第31話 判決
「これは一体、どういうことなんですか?」
俺たちは珍しく声を揃えて、ミリアン先生に問い詰めた。
「ちょ、ちょっと二人とも顔が怖いって……! ちゃんと説明するから!」
ミリアン先生は、俺たちの表情に少し怯んだ様子だった。
でも、それも当然だと思う。
ついこの前まで、うちの部員を誘拐していた人物が、今度は同じ部に入ると言われたのだ。
誰だって疑問に思うだろう。
それに、この部に入ってからというもの、俺がここまで露骨に感情を顔に出したのは初めてかもしれない。
「これは学院長の決定なの」
「学院長が?」
「うん。最初から説明するね」
ミリアン先生は困ったようにため息をついた。
「あなたたちが学院に戻ってきたあと、私はすぐにエリックに呼び出されたの。もちろん、向かう途中で散々説教されたけど……」
……それは当然じゃないだろうか。
自分の娘を信頼している友人に任せた結果、こんな事件が起きたのだ。
立場が逆でも、きっと同じことをすると思う。
そしてミリアン先生は、あのあと何があったのかを俺たちに話し始めた。
*****
「――以上が、ハヴィックによるカミラ誘拐事件の全容です」
学院長室。
エリック教授は、事件の経緯を包み隠さず学院長へ報告していた。
「では、この魔導装甲は君自身が作ったものなのかね? ハヴィック・スターリング君」
学院長は、両手を縛られたまま床に跪いているハヴィックへ視線を向けた。
ハヴィックは何も答えず、ただ静かに頷く。
学院長は机の上に置かれた魔導装甲へ目を移した。
「自分の弱さを認め、それを技術で補おうと考え、さらには自身の戦闘力を高める魔導装甲まで作り上げた」
そこで一度、言葉を切る。
「その点について、私は否定するつもりはない」
「……え?」
その言葉に、その場にいた全員が固まった。
ミリアンとエリックも、一瞬自分の耳を疑ったほどだった。
「しかし、学院長……!」
エリックが反論しようとしたところで、学院長は片手を上げて制した。
「己を強くすること自体は、悪いことではない」
学院長の声が、そこで一段低くなる。
「問題なのは――自分の力を証明するために、同じ学院の生徒を誘拐したことだ」
ハヴィックは俯いたまま、何も言わない。
「どんな理念を抱えていようと、それで今回の行為が正当化されることはない」
学院長はまっすぐハヴィックを見つめた。
「ハヴィック・スターリング君。生徒を誘拐し、無断で危険な実験を行った件について、今日から研究施設への自由な出入りを禁止する」
ハヴィックはしばらく黙っていたが、やがて小さく頭を下げた。
「……受け入れます」
「ただし――」
学院長の口調が、わずかに柔らかくなる。
「研究施設に出入りできなくなったからといって、何もしなくていいわけではないぞ?」
「……?」
ハヴィックが顔を上げる。
学院長は、そのまま傍に立っていたミリアンへ視線を移した。
「ミリアン」
「は、はい!」
「今回、君にも生徒の安全管理に不十分な点があった。それに、手紙が本物かどうかの確認も怠っていたね」
「……はい」
ミリアンが小さく俯く。
「そこで、ハヴィック君を君の部に所属させようと思う」
「……え?」
今度はミリアンが固まった。
「君のところなら様子も見られる。それに――」
学院長は再びハヴィックを見る。
「自分を強化する以外に、技術をどう使えるのか。そこで学んでみるといい」
「は、はい……」
「ま、待ってください、学院長!」
とうとうエリックが口を挟んだ。
「您的判斷を疑うつもりはありません。ですが、カミラは今、その部に所属しているんですよ……?」
エリックは最後まで言わなかった。
だが、言いたいことは十分に伝わる。
自分の娘を誘拐した相手を、なぜ娘と同じ部に入れるのか。
「君が心配していることは分かっている」
学院長は落ち着いた声で答えた。
「だが、君も気づいていたはずだ。事件の最初から最後まで、ハヴィックはカミラに対して殺意を向けていなかった」
「しかし――」
「もちろん、それで誘拐という行為が帳消しになるわけではない」
学院長はエリックの言葉を遮った。
「だからといって、完全に放任するつもりもない。今後はミリアンの部の一員として活動してもらう」
そして、ハヴィックへ目を向ける。
「もし同じようなことをもう一度起こせば、次はない。その時は魔導装甲そのものにも制限をかける」
「……分かりました」
「では、これで決まりだ」
学院長が一度、手を叩いた。
「解散」
こうして。
誰もが予想していなかった形で、ハヴィックへの処置は決まった。
*****
「――というわけなの」
ミリアン先生は、当時のやり取りを一通り俺たちに説明してくれた。
「エリックは最後まで納得してなかったけど、学院長の判断だから、受け入れるしかなかったみたい」
「つまり……」
カミラは、傍に立っているハヴィックへ視線を向けた。
「主な処分は、研究施設に自由に入れなくなったことだけ?」
「そうだ」
ハヴィックが頷く。
カミラはしばらく彼をじっと見つめていた。
そして――
「じゃあ……その魔導装甲、私に研究させてくれない?」
「は?」
「え?」
俺と沙耶香は、ほぼ同時にカミラを見た。
言われた本人であるハヴィックですら、その場で固まっている。
まさか最後に、カミラがそんなことを言い出すとは誰も思っていなかった。
「ほ、本当にいいの? カミラちゃん」
沙耶香が少し心配そうに尋ねる。
「実は捕まってた時から、ずっと気になってたの。ハヴィックが作ったもの」
「……」
さすがカミラだ。
あんなことがあったというのに、頭の中ではまだ他人の魔導装置を研究することを考えていたらしい。
「ふふっ。研究するのはあとにしなさい」
ミリアン先生が手を叩いた。
「あなたたち、まだ依頼が残ってるでしょ?」
「あ……」
忘れていた。
そういえば、俺たちにはまだ仕事が残っていた。
というわけで。
ひとまずハヴィックのことは後回しにして、今日の依頼へ向かう準備を始める。
ただ――
俺は、新しく部に加わったハヴィックをちらりと見た。
これから、この部は……。
もう退屈することはなさそうだ。
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