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幕間 ハヴィックの独白

痛い……。


俺は床に倒れたまま、自分が廃材を寄せ集めて作った傑作たちが、無残に壊れて転がっている光景を見つめていた。


今残っているのは――


机の上に置かれた、あの「本命」だけ。


またか……。


また、この光景なのか?


また昔と同じなのか……。


『おい! 廃品拾いの平民! さっさと起きて俺たちの鞄を持てよ!』


昔の俺の家は、貧しかった。


生活していくためには、あちこちを回って売れそうな廃品を拾い、それをわずかな金に換えるしかなかった。


そして当時。


近所に住んでいた金持ちの家の子供たちは、そんな俺を馬鹿にして、何度もいじめてきた。


栄養状態も悪く、身体も体力も他の奴らには敵わない。


それを自分でも分かっていたから。


俺はただ黙って耐えるしかなかった。


『ははっ! もっと早く歩けよ! うちの掃除用魔導器のほうがお前より速いぞ!』


俺の子供時代は、そんな侮辱といじめの繰り返しだった。


あの頃の俺が考えていたことなんて、一つしかない。


――自分にも、自分を守れる力があれば。


十五歳になったある日。


俺は何気なく、両手で何かをすくうような形を作った。


次の瞬間――


眩しい白い光が、俺の手のひらに集まり始めた。


『お、おお! ハヴィック……俺の息子よ! 魔法に目覚めたのか!?』


父は、俺の手の中に浮かぶ光を見て目を見開いた。


俺たちのような底辺の平民にとって。


優れた魔法適性は、上流社会へ足を踏み入れるための通行証にも等しい。


魔法に目覚めれば、現在唯一の魔法学院――


ドゥルート魔法学院へ入学する資格を得られる。


それはつまり。


俺たちにとって遠い世界だった上流社会へ、一歩近づくということでもあった。


父は大喜びした。


それから父は、俺をさまざまな晩餐会へ連れていくようになった。


そして集まった商人たちの前で、俺に光魔法を使わせた。


『これが私の息子です』


『スターリング家の息子に、こんなに優れた魔法の才能があったとはな』


昔は。


俺たちのことなんて、ろくに見ようともしなかったくせに。


今では一人、また一人と笑顔を浮かべながら、


「将来有望な子供だ」


そう言って俺を褒め始めた。


商人たちは俺の光魔法を、まるで珍しい宝物でも見るかのように眺めていた。


その中には、俺がドゥルート魔法学院で不自由なく生活できるよう、援助を申し出てきた年老いた商人までいた。


そしてそれは。


一度回り始めた歯車のようだった。


一人が手を差し伸べれば、他の人間も次々と近づいてきて、似たようなことを言い始める。


もちろん。


「援助」と言っても、純粋に俺のためだけではない。


彼らは父の商売にも投資し、取引を始めた。


こうして俺たち一家は。


何も持たず、廃品を拾って暮らしていたただの平民から。


少しばかり財産を持つ商人の家へと変わっていった。


家にも金が入るようになり。


俺も無事、ドゥルート魔法学院へ入学した。


入学して最初に驚いたのは、学院に存在する高度な魔導技術だった。


どれも、今までの俺が見たこともないものばかりだった。


そして、その頃から。


俺は機械というものに強く惹かれるようになった。


さらに――


エリック教授と出会った。


『俺たちが新しい魔導器具を作るのは、世界をより良くするためだ』


『すべての人の暮らしを良くするためにな』


当時。


エリック教授は壇上に立ち、俺たちに魔導技術の理念や用途について説明していた。


まだ何も知らなかった俺にとって。


彼の言葉は、ほとんど真理そのものだった。


学院には、便利な魔導設備がいくらでもあった。


新型の魔導洗濯設備。


医療設備。


エネルギー設備。


そして、数え切れないほどの便利な魔導機械。


どれも俺が今まで触れたことのないものばかり。


だから俺は、本気で信じていた。


いつか――


こうした技術が、俺たちが昔暮らしていた貧民街の生活も変えてくれる。


そう思っていた。


その後。


機械への強い興味と研究への熱意をエリック教授に認められ。


俺は研究棟を自由に出入りする許可まで得た。


エリック教授の下で学び始めてから。


