久々に家にくる
えっとねぇ……、伊織が見学に行くっていうのについていって、そのまま。去年も今みたいな感じで席が近かったから、それで仲良くなったんだけどね。1人で行くのは緊張するって言ってたからついて行ったんだよね」
「へえ、五十嵐さんってそんな感じなんだ」
「普段すっごく頼りになるけど、初めてのことは凄く緊張するタイプかな?」
「全然そんな感じには見えないけどなあ」
側から見てたら母親みたいなのに、という言葉を口に出すのはやめておいた。
「そうだよね〜。でも最近は頼りになりっぱなしだったなぁ」
香奈の奇行が変にツボに入ってしまって、ひとしきり笑った後、僕達は2人で机を挟んで話をしている。
頼りになりっぱなし、というのには、僕とのあれこれも入っているんだろうなぁ。後ろつけてきてた時とか、五十嵐さんいたと思うし。後は試験とか追試とかだろうな。あの時のお母さん感は、半端じゃなかった。
香奈がリンゴジュースを一口飲み、「おいしい〜」と嬉しそうな表情を浮かべている。
「リンゴジュースにして正解だったね」
「あ、ありがとう」
懐かしみながらそういうと、香奈は恥ずかしかったのか、顔を赤くしてそう答える。
……かわいいなこの子。いや昔からそうだったけども。
ふと、そう思った途端、俺も少し恥ずかしい気持ちになる。……やばい、顔か赤くなってないだろうか。
「折角だし、五十嵐さんとももう少し話してみたいかもなあ」
「え、そ、そうなんだ」
「正直今までちょっと近寄り難かったけど、香奈の友達だし」
「近寄り難かったの?」
「う、あー、まあ、そうだね。ちょっとだけ」
というか、普通に女子と話す事自体があまりないからなあ。女子全員近寄りがたいとも言える。その中でも、この2人は容姿が整っていることもあってクラスの一軍感があったし。
今のイメージは、母と娘だけど。あと、普通に2人とも友達は多くなさそう。
「ちなみに……、なんの話をしたいの?」
「えー、何の話?……いつも香奈と仲良くしてくれてありがとう、とか?」
「お母さんじゃんそれ!」
おっと、お母さんは五十嵐さんの方だった。……ってそうじゃない。
「冗談はさておき……、そう言われるとなあ、真面目な話、共通の話題が香奈しかないかもなあ……」
普通にクラスメイトとする……であろう、授業中とか時事的な事とかの雑談をするのでも……、なんか上手く喋れる気がしないな。
というか、香奈以外の女子とうまく話せる気がしない。
「まあ、いいタイミングがあったらちょっと話してみようかなってぐらいかな」
「それはいいと思うけど……」
そう言った後に、小さい声でモニョモニョ香奈が何か言っていたけど、それは聞き取れなかった。
「そんな話してたら、見たくなってきたんだけどさ、いい?」
まとめて机の上に置いてあったマジックに使う道具たちを指さして言う。
「……うん、いい、よ?」
「わーい」
わーいとか言っちゃったよ。披露するの緊張するからとか何だろうけど、その反応は普通に心臓に悪いわ。
………
……
…
……香奈すごい。
騙されにいっておいて何だけど、香奈にこんなに騙されるなんて……。コインは思った手に無いし、トランプは山札の中に入れたはずなのに1番上から出てくるし、切り刻まれた紙は元通りになってでてくるし……。世が世なら魔術師として名を馳せていたかもしれない。
ちっちゃい頃は僕の方がイタズラして、香奈の方が騙されることの方が多かったのになぁ。
なんかもう後半は自分の思った通りにならないことに気持ちよさを感じてしまっていた。
「ほんっとにすごいよ!」
「えへへ、ありがとう」
「いやー、凄すぎるなあ。こんなに色々できるもんなんだね」
「伊織がいろんなのやってみたいって言って練習するから、一緒にやってるんだ」
伊織の方が上手なんだけどね、と言って香奈は笑う。
ほえー、五十嵐さんがマジック好きな理由も気になってきたな……。
