第26話 魔導装甲
「全員、揃ったな?」
エリック教授は、学院棟前の広場に集まったカミラ救出隊を見渡した。
メンバーは、俺と沙耶香。
そして魔法騎士団から、ドナグ、リン、神代花穂の三人だ。
「これを持っていけ」
エリック教授が、一つの円形装置を差し出してきた。
大きさは手のひらほどで、小さな円盤のように見える。
「試しに魔力を流してみろ」
俺は言われた通り、円盤へ魔力を注ぎ込んだ。
次の瞬間――
円盤の中央から光が投射される。
そして、俺たちの目の前にエリック教授の立体映像が浮かび上がった。
「おおっ!」
その場にいた全員が、思わず声を上げる。
見た目だけじゃない。
投影されたエリック教授は、目の前にいる本人とまったく同じように動き、同じように口を動かしていた。
「これがあれば、離れた場所からでもいつでも連絡を取れる」
「ん?」
ドナグが不思議そうに首を傾げた。
「教授は一緒にカミラさんを助けに行かないんですか?」
「俺は研究室に残る」
エリック教授が答える。
「研究棟のシステムなら、倉庫周辺の魔導反応を継続して監視できる。俺まで現場に行けば、逆に全体の状況をリアルタイムで把握できなくなるからな」
「なるほど」
「出発前に、もう一度確認するわ」
そこで花穂が口を開いた。
「必要な物は全部持った?」
ドナグとリンはすぐに、自分たちの装備を確認し始める。
「問題ないなら、出発するわよ」
花穂は俺たちをちらりと見た。
「それと、覚えておいて」
「何かあったら、すぐに私へ報告すること」
そう言い残すと、花穂はドナグとリンを連れて先に歩き出した。
エリック教授も特に何も言わず、そのまま研究室へ戻っていく。
最後にその場へ残ったのは、俺と沙耶香だけだった。
ただ、一つだけ気になったことがある。
リンは立ち去る直前、こちらを振り返っていた。
……何か言いたそうだったような。
「お姉さんって、いつもあんな感じなのか?」
俺は隣にいる沙耶香へ尋ねた。
名前を出さなくても、誰のことを聞いているかくらいは分かるだろう。
「だいたいあんな感じかな……」
沙耶香は少し困ったような表情を浮かべた。
「お姉ちゃんって昔から気が強いし……自分で仕切りたがるところもあるから」
「見れば分かるな」
それ以上は聞かなかった。
俺と沙耶香も花穂たちを追い、カミラを救出するため廃倉庫へ向かった。
*****
実際に廃倉庫まで来てみると。
目の前の建物は、地図で見たものとほとんど変わらなかった。
そこまで大きいわけでもない。
外から見る限りでは、どこにでもありそうな普通の倉庫だ。
しかし――
「みんな、下がって!」
俺たちが倉庫へ近づいた瞬間、花穂が何かを察知したように手を伸ばし、全員を制止した。
次の瞬間。
金属製の何かが、倉庫の脇から飛び出してくる。
ズンッ――!
重い機体が倉庫の入口前へ着地した。
それは両腕を持ち上げる。
掌に正体不明のエネルギーが集まり、そのまま俺たちへ向けられた。
俺はすぐに魔眼で確認する。
掌に集まっている力……
魔力だ。
いや――
あの両手だけじゃない。
この装甲全体が、魔力によって動いている。
「先輩! ここは俺に任せてください!」
ドナグが自ら前へ出た。
「こういう機械なら、前に一度戦ったことがあります!」
前に?
非法道具事件のときに出てきた、あの魔導装甲のことか。
あのときは、俺を助けるためにシュート先輩たちがかなり苦戦したと聞いている。
一度戦った経験があるからだろう。
ドナグは自分から最前列へ出て、花穂とリンを庇うように立った。
本当に主人公みたいな奴だな。
ドナグはそのまま迷うことなく手を上げる。
そして、自分が最も得意とする魔法を放った。
『燃え上がれ――火球!』
複数の火球が、ドナグの周囲に次々と浮かび上がる。
次の瞬間。
すべての火球が、一斉に魔導装甲へ向かって飛んでいった。
魔導装甲も攻撃を検知し、即座に行動する。
両腕を持ち上げた。
掌から放たれた魔力弾が、飛んでくる火球を一発ずつ撃ち落としていく。
ドン! ドン! ドン!
爆発によって生まれた煙が、一瞬で双方の視界を覆った。
だが――
ドナグがこれだけで終わるはずがない。
『貫け――紅蓮槍!』
前回の経験から、魔導装甲が火球を迎撃することまで予想していたらしい。
魔力弾と火球がぶつかり合い、煙が広がったその瞬間。
紅い炎を纏った槍が、煙の向こう側から飛び出した。
そのまま――
魔導装甲を真正面から貫く。
ドゴン――!
