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第16話 普通の魔法師

ダムラは床に座り込んだまま、視線を壊れ果てた機械兵の残骸へ向けていた。

部屋の中は静まり返っている。


ドナグたちも隣の空室へ視線を向けるが――

そこに残っていたのは、まだ完全には消え切っていない魔力の残滓だけだった。


敵の姿はない。

誰かがいる気配もない。

まるで先ほどの圧倒的な魔力爆発そのものが、幻だったかのように。


だが、その直後――


「た、助けてくれ!」


「誰かいるのか!? ここから出してくれ!」


次々と響く救助を求める声が、全員を現実へ引き戻した。


「先に救出だ!」


シュトが即座に叫ぶ。

一行は急いで部屋を抜け、奥の牢獄区画へ向かった。

しばらくして、拘束されていた人々が次々と救出される。


その中には――

ヴィナ・シュンと、ライカロン・エドガーの姿もあった。


エドガーは、自分が狙われる可能性を理解していた。

だが、実際に閉じ込められた恐怖は、想像を遥かに超えていた。

ドナグたちの姿を見た瞬間、彼はその場に膝をつく。


「た、助かった……!」


そのままシュトへ抱きつくように倒れ込んだ。


「本気で終わったと思ったんだぞ……!」


「落ち着け。もう大丈夫だ。」


シュトは苦笑しながら肩を叩く。

少しだけ冷静さを取り戻したエドガーは、ふとシュンへ視線を向けた。


「シュン……お前も捕まってたのか?」


その瞬間、彼の表情が固まる。

ようやく理解したのだ。

自分のせいで、他の人間まで巻き込んでしまったことを。


「悪い……俺のせいで……」


俯くエドガーに、シュトは静かに答えた。


「気にするな。」


「俺たちが勝手に首を突っ込んだだけだ。」


ドナグも軽く肩を竦める。


「それに、全員助かったんだから問題ないだろ?」


その言葉に、エドガーはようやく小さく息を吐いた。

一行は人質たちの状態を確認しながら、工場の出口へ向かって歩き始める。


一方――

ダムラは、その場から動かなかった。

逃げようともしない。

抵抗する様子もない。

ただ静かに、去っていく彼らの背中を見つめていた。

敗北した。


完全な敗北だった。


だが――

彼自身、一番理解している。

自分が敗れた理由は、ドナグたちの力ではない。

黒結晶。

あれほど完璧に構築したはずのシステムが、突如として機能不全を起こした。


「……」


ダムラはゆっくり目を閉じる。

その時だった。

重たい足音が近づいてくる。

全身傷だらけのカムレンが、ゆっくりと隣へ腰を下ろした。


「また自分のルールに負けたのか?」


ダムラはしばらく黙り込んだ後、淡々と口を開く。


「負けは負けだ。言い訳をする趣味はない。」


カムレンは遠くで人質たちを安心させているドナグたちを見ながら、小さく笑った。


「今の学生ってのは……怖ぇな。」


「ああ……確かにな。」


ダムラは低く答える。

だが彼の視線は、ドナグではなかった。

隊列の後方を歩く、一人の黒髪の少年。

ヴィナ・シュン。


短い沈黙の後、カムレンは壁へ身体を預け、そのまま目を閉じた。

そして――

ドナグたちが工場を出ようとした時。


「おい、そこのガキ。」


ダムラが不意に声をかけた。

だが、多納格たちはその声に気づかないまま、そのまま出口へ向かって歩いていく。

呼び止められたシュンも、ゆっくりと振り返る。

ダムラは真っ直ぐ彼を見据えた。


「俺の黒結晶を狂わせたのは……お前だろ?」


空気が静まり返る。

だがシュンは、ただ薄く笑っただけだった。

肯定もしない。

否定もしない。

ダムラは続ける。


「さっきの魔力爆発......それに、あの完全に破壊された機械兵。」


声が徐々に沈んでいく。


「証拠はない……だが。全部、お前の仕業なんじゃないのか?」


工場の入口で互いを励まし合う学生たち。

その光景とは対照的に――

今のダムラは、未知の怪物を前にしているような目をしていた。


「普通の学生に、こんな真似ができるはずがない。お前……何者だ?」


その時。

工場の中を、一陣の風が吹き抜けた。

シュンは静かに指を立てる。

――静かにしろ、とでも言うように。

口元には、変わらぬ薄い笑み。


「俺か?」


僅かに口を開く。

白い歯が、灯りに照らされて覗いた。


「ただの普通の魔法師だよ。」


風が黒髪を揺らす。

その姿には――

言葉では説明できない圧迫感があった。

ダムラは目を見開いたまま固まる。

やがて、何かを悟ったようにゆっくりと目を閉じた。

そして、小さく息を吐く。


「……なるほどな。」


シュンはそれ以上何も言わない。

ただ背を向け、再び仲間たちの後ろへ歩き出した。

そしてその光景を――

ドナグの隣にいたリンだけが、黙って見つめていた。


◇ ◇ ◇


数日後。

ダムラとカムレンは違法魔導具の製造・販売、および人体実験の容疑で正式に拘束された。

もっとも――


「上層部は、あいつらを魔導具研究部門へ回すつもりらしい。」


生徒会室。

シュトは今回の事件報告を生徒会長へ伝えていた。

椅子へ腰掛けている少女。

ヴィルタ・ソフィア。

彼女は脚を組み、頬杖をつきながら小さく笑う。


「案外、悪くない結末かもしれないわね。」


そして視線を細めた。


「でも、本当に驚いたわ。あなたたちが、ここまでやるなんて。満足してるわよ。」


シュトは軽く頭を下げる。


「ありがとうございます。」


ソフィアはゆっくり身体を前へ乗り出した。

金色の髪が肩から滑り落ちる。


「それで――」


瞳に興味を宿しながら問いかける。


「今回の事件で、一番印象に残ったのは誰?」


シュトは少し考えた後、口を開いた。


「やっぱり……パチシンル・ドナグですね。」


一度言葉を切る。


「Fランクなのに、S級に匹敵する実力を持っている。」


「……やっぱり、あなたもそう思うのね。」


ソフィアは小さく呟いた。


「え? 会長、何か言いました?」


「いいえ、何でもないわ。」


彼女は再び笑顔を浮かべる。


「今回は本当にお疲れ様。数日間、休暇申請を通しておいたわ。」


そう言って書類を机へ置いた。


「しっかり休みなさい。」


「ありがとうございます。」


シュトが部屋を出た後。

生徒会室は静寂に包まれた。

ソフィアはゆっくり立ち上がる。

そして窓際へ歩み寄り、遠くを見つめた。


「魔力暴走……機械兵の完全破壊……」


彼女は小さく呟く。

だが、その笑みは徐々に歪んでいった。


「本当に面白いのは――こっちの方でしょう?」


舌先で唇を舐める。

その瞳には、狂気にも似た熱が宿っていた。

まるで。

ようやく獲物を見つけた狩人のように。


「そうでしょう――」


ソフィアは愉しげに笑う。

彼女はすでに――

誰が全ての裏で動いているのか、その答えへ辿り着き始めていた。

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