第42話 国民と俺の考察
掃除ロボにも種類があるようで、
いろんなタイプのものがやってくる。
それどころか、
他のロボットも整備を求めてやってきた。
「いい勉強になる。
なるほど。
この液体はナノマシンで、
メモリやディスクの役割をしている。
つーか、人の脳みたいな動作だな。
ナノマシンを滞留させないように小型のモーターでかくはんして。
均等に電力を配分。
非接触通電を充電以外で使うのは、
なるほどナノマシンだからか。」
もう、世界の危機より知的好奇心が勝利した。
すげー楽しい。
「空気圧。違うな。
ゲル状の液体でシリコンの中を満たして、
指みたいな動作をする。
ポンプがねぇぞ?
うお。
ゲル自体がナノマシンか。
モンスターのスライムみてぇに動けるのか。
そう言や、
未来の猫型ロボットもこんな感じの丸い手だわ。」
何時間経ったのかわからない。
だが、配膳ロボが食べ物や飲み物を持ってきてくれる。
俺が注文した訳じゃない。
勝手に持ってきてくれる。
もしかして、整備のお礼なのか?
久々の固形物は旨かった。
なんかヌガーみたいな謎の飯だったが。
「ディストピア飯ってのも、
こうなってくるとオツだわ。
ドリンクはちゃんとコーヒー。
久々のカフェインは効くねぇ。」
ふと、俺は我に返った。
「……そうか。
不味いぞ。」
さっきからロボットたちが整備を求めて列をなしている。
つまり、整備が必要なのに誰もしない、できないと言うこと。
「不味い、不味いぞ。
もう、こりゃ。
いや。あれか。」
近親婚で代を重ねた場合、
遺伝子的な多様性の損失と先天性の疾患以外にも問題が起きる。
認知能力の低下だ。
誤解を招かないよう明言するが、
女性が劣っていると言う訳じゃない。
決して、性別による話ではない。
この場合問題なのは、
近親婚で代を重ねたことだ。
認知能力とはペーパーテストなどで数値化して計れる能力のこと。
これは明確に格差が出る。
そして、これが低いと色々問題が起きる。
その一つとして、
計画的な行動をすることが難しくなる。
自分の感情をコントロールすることができない。
もしくは、平時は問題ないが、すぐにカッとなる。
そして、感情的な行動を取り、計画が破綻する。
そのため、犯罪を犯すハードルが低くなる。
つい、カッとなって。
つい、魔が差して。
そんな感じで犯罪を犯してしまう。
そうなると社会生活どころか、
集団生活すら難しくなる。
「これは、代が重なるほどに悪化する。
それによる貧困とその連鎖があって、
あの壁の外の光景につながるのか。」
やはり貧富の格差に身分が直結してる。
富裕層はつまり知識階級。
仕事ができて、稼ぐことができる。
貧困層は認知能力の低さが原因で仕事がないか。
仕事があっても安い賃金しか得ることができない。
さらに、先天性の疾患のせいで肉体労働もうまくできない。
肉体労働をする肉体を手にするために、
高額な手術を受ける必用があると仮定したら。
「解放軍はそれに対して不満のある人を集めたもの。
世界政府とか言ってたのは、
それを武力で抑えるしかない。」
認知能力は教育でいくらかは伸びるが、
幼い頃からかなり重点的にコストをかけまくる必用がある。
壁の外の全員が対象とした場合、
人数が多すぎて時間的にもコスト的にも困難だ。
肉体労働のための身体の調節は、
ホルモンバランスのこともあるから、
子供の頃からやらないとダメだろうし。
かなり高額な治療になるだろう。
「そんでもって、
問題は労働者と技術者がいなくなることだ。
労働者はロボットで代えが効くかもしれないが、
ロボットを作ったり保守管理する技術者はどうにもならない。
認知能力が一定以上ないと、技術職は難しい。」
認知能力は知識の土台。
これが足りなければ、
上に乗せる知識の量や質が低くなる。
そんでもって、
こんなに生活をロボットに頼りきってるのに、
ロボットを整備できる人材がいないか、少ない。
機械が精密になればなるほど、
技術だけじゃなくて経験も必要だ。
そもそも人材が少なく、
経験者も少ないとなると技術は失伝する。
「それが更に身体を機械化をするハードルを上げて。
肉体労働ができない貧困層は壁の外の生活から抜け出せない。
最悪なスパイラルだわ。」
しかも、今外で見たロボットだらけの光景。
あれを考えると、
人間はロボットの保守管理を二十四時間三百六十五日、
ずっと行う必要がある。
それができる人材が少ないのに、だ。
「ブラック企業も真っ青な労働環境だろうな。
人工知能で補助できても、
その人工知能を保守運用できる人間がどれくらいいるかだ。
一人や二人なら、数年で破綻するぞ。」
しかし、壁の外の人を入れて働かせるのも難しい。
悪循環。
まさにデストピア。
だが、ここに俺がつけこむ余地がある。
俺は次のロボットに手をつけながら、
笑った。
「ごめんな、先生。
俺は世界を滅ぼす魔王になる。」