紅蓮槍の直撃を受けた魔導装甲は大きく後方へ吹き飛び、倉庫の扉へ激突した。
そして――
そのまま動きを止めた。
「……え?」
ドナグが目を丸くする。
「嘘だろ? 弱っ!」
確かに。
前回とは、あまりにも違いすぎる。
あのときの魔導装甲なら、ドナグの紅蓮槍でもこんな簡単にはダメージを与えられなかったはずだ。
だが目の前の機体は、一撃を受けただけで完全に停止してしまった。
魔導装甲を倒した直後。
花穂が持っていた円形の通信装置が、赤い光を点滅させ始めた。
「ん?」
花穂が装置を手に取り、魔力を流し込む。
次の瞬間。
再びエリック教授の立体映像が現れた。
「やっと繋がったか!」
なるほど。
赤く光るのは、エリック教授から連絡が来ている合図らしい。
「近くで稼働中の機体を一体検知したから、注意するよう伝えようと思っていたんだが……」
エリックは倒れている魔導装甲へ目を向けた。
「どうやら、もう片づけたみたいだな」
「教授!」
ドナグがすぐに装置へ近づいた。
「こいつ、弱すぎません!? 前に戦ったやつと全然違うんですけど!」
「前っていうのは、非法道具事件のときだろう?」
エリック教授が答える。
「ミリアンから話は聞いている」
通信装置越しに倒れた機体を眺めながら、その構造を分析しているようだった。
「これはただ魔力で動いているだけの、普通の自律型魔導装甲だ」
「どういう意味ですか?」
ドナグが首を傾げる。
「お前たちが前に戦った魔導装甲には、非法道具が使われていた」
エリックは説明を続けた。
「非法道具というのは、使用者の能力を短時間で、本来なら到底届かない領域まで引き上げるものだ」
「そこに製作者自身の装甲設計や調整技術まで加わった結果、お前たちは『普通の魔法がほとんど通じない』と感じたわけだ」
なるほど……
だから、あのとき。
俺が指輪を一つ外しただけで、あの装甲は力に耐えきれなくなったのか。
「えっと……」
ドナグが気まずそうに手を上げた。
「すみません教授。やっぱりよく分からないです」
……
どうやら今の説明は、ドナグには少し難しかったらしい。
エリックは一瞬黙った。
「じゃあ、もっと簡単に言うぞ」
倒れている魔導装甲を指差す。
「例えば、製作者が安定して供給できる魔力がC級程度だったとする、どれだけ装甲の設計が優秀でも、普通ならせいぜいB級に近い性能を引き出せる程度だ、装甲は、何もないところから魔力を生み出しているわけじゃない、使用者が供給した魔力を、より効率よく力へ変換しているだけだ」
エリックはドナグを見る。
「だが、お前たちが前に戦ったあの機体は、非法道具で無理やりその限界を突破していた」
「おお!」
ドナグがようやく納得したような顔をする。
「じゃあ、あのときのやつはズルしてたってことですか?」
「……大雑把に言えば、そうだ」
なるほど。
つまり――
もし、この魔導装甲を作った人間が安定して供給できる魔力がC級程度なら。
たとえ相当優れた技術を持っていても、この機体が普通に発揮できる性能はB級前後ということになる。
対して、パチシンル・ドナグ。
こいつは入学早々、学院の魔力測定装置を壊した人間だ。
今でも本当の魔力ランクがどれくらいなのかは分からないが……
少なくともE級程度なんてことはありえない。
この魔導装甲が相手にならないのも当然か。
「ただし、油断するな」
エリックの声が急に真剣になる。
「相手がわざわざ入口に魔導装甲を配置している以上、カミラを連れ去った人間は倉庫の中にも他の防衛設備を用意している可能性が高い、中へ入ったら十分に気をつけろ」
そう言い終えると。
通信装置の光がゆっくりと消えていった。
エリック教授の立体映像も、それと同時に消える。
「中にいる装甲もこの程度なら、正面からの戦闘は問題なさそうね」
花穂が倉庫の奥へ視線を向ける。
「本当に警戒するべきなのは数と、仕掛け――」
少し間を置く。
「それから、相手がどこから襲ってくるか」
花穂は振り返り、俺たち全員を見た。
「全員、気を抜かないで」
「分かりました、花穂先輩!」
ドナグがすぐに返事をする。
状況を確認し終えると。
花穂が先頭に立って、倉庫の入口へ向かった。
リンとドナグがその後に続く。
俺と沙耶香も、少し遅れてその後を追った。
こうして――
俺たちはついに、あの廃倉庫の中へ足を踏み入れた。
これまで作中で「ロボット」と表記していたものは、設定整理のため「魔導装甲」に名称を統一しました。
過去話の表記についても「魔導装甲」に修正しています。
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