第30話 新しい部員
「くそっ……」
敗北したハヴィックは、花穂によってがっちりと縛り上げられていた。
一方のカミラは、幸い大きな外傷こそなかったものの、長時間まともに食事も水分も取っていなかったせいで、かなり衰弱している。
今は俺と沙耶香の二人で、身体を支えていた。
「ハヴィック。お前が以前、俺の下で研究していたことを考えれば、多少は情状を酌むよう話すこともできる」
エリック教授はそう言ったあと、表情を険しくする。
「だが、カミラを誘拐した件まで、なかったことにするつもりはない」
エリック教授は、箱型に戻った魔導装甲を手に取った。
「こいつは学院長に提出する。お前のことも、俺から直接報告するつもりだ」
そして、ハヴィックをまっすぐ見据える。
「この学院に残れるかどうかは――学院長の判断次第だ」
ハヴィックにどんな過去があったのか、俺にはまだ詳しく分からない。
そう考えると、少し残酷な気もする。
とはいえ。
ここまでのことをしたのは、他でもないハヴィック自身だ。
俺が口を挟めるようなことでもないだろう。
学院長本人が判断すると聞いた瞬間。
さっきまで険しい表情を浮かべていたハヴィックも、途端に大人しくなった。
結局のところ。
こいつだって、この学院にいられなくなるのは怖いらしい。
*****
「だからダメだって言ってるでしょ!」
カミラ誘拐事件から、一日が経った。
カミラはすでにほとんど回復し、いつも通り学院生活へ戻っている。
一方。
ハヴィックのほうは、まだ学院長からの処遇を待っているらしい。
それはともかく……。
どうして俺は、部室の前に立っているだけで沙耶香の声が聞こえてくるんだ?
何が起きているのかは分からない。
でも。
声を聞くだけで、沙耶香がかなり怒りかけていることだけは分かる。
……入らないほうがいいか?
少し悩んだものの。
結局、俺は扉を開けた。
せめて沙耶香が何に怒っているのかくらい、確認しておこう。
「あっ! シュン君! 聞いてよ!」
俺の姿を見るなり、沙耶香が頬をわずかに赤くしながら、ぷくっと頬を膨らませて駆け寄ってきた。
その一方。
カミラは席に座ったままお茶を飲んでいる。
ただし、表情は明らかに不機嫌そうだ。
……一体何があったら、二人ともこんな状態になるんだ?
「な、何があったんだ?」
「カミラちゃんが、また勝手に他の人の修理を引き受けようとしてるの!」
「え?」
俺は驚いてカミラを見る。
「本当なのか?」
「別にいいでしょ。向こうから頼まれたんだから」
「じゃあ、その相手は依頼書を書いたのか?」
「……」
「頼まれたとしても、ちゃんと依頼書を通してからじゃないとダメだろ」
依頼書の話を出した途端。
カミラは何も言わなくなり、こっちから視線まで逸らした。
……なるほど。
相手は書いてないんだな。
一応、これはうちの部の基本的な決まりだ。
しかもカミラは、ついこの前似たようなことで事件に巻き込まれたばかり。
それなのに反省するどころか。
また勝手に相手と口約束していたらしい。
「あなたたち、何を騒いでるの?」
ちょうどそのとき。
ミリアン先生が部室へ入ってきた。
「廊下にまで声が聞こえてたわよ」
「先生! カミラちゃんが……!」
沙耶香は、さっきまでの事情を改めてミリアン先生へ説明した。
「なるほど。そういうことね」
「でも先生! 困ってたから、私はただ……」
「カミラの気持ちは分かるわ」
ミリアン先生は穏やかに答える。
「でも、私たちは依頼書を受け取ってから、正式に依頼を受けることになってるの」
そして少し間を置いてから。
「それと、あなたたちが話してるその生徒なら、さっき私のところにも来たわよ」
……よかった。
ちゃんとミリアン先生のところにも行っていたらしい。
それなら俺も、これ以上この件で悩む必要はなさそうだ。
「もちろん、依頼書も書いてもらったし、他に妙な目的がないことも確認済みよ」
ミリアン先生は、わざわざ「他に目的はない」とまで付け加えた。
……やっぱり。
カミラの件でちゃんと確認できなかったことを、まだ気にしてるんだろうな。
「それに――」
ミリアン先生が少し笑う。
「ちょうど新しい部員にも、うちの活動を体験してもらえるしね」
「新しい部員?」
「そうよ。入ってきて」
……。
なんだろう。
ものすごく嫌な予感がする。
扉の向こうから、一人の人影が部室へ入ってきた。
しかも。
自分専用らしい装備まで持っている。
まさか……。
俺の嫌な予感は、見事に的中した。
「二年一組のハヴィック・スターリングだ。よろしく頼む」
一秒。
部室の空気が完全に止まった。
「「ええええええっ!?」」
ハヴィックのクラスについて、前の話でうっかり「二年A組」と書いてしまっていましたが、正しくは「二年一組」です!
該当箇所は修正済みです。よろしくお願いします!
お読みいただきありがとうございます。
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