第23話 調査の第一歩
翌日。
朝から、俺たちの教室の外には大勢の男子生徒が集まっていた。
「おい、見ろよ。あそこにいるぞ」
「魔法騎士団部に入ったらしいな。俺も転部しようかな」
「ミルレイ・リン……噂どおり、本当に綺麗だな」
似たような会話を聞くのも、これでもう何度目か分からない。
いつからなのか、リンは学院内で少しずつ注目を集めるようになっていた。
同じクラスの生徒だけではない。
ほかのクラスの男子まで、彼女を一目見るためだけに、わざわざ俺たちの教室までやって来る。
そのせいで、教室の外にある廊下は一日中、人だかりが絶えなかった。
そして、廊下側の窓際に座っている俺は、当然のように最前線の被害者となっていた。
……俺の耳が。
朝からまったく休まらない。
「シュン君!」
いっそのこと窓を閉めてしまおうかと考えていたそのとき、集まった生徒たちの向こう側から、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「どうしてシュン君のクラスの前に、こんなに人がいるの?」
「ん?」
俺は声のした方向へ振り返る。
「沙耶香?」
沙耶香は苦労しながら人混みをかき分け、俺の席の近くにある窓までやって来た。
そして窓枠に手をつき、小さく息を整える。
「別に、大したことじゃないよ」
俺は、いまだにリンの様子を盗み見ている男子生徒たちへ視線を向けた。
「もう今日に始まったことじゃない。それより、どうしてここに?」
「シュン君を探しに来たの」
沙耶香は周囲に聞こえないよう、少し声を落とした。
「これから、どの方向から調査を始めるか相談したくて」
その言葉を聞いた俺は、すぐに席から立ち上がった。
このままここにいても、まともに話はできそうにない。
何より、俺の耳がそろそろ限界だった。
その後、俺と沙耶香は二人で部室へ向かった。
部室の中には、誰もいなかった。
ミリアン先生も不在だ。
先生の話によると、カミラはまだ修理の手伝いを続けているらしく、ここ数日は部室に来られないだろうとのことだった。
普段なら何人かが集まっているこの場所も、今は俺と沙耶香しかいない。
そのせいか、いつも以上に静かに感じられた。
沙耶香と二人きりで部室にいるのは、もしかすると初めてかもしれない。
今はもっと重要なことを考えなければならないはずなのに、なぜか少しだけ緊張してしまう。
改めて見ると、沙耶香の容姿もかなり整っている。
学年中の女子を順位づけするなら、間違いなく上位十人には入るだろう。
もちろん。
リンは、まともに比較できるような相手ではない。
まるでキャラクターを作るときに、誰かが能力値の調整を完全に忘れてしまったかのような存在だ。
……話が逸れた。
「それで――」
沙耶香は椅子を引き、机の前に腰を下ろした。
「私たちは、どこから調査を始めればいいのかな?」
「そうだな」
俺も彼女の向かい側に座る。
今のところ、俺たちが把握している情報はそれほど多くない。
誰かが放課後を狙い、学院から派遣された修理業者を装って、各部活の設備に細工をしていた。
そして故障した設備はすべて、内部の部品が意図的に逆向きに取り付けられていた。
しかし――
犯人は、なぜそんなことをしたのか。
そして、どうして機械そのものを完全に壊さなかったのか。
その答えは、まだ何一つ分かっていない。
「設備がたくさん置かれている場所から調べてみるのはどうかな?」
沙耶香が一つの案を出した。
「設備が多い場所か……」
たしかに、それも一つの方向性ではある。
ただ、学院内で大量の魔導設備を使用している場所は少なくない。
研究室、部活動棟、教師用の執務区画。
さらには学生寮まで、その条件に当てはまる。
もっと明確に範囲を絞れなければ、学院中を手当たり次第に探し回ることになるだろう。
それでは時間を浪費するだけで、有力な手がかりを見つけられるとも限らない。
「考え方は悪くない」
俺は少し考えてから答えた。
「でも、設備が多い場所を直接調べるより、最近どんな設備に修理の申請が出されていたのかを確認したほうがいいと思う」
犯人は、修理業者を装って機械に近づいていた。
それなら、学院内でどの設備が修理を必要としているのか、事前に把握していた可能性が高い。
最近の修理記録を整理すれば、犯人が次に向かう場所を予測できるかもしれない。
「たしかに」
沙耶香はうなずいた。
「でも、そういう記録って、どこで確認すれば――」
彼女の言葉が途中で止まる。
そして、何かを思い出したように勢いよく顔を上げた。
「あっ!」
「どうした?」
「カミラちゃんのお父さんに直接聞けばいいんだよ!」
カミラの父親。
オーサンワ・エリック。
この学院でも指折りの魔導科学者であり、学院内で使用されている数多くの設備の設計にも関わっている人物だ。
それならば、学院内でどの機械が修理を必要としているのか。
そして、どの設備に同じ魔力回路が使われているのか。
彼なら、誰よりも詳しく知っているはずだ。
「そうか」
俺もすぐに椅子から立ち上がった。
「沙耶香、カミラの父親に会いに行こう」
「うん!」
俺たちは部室を出ると、教師研究棟へ向かって歩き始めた。
リンの容姿は、どう考えても数値を盛られすぎたステータスお化けです。
そして、シュンと沙耶香もようやく本格的な調査に動き始めました。
果たして、二人は事件の手がかりを見つけることができるのでしょうか。
今回もここまでお読みいただき、ありがとうございました!




