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籠の中の鳥は  作者: 若松ユウ
第三部
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未来編⑦「また逢う日まで」【万里】

未来編⑦「また逢う日まで」【万里】


 先に旅立った彼を、私が追い駆ける日は、いったい、いつになるのかしら。

「誠は、すっかりさっちゃんの尻に敷かれててね。まぁ、これは自業自得だから、どうでも良いか。寿くんは、かごめ総合高校のデザイン科に在学してて、美大に進学しようか検討中なの。幼馴染の安奈ちゃんは月花女学院に通ってて、ゆっくり交流できるのは休日のみなんだけど、会えない分、熱が増すそうよ。あぁ、そうそう。お母さんは、パワースーツトライアスロンに挑戦中なの。年々元気になっていくから、不思議なものだわ」

 万里は墓石の前に立ちながら、まるでその場に博が居るかのように話す。周囲には、万里の他に人影は見当たらない。

「あと、かしましい三人娘が巣立って、がら空きになった子供部屋は、時々目黒さんや真白さんと三人で寄り集まって、和洋折衷の素敵なゲストルームに改装してるところなの。あっ、怒っちゃ嫌よ、博さん。お互いさまなんだから。博さんだって、一度へべれけになった女子行員を連れて帰ってきたことがあったじゃない。同性ならともかく、異性だなんて。しかも、ご丁寧に彼女の額には、あなたの首から抜き取ったネクタイを巻いちゃってさ。口には出さなかったけど、内心では『私というものがありながら酷い』って腸が煮えくり返ってたものよ。嫉妬する女は嫌いだと思って、何とかその場は我慢したけど。謝ったから良いだろうと思っているんだったら、大間違いよ。覚えてなさい」

 万里は墓石に向かって片手の人差し指を突きつけて宣言すると、そっと腕を下ろして横を向き、墓誌に彫られた享年を見ながら呟く。

「いくら時代が変わっても、ここはそのままだし、博さんも歳を取らないし。羨ましい限りだわ。それに比べて私ときたら、年々忘れっぽくなるし、老眼鏡や自転車の置き忘れるし、二階に上がったら、何をしに来たかと思ってしまうしで、ホント嫌になっちゃうんだから。こう言うと、そのうち僕と過ごした日々のことも忘れちゃうんじゃないかと心配するかもしれないけど、それは問題なしよ。二人で過ごした思い出は、上書きも消去もせず、名前を付けて保存してあるから。いつになるか分からないけど、そっちへ行ったときには、また二人でお話しましょう。もしも道に迷ってたら、必ず声を掛けてね。逃げちゃ駄目よ」

 万里は玉砂利をザクザクと踏みつつ外柵の外へ出ると、一度だけ振り返って微笑み、再び前を向いて本堂に向かって歩いて行く。

 この日以降、私は仏壇に線香やお供えはあげても、墓参りには行っていない。


※これにて完結です。ここまで連載を続けられたのも、ひとえに読者のみなさまの温かい応援のおかげです。最後の最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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