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第29話 本当の魔導装甲

「本当の魔導装甲……」


ハヴィックの全身は、金属製の装甲によって完全に覆われていた。

ついさっきまで地面に倒れていた少年は、今やその魔導装甲の中へ完全に収まっている。

――ハヴィック一号。

正式に起動した。

俺はもう一度、魔眼でその姿を観察する。

……これは。

装甲内部に秘められた魔力量が、俺の想像を遥かに超えている。

ハヴィック本人の魔力だけじゃない。

どうやらこの装甲には、あらかじめ魔力を充填しておくための貯蔵装置まで搭載されているらしい。

俺が皆に注意を促そうとした、その瞬間――

花穂とハヴィックが、ほぼ同時に動いた。

ハヴィックが片手を上げる。

掌に備えられた砲口が、まっすぐ花穂へ向けられた。

花穂も同時に手を伸ばし、拳銃を構えるような形で人差し指をハヴィックへ向ける。


『集え――雷弾!』


ハヴィックの掌に眩い光が集まり。

花穂の指先には、青い球状の雷が形成される。

次の瞬間――

二つの魔法が真正面から激突した。

激しい閃光が、一瞬にして倉庫全体を照らし出す。

直後、大量の煙が周囲へ広がり、完全に視界を塞いだ。

だが――

一つの影が、その煙の中から勢いよく空中へ飛び出した。

ハヴィック一号だ。

ハヴィックは空中で停止すると、再び両手を持ち上げる。

数発の掌砲が、容赦なく煙の中へ撃ち込まれた。


「花穂先輩!」


ドナグもすぐに追いかける。

両脚を激しい炎が包み込み、その推進力を利用して一気に空中へ飛び上がった。

あっという間に、二人は同じ高さまで上昇する。

ただし――

二人の飛び方は、まったく違う。

ハヴィックは、魔導装甲そのものに備わった飛行機能を使っている。

しかも装甲内部には、あらかじめ充填された魔力が蓄えられていて、それを飛行や武装の維持に利用できる。

一方、ドナグは違う。

自分自身の魔力を消費し続け、足元の炎によって空中での行動を維持している。

もしこのまま長時間の空中戦になれば――

どちらが先に限界を迎えるのか。

今の時点では、まだ分からない。

何しろ。

俺は未だに、ドナグが本当はどれほどの魔力量を持っているのか知らないからだ。


「飛ぶだけなら、俺だってできる!」


ドナグが片手を上げる。

次の瞬間。

無数の赤い魔法陣が、ドナグの背後に一斉に展開された。

そこから次々と火球が放たれ、ハヴィック一号へ向かって一斉に襲いかかる。


「本人が中に入ったところで、どうせ前のやつらと同じ――」


だが。

火球を放った、その瞬間。

ハヴィック一号の姿がその場から消えた。


「なっ――!?」


ドナグが気づいたときには。

ハヴィックはすでに、その目の前にいた。

金属の手が勢いよくドナグの首を掴む。

そして――


容赦なく地面へ向かって投げ落とした。


「うわあああっ!」


ドナグの身体が、高速で地面へ落下していく。

その一方で。

地上を覆っていた煙の中から、無数の小さな雷箭がハヴィックへ向かって飛び出した。

ハヴィックはすぐに片腕を持ち上げる。

金色に輝く光の盾が、一瞬で展開された。

大量の雷箭が盾へ次々と激突し、無数の雷光となって弾け飛ぶ。

あれは……。

光属性の防御魔法?