わずか数か月の間に、俺はいくつもの魔導技術競技で賞を取った。


ある程度の知識を身につけた頃。


俺は、魔導装甲の設計にも手を出し始めた。


戦うことが得意ではない人間でも。


自分の身くらいは、自分で守れる。


そんなものを作りたかった。


だが――


俺の設計案は、ほとんど毎回エリック教授に却下された。


『この部分は認められない』


エリック教授は設計図を見ながら、そう言った。


『どうしてですか?』


『これはもう、兵器の方向へ進み始めている』


教授は設計図を机へ戻す。


『認めるわけにはいかない』


『俺たちが魔導器を作るのは、戦争を起こすためじゃないんだ』


言っていることは分かった。


俺だって、戦争を起こしたくてこんなものを設計していたわけじゃない。


だから。


魔導装甲の設計を何度却下されても、俺は他の魔導器具の研究を続けた。


あの頃。


毎日、魔導器具や魔導装甲の設計に夢中になっていた時間は――


間違いなく。


俺の人生で、一番楽しかった。


あの日までは。


一年で最も暑い季節。


学院が夏休みに入り、俺も久しぶりに家へ帰ることになった。


その途中。


昔、まだ家が貧しかった頃に暮らしていた場所へ足を運んだ。


だけど。


そこで目にした光景は――


俺が想像していたものとは、まるで違っていた。


いや。


以前より、ひどくなっていた。


街は相変わらず汚れている。


道端にはゴミや汚水が溜まり。


穴だらけの服を着ている人間が、そこら中にいた。


道端で物乞いをしている人も、昔より増えている。


まだ学校へ通う年頃の子供たちは。


相変わらず金持ちの家の子供たちにいじめられ、殴られていた。


空腹に耐えきれず。


ゴミ箱の中から、まだ食べられそうな物を探している人間までいた。


何も。


変わっていなかった。


いや。


変わったのは――


俺たちの家だけだった。


ここで貧しく暮らす人間は。


むしろ、昔より増えている。


魔導技術は、世界の「すべての人」を豊かにする。


エリック教授はそう言っていた。


でも……。


その「すべての人」は、どこにいる?


どうしてこの世界では。


弱い人間だけが、ずっとこんな目に遭わなきゃいけない?


分からなかった。


どうして。


誰も手を差し伸べようとしない?


俺たちが魔導技術の便利さを享受している間――


地べたで苦しんでいるこいつらは、一体何を味わっている?


あのとき。


俺はようやく現実というものを知った。


いや。


違う。


正確には――


理想に浸っていた俺を。


現実が容赦なく、叩き起こしたんだ。


*****


「……終わり?」


意識が現在へ戻る。


俺はまだ床に倒れたまま。


憎しみを込めて、エリック教授を睨みつけていた。


「いや……」


歯を食いしばる。


「まだ終わってない!」


エリック教授が俺を見る。


「まだ、そんな存在してはいけないものを作ることを諦めていなかったのか?」


「お前には分からない!」


俺は叫んだ。


「俺たちみたいな人間が、どうやってここまで生きてきたのか!」


ゴゴゴゴゴ――!


倉庫全体が激しく揺れ始める。


「来い――ハヴィック一号!」


机の上に置かれていた箱型の装置が、一気に浮かび上がった。


ガシャン――!


装置は俺の背後へ飛び。


中央から左右へ展開する。


まず背中へ固定され。


続いて腰。


両脚。


胸部。


金属装甲が次々と身体に沿って伸び、四肢を完全に覆っていく。


床に倒れていた俺の身体も。


装甲に支えられるように、ゆっくりと立ち上がった。


そして最後に――


ガシャン。


面甲が閉じる。


「これこそが――」


白い魔力回路が、全身に沿って光を放ち始めた。


「本当の魔導装甲だ!」

読んでいただきありがとうございました!もし「続きを読みたい!」と少しでも思っていただけたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価をぽちっと押していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!

今後ともよろしくお願いいたします!

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