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66.龍神の影

そういや、ブラウは今まで雪が降ったときどうやって生活してたんだろうか。

かなり前からこの森に住んでるっぽいし、何回も雪を経験したはずだ。


「お前は前回の冬はどうやって乗りきったんだ?」


「ずっと寝てました。」


え?冬眠って事?


「食べ物とかはどうした?」


「私は魔族なので食べる必要は無いんですよ。」


ブラウが自慢気にそう言った。

え、じゃあ、今まで果物食べてたりしてたのも、本当は必要なかったってこと?

……サラっと衝撃の事実言ったなこいつ。

なんて便利な生態してんだ魔族。

俺もちょっとなりたくなってきたぞ。

まあ冗談は置いといて、今考えるべきはこの状況をどう打破するかだ。

と言ってもぶっちゃけ、選択肢は1つしかない。

一言でいえば、村に食べ物を恵んで貰いに行くのだ。

様するに飽食プレイだな。

今まで高貴な騎士様キャラでやって来た分、正直気が引けるが、背に腹は変えられない。


「ブラウ、俺村に行ってくるから、家で待っててくれ。」


「あ、お土産お願いしますね!」


ブラウはそう言いながら家に入り、寝転がった。

クソ……人の気持ちも知らずに……。

俺はブラウに対して恨み言を言いながら村へ向かっていく。

あー、なんて言おうかな?

ストレートに「食い物に困っている」なんて言ったら俺のイメージが壊れてしまいそうだ。うーん……。


ガサ、


「っ!?」


横方の茂みが震え雪を振り落とし、俺に敵の存在を教えてくる。

茂みに目を凝らすと、一瞬だけ龍のシルエットが見えた気がした。

しかしそれは本当に一瞬だけで、その後に観察を使ってみても、普通の情報しか出てこない。

な、何だったんだあれ……?


森で過ごす冬という初めての状況で、余計な不安要素は無くしたいんだが……まあ、気にしても仕方がないよな。

何も見なかったことにして明日を生きよう。

そうこう言ってる内に村が見えてきた。

俺の事を心配してくれている人もいると思うから、なるべく早く生存報告しないとな。


「……あれ?」


近づくまで雪のせいで気付かなかったが、村を守る柵がなにか変だ。

何と言うか……奇妙な形になっている。

そして早足で村の前に着き、柵を間近で見て俺は凍りついた。


「は……?」


俺の前にあったのは、人ならざる者の力で『ねじり潰された』最早原型を留めぬ木と針金の残骸だった。


「んだよこれ……!?」


村人は……村人は無事なのか!?

俺は崩れ落ちた材木をどけて村に入る。

そこでは、動物の毛皮の様な温かそうな格好をした村人達が長老の言葉を熱心に聞いていた。

村の外から部外者である俺が入ってきても気づかぬ程に。


「お、おい、これは一体どういう事だ?」


俺がその集団の最も後ろに座っていた中年に話しかけた。


「き、騎士様!?」


その村人は、急に現れた俺にビックリしたのか、大きな声を出した。

それがきっかけとなり、全ての村人の視線が俺に集中した。


「騎士様!ご無事でしたか!」


長老が何やら雪の上を歩きやすい様にか靴底が丸く拾い長靴を雪に沈めながら近づいてきた。


「ああ心配を掛けてすまないな。それは良いんだが、この騒動は何なんだ?」


俺が柵を目線で示しながら言うと、長老の顔が途端にバツが悪そうになった。

なんだ?何か言いたくない事でもあるのか?


「……いえ、騎士様のお手を煩わせる程の事ではありませんので……」


「いや、私もこの村の人々には世話になった。恩返しをさせて欲しい。」


俺がそう言うと長老は、少し迷う様な仕草をしたあと、語りだした。


「……この村には、古くから信仰している神がいまして、それを祟竜アナグと言います。」


長老は、何故かまるで懺悔する様に続ける。


「とある理由で、寒季の度に村にくるのですがリンドヴルムが泉に住み着いてからは、一度と来ていませんでした。」


……しかし、今年は何故か来たと。

あの破壊の痕跡をみる限り、少なくともグレーターベアよりは格上だ。

けど、疑問がひとつある。

昔までは毎年来ていたなら、何か対処方法が有るんじゃないのか?


「来たときは、どう追い払ってたんだ?」


「……アナグは、人間に危害を及ぼすことは今まで有りませんでした。精々が柵の外から覗いている程度。しかし今回は……。」


長老が捻れた柵を見やりながら言った。

……なるほど。

要するに、久々に来たら凶暴性が強くなってたってことか。

そりゃ怖いわな。


「分かった……それで何か俺に出来ることは無いか?」


村人の役に立ちたい……と言うのも有るが、今俺は腹が減ってかなりヤバイ状況にある。

どうにか自然なムーブでご飯をご馳走になる流れに持っていきたい。


「……本当に申し訳ないのですが、柵を再構築するのを手伝って貰えないでしょうか。」


おお、これでやった後に、「報酬は温かい食事とスープだけで充分さ……(イケボ)」とか言えば完璧だな。

我ながらちっぽけな自尊心だとは思うが、有ると無いとでは全く違うからな。


「それでは、早速取りかかっても構わないか?」


「はい、私の指示通りに組み立てて下されば直ぐに終わりますので!」


「分かった!」


俺は恐らく木材などが置いてある倉庫に歩いていく長老に着いていきながら、このあと堪能出来るであろう暖かいスープに思いを馳せていた。

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新作はじめました。 現代日本で騎士の怪物になってしまった男の物語です。 貌無し騎士は日本を守りたい!
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