく、温かな白い輝きへと変わっていく。
「光属性でございますね。」
フィーネはほっとしたように微笑んだ。
ユーリも穏やかに頷く。
「お嬢様は、光属性のようですね。」
ミリアはほっと胸をなで下ろいた。
(ちゃんと光った……。)
安堵した、その時だった。
白い光の奥から、もう一つの輝きが静かに生まれる。
それは朝日のように温かく、夕焼けよりも神秘的な――
黄金色の光だった。
光はゆっくりと水晶の中いっぱいに広がり、やがて球体からあふれ出すように部屋全体を照らし始める。
「これは……。」
ユーリの声が止まる。
「……えっ。」
フィーネも思わず目を見開いたまま、その幻想的な光景に見入っていた。
ライトも羽を止め、小さく呟く。
「……きれい。」
黄金の光は、まるで部屋全体を優しく包み込むように揺らめき、誰の心にも温かな安らぎを与えていた。
黄金色の光は、まるで朝焼けのように部屋全体を優しく包み込み、しばらくの間、誰も言葉を発することができなかった。
やがて、その神秘的な輝きは少しずつ淡くなり、黄金色は白い光へと溶け込むように消えていく。
最後には、水晶は何事もなかったかのように、再び透明な姿へ戻っていた。
部屋に静寂が訪れる。
「……お嬢様。」
最初に口を開いたのはユーリだった。
穏やかな表情は崩していないものの、その青い瞳には驚きが隠しきれていない。
「光属性であることは間違いありません。」
「ですが、先ほどの黄金色の輝きは……私も初めて目にしました。」
ミリアは少し不安そうに水晶を見つめる。
「何か、悪いことだったんでしょうか……。」
するとユーリは、すぐに首を横へ振った。
「いいえ。」
「少なくとも、お嬢様の体に異常は感じられません。」
「それに、水晶も壊れてはいません。」
そう言って、水晶を静かに持ち上げる。
透明な輝きは先ほどと何一つ変わらない。
「私にも理由は分かりませんが、今は深く気にする必要はないでしょう。」
優しく微笑みながら、水晶を机へ戻した。
「さて。」
空気を和らげるように、ユーリは小さく手を合わせる。
「属性も分かりましたので、最後に一つだけ魔法を体験してみましょう。」
その言葉に、ミリアは目を輝かせた。
「魔法を……使えるんですか?」
「はい。」
「難しい魔法ではありません。」
「光属性を持つ方なら、最初に学ぶ基礎の魔法です。」
ライトも嬉しそうに宙返りをする。
「やったぁ!」
「いよいよ魔法だ!」
もちろん、その声は誰にも聞こえない。
ユーリは窓を少しだけ開けた。
爽やかな風が部屋へ流れ込み、カーテンを優しく揺らす。
「先ほどお話ししたことを思い出してください。」
「魔法は、自分だけの力ではありません。」
「世界に満ちる生命エネルギーと、自分の生命エネルギーを重ね合わせることが大切です。」
ミリアは静かに頷いた。
「目を閉じてみてください。」
言われるまま、ゆっくりと瞼を閉じる。
風が頬をなでる。
木々の葉が揺れる音。
遠くから聞こえる小鳥たちの歌声。
窓から差し込む朝の陽射し。
昨日、ライトと歩いた庭の景色が自然と思い浮かぶ。
(世界は、生きている……。)
(私は、その中で生きている。)
そう思った瞬間、不思議と胸の奥が温かくなった。
「その温もりを、そのまま手のひらへ集めるような気持ちで。」
ユーリの穏やかな声が耳に届く。
ミリアはゆっくりと右手を前へ差し出した。
すると――。
ふわり。
小さな白い光が手のひらに灯った。
「……!」
綿毛のようにやさしい光。
それは一つだけではなかった。
二つ。
三つ。
光は楽しそうに宙へ浮かび上がり、部屋の中をゆっくりと舞い始める。
勉強部屋は、まるで星空を閉じ込めたような幻想的な景色へ変わっていった。
「まあ……。」
フィーネは思わず胸の前で手を重ねる。
「なんて、美しいのでしょう……。」
その瞳は感動で潤んでいた。
ユーリも光の粒を見つめながら、小さく息をつく。
「初めてとは思えません……。」
「生命エネルギーの流れが、とても自然です。」
「まるで、以前から魔法を知っていたかのようですね。」
ミリアは驚きながら、自分の手を見つめた。
「私……できたんですね。」
その声は嬉しさで少し震えていた。
前世では、魔法なんて物語の中だけの存在だった。
それが今、自分の手のひらから生まれている。
「本当に……魔法なんだ。」
自然と笑みがこぼれる。
ライトはもう我慢できないと言わんばかりに、ミリアの周りを飛び回った。
「ミリア、すごい!」
「すごいよ!」
「初めてなのに、こんなに上手なんて!」
満面の笑顔で拍手をしている。
ミリアも小さく笑い返した。
「ありがとう。」
ユーリは優しく頷いた。
「本日の授業はここまでにしましょう。」
「焦らず、一歩ずつ学んでいけば十分です。」
「お嬢様には、その素質があります。」
「はい!」
ミリアは嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございました!」
勉強部屋を後にすると、廊下には静かな午後の光が差し込んでいた。
「ねえ、ミリア!」
ライトは嬉しそうに隣を飛ぶ。
「魔法って面白いね!」
「うん!」
「もっといろんな魔法を覚えたい!」
二人は顔を見合わせて笑った。
けれど、その笑顔は長くは続かなかった。
ライトはふと立ち止まり、先ほどの黄金色の輝きを思い返す。
(あの光……。)
(どうして、あんなに懐かしかったんだろう。)
胸の奥が、少しだけ締めつけられる。
思い出そうとしても、そこだけ霧がかかったようにぼやけていた。
「ライト?」
ミリアが不思議そうに見つめる。
ライトははっと我に返り、いつもの笑顔を浮かべた。
「ううん!」
「なんでもない!」
そう笑ってみせたものの、その胸には小さな違和感だけが静かに残っていた。
そして、その違和感がやがて千年前に隠された真実へとつながっていくことを、この時はまだ誰も知らなかった――。