それを魔導装甲によって安定させているのか。

どうやら。

俺はハヴィックのことを少し甘く見ていたらしい。

そして、空中から落下していたドナグには――


『電網!』


雷で作られた巨大な網が下方に展開され、その身体をしっかりと受け止めた。


「た、助かりました、先輩!」


「気にしないで……」


花穂は空中にいるハヴィックを見上げる。


「まさか魔導装甲を着けただけで、ここまで強くなるなんてね」


正直。

傍で見ている俺も驚いていた。

あの魔導装甲は、単純に防御力を上げているだけじゃない。

飛行。

攻撃。

防御。

さらには、魔法そのものの使い方まで変えている。


「そういえば……」


俺は隣を見る。


「リン。お前、どうしてまだここにいるんだ?」


ドナグと花穂があれだけ戦っているのに。


リンはさっきから俺の隣に立ったまま、まったく戦闘へ参加する様子がない。


「私は……」


リンは少し黙った。


「今の状況なら……まだ私が出る必要はないと思う……」


「理由は?」


「……個人的な理由」


「そうか」


本人が話したくないなら。

無理に聞く必要もないだろう。

その間にも、戦闘は続いていた。

立ち上がったドナグはすぐに紅蓮槍を握り直し、再びハヴィックへ向かって突っ込んでいく。

紅蓮槍が横薙ぎに振るわれる。

ハヴィックはすぐに身体を横へずらして回避。

同時に、その掌が再び光り始めた。

至近距離から光砲がドナグへ放たれる。

ドナグは即座に紅蓮槍を回転させ、正面から攻撃を受け止めた。

そして。

ハヴィックの意識がドナグへ向いた、その瞬間――

花穂が横から一気に距離を詰める。

雷によって形成された刃が、そのままハヴィックへ振り下ろされた。

ハヴィックもすぐさま光の盾を展開する。

雷刃と光盾が激しくぶつかり合った。

互いの魔力が反発し、眩しい光が周囲へ飛び散る。

だが。

交戦を重ねるにつれて。

花穂の表情に、わずかな変化が現れ始めた。


「……何か、おかしい」


「先輩、どうしたんですか?」


「ドナグ君」


花穂は声を落とした。


「ちょっと手伝って」


二人がほんの一瞬言葉を交わした、そのとき――


「戦ってる最中に話してる余裕があるのか!」


ハヴィックが一気に加速した。

そのまま拳を二人へ向かって叩き込む。

しかし――

ドナグが正面から、その拳を受け止めた。


「なっ――!?」


ハヴィックが明らかに動揺する。

ドナグは反応する暇を与えなかった。

紅蓮槍が続けざまに振るわれる。

一撃。

二撃。

三撃――!

ハヴィックは防御しながら、後退を強いられていく。

同時に。

花穂も自ら距離を取り始めた。


『雷箭!』


『雷弾!』


雷属性の魔法が、次々と異なる角度からハヴィックへ飛んでいく。

ハヴィックは光盾を展開しようとする。

だが。

ドナグの途切れることのない連続攻撃が、防御を整える暇を与えない。

近距離にはドナグ。

遠距離には花穂。


「……くそっ!」


二方向から攻め立てられ。

ついにハヴィックの防御に綻びが生まれ始めた。

いくつかの攻撃が防御を抜け、直接装甲へ命中する。

ドン!

ハヴィック一号が大きく後方へ弾き飛ばされた。

その動きも、徐々に不自然になっていく。

……魔力が尽きかけている?

いや。

俺はもう一度、魔眼で確認する。

装甲内部を流れる魔力量は――

むしろ増えている。

ハヴィックが再び体勢を立て直す。

次の瞬間。

装甲を走る魔力回路が、それまで以上に眩しい光を放ち始めた。


「ハヴィック!」


エリック教授がすぐに異変へ気づいた。


「やめろ! それ以上出力を上げたら、お前自身の魔力回路が先に持たなくなる!」


「それがどうした!」


ハヴィックが装甲の中から怒鳴り返す。


「この程度の危険すら背負えないなら――」


装甲の輝きが、さらに強くなる。


「力を持たない人たちを救うなんて、どの面下げて言えるんだよ!」


その言葉は。

その場にいた全員の耳へ、はっきりと届いた。

……。

なるほど。

そういう思いで、ここまでやってきたのか。

だけど。

悪いな。

このまま続ければ。

お前を待っているのは「惨敗」程度じゃ済まない。

それなら――

少しだけ、止めさせてもらおう。

全員の注意がハヴィックへ向いている隙に。

俺は何気ない動作で、軽く片手を振った。

次の瞬間。

出力を上げ続けていたハヴィック一号の光が――

突然、弱まった。


「……え?」


ハヴィックが明らかに固まる。


「なんだ……?」


装甲の動きが、徐々に鈍くなっていく。


「どうして……」


ハヴィックは再び装甲を起動させようとする。


「どうして動かない!?」

「どうしたんだ?」


その異変を見て。

ドナグと花穂も一度攻撃を止めた。


「魔力が……切れた?」


パチッ。

右腕の魔力回路が消える。

続いて。

左脚。

背中。

胸部――

一つ。

また一つと。

装甲を走っていた光が消えていった。

そして最後には。

ハヴィック一号は完全に身体を支えられなくなり――

片膝を地面へついた。

お読みいただきありがとうございます。

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