それはそうと……
「ねえ、種明かしとかは……」
「ふふん、ダメだよー。そう言うのは自分で気づいてこそらしいからね」
「えー……、じゃあ、もう一回みせてよ」
「じゃあ……」
………
……
…
「無理だあ……負けたあ」
ぜーんぜんわかんない。
「ふふっ、わたしの勝ち」
「香奈にこんなに負けたの、昔ゲームやった時以来だなあ」
「あー、あったね」
昔、某大乱闘ゲームで完膚なきまでに負かされたことがある。あの時は練習も何もしてなかったし、反射神経とか、そういう生物としての基本性能の差でぼこぼこにされた。
でも、流石にいまなら勝てるだろう。……なんか悔しいし。
「……やる?」
「また勝っちゃうよ?」
むふん、と得意気な香奈。
「よしやろう。絶対勝つわ」
もう絶対手加減しない。
………
……
…
大乱闘のゲームで香奈を一蹴して、キャラクター選択をランダムにしても勝って、ガーンという音が聞こえそうな香奈の顔を2度堪能してから、今は某レースゲームをしている。
ポカンと口をあけた香奈は面白くて、可愛かった。
「むむっ」
リビングのソファに座っているのだけど、香奈よカートが曲がろうとするたびに、隣で右に左に揺れている。昔はこのゲーム持ってなかったから知らなかったけど、ゲームと連動するタイプだったんだなあ。
ゆーらゆーらと揺れながら、妨害されると悲鳴を上げるのを見ていると、つい笑ってしまう。
あと……。
「あーー!!なんでぇ⁉️」
「このコースつるっつるだからね」
「コータはなんで落ちないの⁉️」
「経験ですよ、香奈さん」
「おんなじところで曲がってるのに!」
「使ってるカートの性能全然違うからね」
こうやって思い通りにならなかった時の反応も、つい笑ってしまう。
なんか後ろに着いてきてると思ったら、おんなじ場所で曲がってたのかあ。
香奈は性能じゃなくて、見た目でカートを選んでたからなあ。流石に曲がりやすさが1番低くなる組み合わせを選んだ時は笑ってしまった。
そして、なんだかんだで最終コーナー。
もうゴールした俺は香奈のプレイを見守っている。
「今!」
「えいっ」
曲がるタイミングで合図を出すと、香奈は少し遅れたタイミングで、ハンドルを切った。
長いカーブなこともあって、香奈は今までにないほど傾いていた。それこそ、押されてこっちも傾いてしまうくらい。
や、やわっ……、肩が当たってるだけなのに、というか、顔近……、いや、考えるのをやめよう。
「やった!」
「あだっ」
か、かたっ……、この子、石頭だった。
当たりどころが良かったからそこまで痛くはないけど。ちゃんと揺れてるっ言っておけば良かったかな。
……まあいいか。ちょっと痛かったことを除けばすごくいい気分だったし。
………
……
…
そんなこんなで、せっかくだからと2人で新しいゲームを買う約束をした後、いい時間だからと香奈は玄関で帰る準備をしている。
ーーガチャッ
あ、母さん帰ってきたな。
「ただいまー……あれ」
「おかえり」
「あ、お邪魔してます……」
母さんを2人で出迎えると、母さんは驚いた顔をした後、笑った。
「あらあら、おじゃまだったかしら」
「そっ、そんなことは……、もう帰るところだったので……!」
「あからさまな演技やめて」
普段そんな口調じゃないだろうに。
「ごめんごめん。運動会ぶりだね、香奈ちゃん」
「あ、はい、お邪魔してます……」
そう答えた香奈の頭を撫でながら、母さんはそんなに畏まらないでよ〜と笑っている。
そして、その後に小声で何かを話していた。
……絶妙に何話してるのかわからないな。内緒話のプロかな?
「近いけどちゃんと送ってあげなさいよ」
さっと振り返って言ってくる。
「わかってるよ」
言われなくてもそれくらい。
少し名残惜しかったけど、そうして久しぶりの我が家での香奈との遊びの時間が終わっていった。




