65.白い死神
「はぁ……はあ……終わったー!」
ハーネスがスコップを投げ出し、地面に寝転がった。
掘り進めてから大体5時間が経過し、家の土は全て排除されている。
空を見上げると空はまだ暗く、今日中に終わったと言える。
予想より早く終わったのは、家の中に土が入り込んでいなかった事が大きいな。
「そういえばケンイチ、この家は誰が住んでるんだ?」
「俺と……まぁ、俺だ。」
「え……ケンイチってこの森に住んでたのか!?」
ハーネスが凄まじい速さで立ち上がって俺に飛び付いてきた。
いや、こいつ前科があるからこういう急な動作されると怖いんだけど。
「そ……そうだけど。」
「……あの……もし良かったらなん、だけど……」
少し迷った様な顔をしたあと、決心した顔になった。
ん?何だ?
「ぅ、あ、あそあそあそあそあそあそあそあそあそ!」
怖いよぉぉぉ!
ど、どうした?また頭おかしくなったか?
「こ、今度!遊びに来ても良いですか!?」
何故か敬語で、ハーネスが聞いてきた。
ああ……どもってたのね……。
別に婆ネスの方なら来ても良いかな。
「良いぞ。何時でも来い。」
「ぇ……本当に良いの?」
ハーネスが、頭を横から殴られたみたいな間抜けな顔をしながら聞いてきた。
「ああ、大歓迎だ。」
「本……当に……!」
その言葉を聞いて、ハーネスは何故か涙を流していた。
けど決して悲しくはない、まるでずっと欲しかったものを買って貰った子供の様に無邪気な笑顔で。
「じ、じゃあ、また今度ね!」
ハーネスはそう言いながら涙を隠す様に俺に背を向け、走り去って行った。
そして俺も一息つこうと家に入ろうとすると、後ろから視線を感じ、魔物かと振り替える。
が、そこにはブラウが立っていた。
「あ、終わったんですね!それじゃあ入りましょうか!」
ブラウはそう言いながら俺より先に家に入っていった。
こいつ……絶対今まで寝てたな。
まぁ良いか。
普段ならグチグチ言ってたかも知れないが、流石に今日は疲れすぎた。
「あぁ……」
俺は藁に倒れ込み、その柔らかい感触に身を委ねた。
これ……下手なベッドより数段気持ち良いな……。
意識が少しずつ闇に沈んで行く。
◆
「ん……」
やけに空気が澄んでいるのを感じて、目が覚めた。
普段ならこんなことで目は覚めないが、俺も森の中で暮らすことで野生の本能的な物が覚醒したのかもしれない。
違和感の正体を確かめるためにドアを開ける。
俺の眼に飛び込んできたのは辺り一面の白、空から降り注いだそれは、地面を一色でベタ塗りにしていた。
肌寒い空気が家の中に入り込むのを感じる。
ーー雪だ。
雪が降ってる!
「ひやっふぅぅぅ!」
俺はついテンションが上がり、雪にダイブした。
間接部から冷たいものが入ってくるが、気にしない。
「け、ケンイチさん!雪が降ってますよ!」
俺の声で起きたのか、ブラウが驚いた様子で家から出てきた。
「おおブラウ!食らえ、スノーボール!」
俺はブラウに雪玉を作って投げつけた。
鎧の手袋が雪投げには最適だ。
やっぱ冬と言えば雪合戦だよな!
「何するんですか!じゃあ私はスノーキャノンですよ!」
ブラウの投げた雪玉がレーザービームの如く俺に向かって来た。
凄まじい衝撃を感じたが、今はそれさえ楽しく感じた。
「やったな!食らえ!ロックスノーボール!」
「ちょっ……それ痛いヤツですって!」
ふははは!
俺は勝てないと踏んだら平然と雪玉に石のつぶてを練り込む人間だからな!
雪合戦はその名の通り、戦争なんだよ!
「スノーブラスター!」
「ぎゃぁぁぁ!」
そう思った矢先、俺はブラウから最早どうやって投げたか分からない程の大量の雪の奔流を受けながら、ぶっ飛んだ。
や、やっぱ、遊びで本気になるヤツとかダサいよな!
ーー二時間後ーー
「あばばばばば。」
早くーー気づくべきだった。、
暖房も風呂も無い世界で、冷えやすい金属の鎧に入りながら雪遊びをすればむっちゃ寒いと言うことをーー
あ、ヤバイこれ。
死ぬわ。
「ケンイチさん!まだ決着は付いてませんよ!」
ブラウが、プロ野球選手バリの投球フォームで雪玉を投げてこようとしている。
ああ……死神の足音が聞こえる……。
バゴォン!
鎧が大きくへこむのを確認しながら、俺の意識は途切れた。
◆
「すいませんでしたぁぁぁ!」
俺が起きて最初に見たのは土下座をしている、なにか既視感を感じるブラウの姿だった。
……まぁ、雪合戦を仕掛けたのはこっちだしお互い様だ。
「つい熱くなってしまって……。」
「……ああ。」
パチンコで大枚スッてきた親父みたいなこと言いやがって……。
まぁ良いや、家で寝たお陰か寒さは大分マシになっている。
立ち上がると、自分の腹が減ってることに気付いた。
食い物を探しに行くか。
「ブラウ、朝飯を探しに行くぞ!」
「あ、分かりました」
俺は家から出て、いつものリンゴの木を見に行った。
そしてやっと気づく。事態の深刻さに。
「リンゴが……1つも実ってない……?」
リンゴだけじゃない。
かなり探し回ったが、作物どころか魔物さえ殆ど見つからない。
あっ……皆冬眠してんのか。
そして作物は冬に実らない。
何で俺は前の世界で当然だった事まで忘れてたんだ……。
先程まで天使に見えていた雪が俺の命を少しずつ削る白い死神に見えてきた。
クソ……どうすりゃ良いんだ……。
このままじゃ餓死一直線だぞ。




