69.長老の名
子供を担ぎながら長老に着いて村の中心に行くと、辺りが暗くなり始めたせいか松明の様な物に火が灯り、幻想的な風景になっていた。
いくつか並んだ机には肉やジャガイモの料理と酒っぽい紫色の液体の入ったコップが置かれていた。
おお、思ったよりずっと豪勢だな。
「それでは騎士様、宴会の音頭をとって下さいますか?」
俺が火の揺らめきを見ながらぼんやりしていると、長老が酒の入った器を俺に渡しながらそう言ってきた。
お、音頭?
それって会社の忘年会とかで幹事が最初に長々と言うやつ?
つっても実物を見たこともないしできないぞ?
そして俺未成年だぞ?
助けを求めて村人達を見ると、誰一人ご馳走に口を付けずに、俺が話すのをまだかまだかと待ちわびていた。
形式上の物ではなく、俺が何を話すのかを本気で楽しみにしている様だった。
うわぁ……これ適当に済ましたんじゃ期待外れとか思われそうだな……。
まぁ、下手に寒い事言っても場が凍りつくだけだし、ここは勢いで行こう。
「えー、面倒な事を長々と言うつもりはない、だが1つだけ言わしてほしい事がある。……今日はとことんまで行くぞぉぉぉ!」
「「「おぉぉぉ!」」」
「かんぱぁぁい!」
「「「かんぱぁぁい!」」」
コップを突き出しながら叫ぶと、村人達は次々と皿を片手にテーブルへと近づいていった。
おお!バイキング形式なのか!
よし、俺も混ざり……
「騎士様の分はここに取ってありますゆえ、どうぞ。」
「あっ……ありがとう……。」
俺は長老から料理を受け取った。
……いや、気を効かしてくれたんだろうけどなんかなぁ……。
こういうのは料理だけじゃなくて場の空気も大事って言うかさ……。
「そう言えば騎士様、まだお名前を伺っておりませんでしたね。私はヴァーネスと申します。」
「私はケンイチだ。」
酒の入った器を長老とキンッ、と打ち鳴らした。
この世界特有の食器なのか、異様に長い二つの角が付いたフォークらしきものをジャガイモに刺し、兜の下に運んだ。
ちょっとしょっぱいな……けどホクホクしてて美味い。
「あの……答えたく無いのであればよろしいのですが……ケンイチ殿はルビエド騎士ですよな?」
長老が俺の鎧を見ながら言ってきた。
まあ、鎧だけ見たらそうだろうな。
それがどうかしたのだろうか。
「まあ、そんなところだ。」
「そうですか……いえ、鎧を見るにあまり戦闘を頻繁に行う役割ではない様に見えましたので。あんなにお強いのに何故か、と。」
前町に行ったときは見なかったが、これ以外の鎧を着た騎士もいるのか。
つかハルメアスもこの鎧だったよな?
……え、あそこって戦闘が専門外のやつでも不意討ちすればブラウを封殺出来るのか。
やばいよルビエド。
どこなんだよルビエド。
行きたくない国ワースト1だよルビエド。
あっ、ここもルビエドだった。ハハッ!(血涙)
「色々、な。」
「……野暮な事をお聞きして申し訳ない。」
俺は今度は肉を口に突っ込んだ。
その瞬間ーー口が爆発した。
「もがっ……!?」
口に広がる圧倒的な旨み。
溶ける様に消えゆく脂に儚さを覚えたが、それは違う。
潔く消えるからこそ、綺麗な、忘れられぬ思い出となるのだ。
さよなら……と、肉に別れを告げ、感傷に浸る。
美味かった……。
ぜひともまた食いたいな。
「これは何の肉だ?」
「エイギルフォックスですが……」
「オロロロ!」
憑依される!呪われる!
人間の魂ぶっ飛ばしてくる狐とか食いたくねぇよ!
「ど、どうされましたか!?」
「あ、いや、所用の発作が……。」
「そ、そうですか……」
……やっぱりジャガイモが一番だな。
俺はジャガイモを1つ手に取り、口に入れた。
うん、無難に美味い。
もって帰らせて貰おうかな。
「すまない長老、籠を貰えないか?少し持ち帰りたくてな。」
「そうでしたら私が詰めておきます故、騎士様は存分にお食事下さい。」
「頼む。」
そう言うと長老は、地面からツタを生やしそれを編み込み籠を作り出した。
んー、それ便利だよなぁ……。
ハーネスもそれでロープ作ってたけど、それって魔法使いの基本技能なのか?
だったら初級の可能性もあるな……。
今度ハーネスに教えてもらおう。
「うおおいー!騎士様よぉ、こんな隅っこで縮こまってねぇで呑めよ!」
ふらつきながら、グルットが近寄ってきた。
あー、悪酔いしてるなコイツ。
「怪我をしてるのに酒なんか飲んで良いのか?」
「うるへぇ!こんなうめぇ肉があんのに呑まなかったら損だろうが!」
グルットが唾を飛ばしながら絡んできた。
俺は無言でグルットをひっ掴み、近場の倉庫にぶちこんだ。
酔っぱらいに基本的人権は無いってこれ一番言われてるから。(こじつけ)
「おい出せよぉ! 」
倉庫の中からグルットの叫びが聞こえる。
俺は魔力変質で出した100キロの鉄の塊をそっとドアの前に置いた。
「何やってるんだグルット……」
「グルットさん……」
後ろを見ると、ドアに視線を釘付けにしているカーニャとランドールがいた。
おお、この親子の組み合わせ久々に見たな。
「その声はランドールか!助けてくれ!なんか開かないんだよ!」
ドアの向こうのグルットの声に希望が灯った。
しかしランドールの目線は冷たい。
「……少し頭を冷やせ。」
「えっ……今も倉庫の中の鉄が冷えてエグいぐらい寒いんだけど。」
分かるわー。
俺今も現在進行形で金属に体を蝕まれてるわー。
……まぁ、冬にこんなことしたら命に関わるから出してやるか。
「かっ、カーニャ!お前は俺の味方だよな!?」
「ちょっと無理です。」
「カーニャァァァ!」
……面白いからもう少し放置しとくか。
グルットも大概人外だし寒さでくたばる様なやつじゃないだろ。




