第41話 知ってる国と知らない国
俺を乗せた車はしばらくして、
建物の地下に入る。
とても大きな建物だ。
他のビルより頭一つ高い。
地下に入ってそのまま降り続ける。
駐車場らしき景色が広がっているが、
車の数は少ない。
それなのに、地下三階まで駐車場だった。
そして、地下三階の奥の方に車が止まる。
止まった場所でドアが勝手に開いた。
すると、建物から一人の女性が出てくる。
「お待ちしていました。
どうぞ、こちらへ。」
そう言って頭を下げる彼女は、
前世で見たホテルの従業員のような服装だ。
俺は車を降りて彼女に近づく。
俺は彼女に導かれるまま建物の中に入った。
やはり建物内は白と銀をベースにしたSFカラー。
すれ違う人はいない。
エレベーターに乗りこみ、上にあがる。
「こちらの部屋で今日はお休みください。
食事は後程部屋へ持っていきます。
なお、外出はお控えください。
もし、部屋から出られたら警備のものが参ります。」
エレベーターから出ると、
数メートルの廊下とドアが一つあった。
このワンフロア全部部屋か?
もしくは、高級なラブホテルみたいに、
乗ったエレベーターごとに到着する部屋が違うとか?
まぁ、妥当な軟禁場所か。
俺は納得しつつ案内の人と別れ、部屋に入る。
思った通り、かなり広い部屋だ。
テーブルと椅子。
寝室にはキングサイズのベッド。
大きな窓から外が見える。
「ワンフロア全部ではないにしろ、
ワンフロアの四分の一くらいはありそうだ。
五部屋もある。
でも、家具がベッドとテーブルセットだけか。
他の家具が見当たらない。」
テレビとかパソコンとかがないのはわかるが、
簡易のチェストやソファーもない。
服は部屋くらい広いクローゼットで間に合うとしても、
家具が少なすぎる。
広い部屋だが、さらに広く感じる。
「そして、風呂はやっぱりこれなのか。」
風呂場を覗くと、やはり床に足跡のマークがある。
どうやらこの世界の風呂はあれがスタンダードらしい。
「収容所だとトイレは床に穴が空いてるだけだったが。
……これは、前世のと同じか。
ウォシュレットもついてる。」
トレイはこの形が完成形なのだろうか。
「ソウジヲシマス。
ソウジヲシマス。」
「お前はどこにもいるのか?」
解放軍のアジトでも見たボールみたいな掃除ロボがいた。
壁をよく見ると巧妙に隠された穴があって、
そこからロボットが出入りするらしい。
「もしかして、食事を運ぶのもお前らか?
まぁ、いいか。
つーか、
ここでもロボットの扱い悪いな。
お前、汚れすぎだろ。」
部屋やロボットが通った後はとてもキレイだが、
ロボットはちょっと驚くくらい汚れていた。
「お前にもちょっと付き合って貰おうか。」
今は情報を整理したい。
掃除ロボを捕まえた俺はテーブルへ向かった。
もちろん、バラして整備してやる。
「何なんだよ、ここ。
もう本当に、わからない。」
懐から出した工具と、
洗面にあったタオルをテーブルに置く。
真っ白のタオルで真っ黒のロボットをキレイに磨く。
「かなり技術と文明が高いレベルだ。
でも、格差もひどい。」
こいつのブラシも汚れがガチガチに固まって、
金ブラシみたいになっている。
念入りにバラしてキレイにする。
「壁の外と中の人の違いはなんだ?
体型も生活もまるきり違う。
きっと壁の中にいる人は良い治療が受けられるんだ。
この薬みたいなすげー何か、治療法がある。
先天性の疾患も押さえ込める何か。」
キレイに整備して、掃除ロボを床に放った。
こいつも嬉しそうに声をあげて、
壁の穴に入って行った。
「そんでもって、『境界』だ。
多分ペースメーカーだと思うんだけどな。
強い磁気か電磁波がトリガーで。
……もしかして、
戦争でなんかそう言う環境兵器とか使った?
相手の軍のロボや通信を無力化する的な。
なくないぞ、これ。」
そして、その兵器が今でも効果を発揮している。
今稼働しているロボットはそれに対応しているが、
ペースメーカーとかはどうしても影響を受ける。
「あのボン、キュ、ボン、の身体は、
機械の身体とか?
電磁波も磁気も強く影響を受ける。
いんや、収容所から出るとき、
看守のおっぱい触ったけど柔らかかったぞ。」
全身そうじゃなくても、
先天性の疾患を抑えるために身体を一部機械化するのは、SFでよくある話だ。
「内臓が機械でできてる。
なくないなぁ。
デストピアだわ。」
そんでもって、
機械率が低いのか治療が半端なのかわからないが。
不完全に疾患に対処しているのが、
壁の外や解放軍の人たちのような体型の人。
「経済的な格差が、
地位の格差に直結してるってことか?
自分の身体にいくらかけられるかってのは、
前世でも格差になってたしな。」
ジムに通って、栄養価の高い食事して。
それだけでもかなりの額になる。
貧困世帯には、
どうにもならない健康面の格差。
「平均寿命三十年ってのも、
ありえそうだわ。
……あ?」
ふと、俺の足下を見ると、
掃除ロボがいた。
「ソウジヲシマス!」
この個体はさっきのと違って汚れていた。
「はぁ?」
その掃除ロボの後ろにも汚れた掃除ロボがいる。
その次にも、次にも。
ずらりと列をなしている。
まるで、何かを待っているようだ。
「ソウジヲシマス!」
「お前ら、もしかして、掃除するんじゃなくて、
俺に掃除してもらいに来てんのか?」
そんなに高いレベルの人工知能なのか?
あの水槽みたいな装置にどう入ってる?
あと、掃除ロボ程度でこんないい人工知能必要?
「ソウジヲシマス!
ソウジヲシマス!」
「もう、わかったから順番を待て!」
ソウジヲシマス、の主語が変わってるじゃねぇか。
俺は舌打ちしながら順番に整備をして行った。




