68.宴の準備
村人達は、俺が倒したエイギルフォックスの死体を数人がかりで村の中に運び込んだ。
何に使うんだ?あれ。
「そいつの死体は何に使うんだ?」
「肉は血抜き、毛皮は剥ぎ取って騎士様に差し上げますぞ。」
長老は、俺に振り返りながら言った。
そこまでしてくれるのか。
ぶっちゃけ……皮は防寒具とかに使えるとは思うが、こいつの肉は何となく食いたくないな。
なんか憑依とかされそうで怖い。
「長老、肉はそちらで好きにして構わないから、毛皮でマントを作ってくれないか?」
やっぱり騎士の防寒といえばマントだよな!
この鎧にはマントは着いていたが、ハルメアスとの戦闘の時、千切れてしまったらしい。
本当は暖かい服でも作ってもらいたいが、それだとサイズを図る際に俺の顔が見られてしまうからな。
「よ、良いのですか?エイギルフォックスの肉は王都にでも行って売れば、かなりの金額になりますぞ?」
「ああ、欲しいのは金では無いからな。」
「……流石ですな。」
長老は、何やら噛み締める様な顔をした後、村人に向き直った。
「皆の衆!ありがたい事に騎士様がエイギルフォックスの肉を我々に下さるとの事だ!今日はとことん食って呑むぞぉ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」
長老の言葉に、俺達の会話に耳を傾けていた村人達が弾けた様に沸き立った。
こんなに喜んで貰えるなら、こっちも嬉しいな。
「騎士様、マントは明日中にこの村一番の職人に作らせます故、今宵は我らと食事を共にしてはくれませぬか?」
「ああ、頼む。」
おお、正にベストな展開だな。
防寒具は手に入るし、うまい料理にもありつける。
そして村人には感謝されると言う。
自分の頭脳が怖いぜ……。
まあ、柵を直さなきゃおちおち宴会もできないからな。
さっさと完成させちまうか。
もう柵の要となる木材は隙間なく突き立てたから、あとは針金みたいなのを巻けば前までと同じ出来映えになる。
「長老、後は何をすればいい?」
「少々お待ちください。今巻きヅタを作ります。」
長老はそう言うと右手に持っていた杖を地面に1回トン、と突いた。
すると地面からみるみるツタが生えてきて、それが幾重にも
絡まり、圧縮され光沢を放つ針金の様になった。
「ち、長老!魔法が使えたのか!?」
「ええ、儂はこう見えてエルフが少し混じってましてな。魔法は得手なのですよ。」
長老は、少し自慢げにそう言った。
ま、マジか……。
結構皆魔法使えるのね……。
俺ってば才能無いのか?
だとしたら悲しすぎるんだけど。
「巻くのを手伝って頂けますか?」
「……ああ。」
俺はツタを手に取り、柵を強固にしていく。
全てを巻いた後、後ろを向くと村人達が雪かきをしていて、その場所に宴会用の長い机を準備していた。
そ、外でやるのか?
そりゃ村人全員が収容出来る建物はないと思うが、寒いだろ……。
まぁ、食ってる間に暖まるか。
「きしさまー、あそぼー!」
俺が準備をする村人たちをボーッとしながら見ていると、小さな子供達数人が近寄ってきた。
おお、俺子供に大人気だな。
「良いぞ、何して遊びたい? 」
雪合戦?かまくら作り?
個人的にはソリ滑りを推したいが、残念ながら雪山が見当たらない。
「んとねー、戦いごっこ!」
子供たちは少し話し合った後、そう言った。
それ雪無くても出来るだろ……
「良いぞ、じゃあそっちが雪玉を作って、逃げる私に3発当てられれば勝ち。それで良いか?」
「わかった!」
子供たちは頑張って雪玉を作り出した。
俺はそれをほのぼのしながら見つめる。
やっぱ子供って可愛いよなぁ……。
あ、断じて性的な意味ではないぞ。(自意識過剰)
「えいっ!」
投げられた雪玉は俺に向かって飛んできたが、飛距離的に届いていない。
それを見て子供はちょっと泣きそうになっていた。
なにこれ、可愛い。
あ、断じて性的な意味では(ry
「ダメだなーファリドは!ぼくが投げるのをみとけよ!」
後方にいた男の子が、先頭の子を押し退けて出てきた。
「ていっ!」
その雪玉は、手から離すタイミングを間違えたのか少年の足元にめり込んだ。
それを見て、例のごとく泣きそうになる。
あー……良いなぁこう言うのって……。
そうだよ、ここには一瞬で氷の檻を作るロリババアも、明らかに自分の体より体積が多い雪を投げてくる化物ウサギもいないんだよ!
これが俺の求めていた雪遊びだ……!
「騎士様ー!準備が出来ましたぞー!」
村の奥側から、長老のそんな声が聞こえた。
お、やっとか。
俺はまだ全然遊んでないとごねる子供を担ぎ、机の方に向かった。
美味そうな匂いがどんどん近づいてくる。