第32話 廃墟の過去
部屋の中には、薬品の臭いが充満していた。
酸性の酸っぱいような臭いだ。
俺はとっさに手で口許を塞ぐ。
「……ハンカチかなんか、
こういうとき用に用意しとくべきだったか。」
光るおもちゃを使って部屋を照らした。
結構広い。
二十畳くらいはありそうだ。
床がタイル張りになっていた。
ドアから見て右手の壁の下に大きな穴が空いている。
穴へ向かって床の一部がスロープになっていて、
レールが敷かれていた。
「なんだ?」
壁を見ると、
金属の板に使用時の注意と大きく書かれている。
俺はドアから一歩だけ部屋に入ってその注意書を読む。
「……籠からはみ出さないように乗せてください。
籠に百五十キロ以上のものはのせないでください。
以下のものは処理できません。
ガラス、陶器製品……。
ここ、ゴミ処理場か。」
周囲をもう一度見回す。
穴以外特に目立ったものはない。
「籠ってのが見当たらないが、
多分あの穴のレールに籠が乗ってたんだろ。
ゴミをそこにのせて、
どっかのスイッチをいれると籠が穴に向かっていって中身を捨てる。
臭いからして、
強酸性の薬品で溶解処理するタイプか?
穴の奥がよく見えないが、
近寄らない方が良さそうだ。」
ふと、嫌なことに気がついた。
「じゃぁ、
なんでこの扉は内側からロックしたままなんだ?
処理済みなら、
襲撃者に回収されることもないだろ。
……いや、
この扉閉めてドアノブ固定したヤツがいたんだよな。
そいつはどうなった?」
改めて部屋を見回したが、
この扉以外に出入りできる所は見つからない。
血痕も遺体もなにもない。
考えたくないが、
重要な書類や記憶媒体を処理した後、
自分も籠に乗って……。
「なくない話だが、ゾッとするね。」
重要な情報は人の頭にも記憶されている。
ここがガチのSFの世界なら、
脳ミソがあれば記憶を引き出せる、
なんてのも考え得る。
それなら、身体ごと溶解してしまえば、か。
覚悟が決まりすぎてて想像もできないな。
突然、天井が抜けて上から何か降ってきた。
俺は大きく二歩下がり、
光るおもちゃをもった左手を身体から離す。
銃を右手で構えて何が落ちてきたのか確認する。
「『警告』。
武器を捨て、投降せよ。」
土ぼこりの中からあのチープなロボットが二機、
顔を出した。
俺はすぐさまロボットが立っている床に向かって銃を撃ちまくる。
すぐに床が抜けて、ロボットが更に下に落ちた。
薬品の臭気が強まる。
「お前ら、空は飛べないんだよな。
あの収容所でも走って追いかけてきたしな。」
床の穴から下を覗くと、
赤茶色の液体の中でもがくロボットが見えた。
それもつかの間、
まばたきする間にロボットが動かなくなる。
そして、そのまま二機とも沈んでいった。
「……溶けるまで早すぎ。
これもSF的な何かか?」
俺は口許を押さえつつ、冷や汗が出てきた。
人間なんて落ちたら一瞬でドロドロのスープだ。
「俺はこんなのになるのは勘弁だ。
とにかく逃げさせて貰おう。」
俺はそう呟きながら駆け出した。




