第15.5話 別室にて
時間は少し遡る。
それは、デスモンド・ダムラがこの場を離れた直後のことだった。
突如として現れた機械体を前に、俺はわずかに眉をひそめる。
だが、その違和感は——
遠方から響いた爆発音によって、すぐに掻き消された。
魔眼を起動する。
視界が拡張される——
複数の人影が、体格の大きな男と激しく交戦していた。
状況を確認した後、視線を戻す。
改めて、目の前の機械体へ。
明確な敵意を向けてくる存在。
俺は魔眼と魔力観測を複合させ、構造解析を開始する。
「……なるほどな。」
この機体は、先ほどの恐竜型とはまったく別物だ。
あちらは継ぎ接ぎの構造だったが——
こちらは違う。
対魔法金属プレートで構成されている。
対魔法金属。
魔導石と似た性質を持ちながら、方向性は真逆だ。
魔導石は魔力を導き、蓄積する。
だが対魔法金属は——
あらゆる魔法を弾き、無効化する。
かつて戦時下で兵器として用いられた素材。
現在、学院では魔導石のみが認可され、
対魔法金属は全面的に禁止されている。
理由は単純だ。
これを相手にした時点で——
大半の魔法は意味を失う。
「……実物を見るのは初めてだがな。」
観察を続ける中、機体が先に動いた。
腕部に無数の赤い魔法陣が展開される。
次の瞬間——
火球が機関砲のように撃ち出された。
俺は避けない。
そのまま受ける。
轟音。
爆発が視界を覆い尽くす。
煙が広がる。
やがて——晴れる。
俺は、元の位置に立っていた。
「……」
機体の動きが、一瞬だけ止まる。
「驚く必要はない。」
俺は淡々と告げる。
「防御魔法という概念は、お前たちには理解しづらいだろう。」
軽く袖を払う。
「……もっとも、製作者も同じだがな。」
手を上げる。
闇槍を生成——発射。
予想通り。
接触した瞬間、完全に無効化された。
機体は再び魔法陣を展開する。
赤、青、緑——多属性同時展開。
魔眼で即座に解析。
「火球、水刃、風弾……」
いずれも基礎魔法。
だが——
すべて無詠唱。
「……やはり内部に違法魔導具が仕込まれているか。」
ただし対魔法金属に覆われ、コアの観測はできない。
「なら、方法は一つだ。」
次の瞬間——
攻撃が一斉に襲いかかる。
爆発と衝突。
空間が煙に覆われる。
その中で——
俺は跳躍する。
両手には、すでに術式が構築されている。
「——蝕骨黒流。」
黒い液体が奔流となって叩きつけられる。
腐食音。
白煙が立ち昇る。
装甲を溶解する侵食魔法。
だが——
「……効きが鈍いな。」
命中はしている。
だが、腐食速度が落ちている。
「対魔法金属に干渉されているか……」
損傷を検知したのか、
機体の攻撃が激化する。
地面が裂け、地火が噴き出す。
上空からは岩弾が降り注ぐ。
俺は移動と防御を同時に行いながら——
視線を手元へ落とす。
五つの指輪。
魔力抑制用。
「……そろそろ外すか。」
一つ、外す。
次の瞬間——
抑え込まれていた魔力が、一気に解放された。
空気が震える。
再び跳躍。
距離を取る。
今度は——
加減しない。
「蝕骨黒流。」
再発動。
威力は別物。
装甲が即座に溶解を始める。
防御が崩壊する。
内部コア——露出。
「終わりだ。」
瞬間移動。
闇槍生成。
——貫通。
コアは一撃で破壊された。
機体の動きが止まる。
膝をつき——
完全停止。
俺は指輪を嵌め直す。
魔力を再び抑制状態へ。
静かに踵を返す。
何事もなかったかのように、牢へ戻るために。
「……時間的にも、そろそろか。助けが来る頃だな。」
目立たない。
それが俺の原則だ。
——今はまだ、表に出る時じゃない。
そのまま離れようとした——その時。
機体が、動いた。
破壊されたはずの身体。
それでも、ゆっくりと立ち上がる。
一歩。
また一歩。
外へ向かう。
まるで——
何かの命令に従うように。
俺は止めない。
ただ、見ていた。
そして——
後を追う。




