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あの場所へ  作者: ナオ
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23/25

23話 海側の窓

 東京湾沿いのホテルを出たのは、朝の9時を少し回った頃だった。


 空は明るかったが、雲が薄く広がっている。


 昨日まで見えていた青空よりも、白く平らな空だった。


 風も少し強い。


 ホテルの駐車場を出る前に、ナオはナビへ目的地を入れた。


 最初に向かうのは浦安。


 そこから市川方面へ進み、千葉県内へ入っていく。


「いよいよ千葉か」


 リュウが後部座席から言った。


「東京、長かったね」


 ミカは窓の外を見ながら答えた。


「でも今日は、最初から怖いところじゃないよね?」


「昼は普通に海沿いを走る」


 ナオが答えた。


「昼は?」


「今日は夜も少し見る」


「早速来た」


 ミカは背もたれに体を預けた。


「この前まで観光ばっかりだったから、そろそろ来るとは思ってたけど」


 サチが振り返る。


「嫌だったら、夜は車から降りなくてもいいよ」


「サチさん、それ降りる前提の人がいる言い方」


「ナオくんは降りると思う」


「俺も降りるだろうな」


 リュウも言った。


 ミカは2人を順番に見た。


「男2人で行ってきて」


「その間、車で待てる?」


「それはそれで嫌」


「じゃあ4人だな」


「なんでそうなるの」


 ナオは少し笑いながら車を出した。


 湾岸道路へ向かうにつれ、街の景色が広がっていく。


 高層マンション。


 物流倉庫。


 広い交差点。


 水路。


 橋。


 遠くを走る大型トラック。


 東京の中心部にあった建物の密度は薄れ、代わりにひとつひとつの施設が大きくなっていく。


 ミカは窓の外を見ながら言った。


「街なのに、間が広い」


「湾岸の景色だな」


 ナオが答える。


「倉庫とか工場とか、広い土地を使う施設が多い」


「夜になったら、人いなさそう」


「場所によってはな」


「今のうちに明るい景色を覚えておこう」


 リュウが笑った。


「夜になったら全部怖く見えるから?」


「そう。昼の記憶で耐える」


 車は橋を渡った。


 左右に水が見え、遠くには建物が並んでいる。


 海そのものというより、街と街の間に大きな水路があるような景色だった。


 サチは助手席から外を見ていた。


「向こうが千葉?」


「ああ。橋を越えれば入る」


「県境って、標識があるだけなんだね」


「山の県境みたいに景色が一気に変わるわけじゃないからな」


 ミカが前の標識を見つけた。


「あ、千葉県って書いてある」


 その声に、リュウも身を少し乗り出す。


「本当だ」


 車が標識の下を通る。


 それだけだった。


 音が鳴るわけでも、道路の色が変わるわけでもない。


 けれど4人にとっては、旅の区切りだった。


 埼玉を出て、多摩と東京を巡り、ようやく次の県へ入った。


 サチが静かに言った。


「千葉に入ったね」


「ああ」


 ナオは前を見たまま答えた。


「ここからまた違う旅になる」


 ミカは少しだけ笑った。


「最初は普通にお願い」


「昼は普通にする」


「やっぱり夜は普通じゃないんだ」


 午前中は浦安周辺を走った。


 大きな道路と整った街並み。


 新しい住宅。


 公園。


 海に近いのに、普段の生活がきちんと並んでいる。


 ミカが想像していたような暗い漁村や、人気のない海岸ではなかった。


「思ってた千葉と違う」


「どんな千葉を想像してたんだ」


 リュウが聞く。


「もっと最初から海がどーんってあって、魚のお店が並んでる感じ」


「それはもう少し先だな」


 ナオが答える。


「浦安も昔は漁師町だったけど、埋め立てで景色がかなり変わった」


 ミカが少し警戒する。


「また埋め立て」


「湾岸では避けられない話だ」


「埋めた下って、ずっと海なの?」


「土地になってる」


「そういう答えじゃなくて」


 リュウが笑った。


「ミカは、海がまだ下にいるって言いたいんだろ」


「そう。それ」


「いるとは言わないけど、元が海だった場所ではある」


 ナオが答えると、ミカは窓の外を見た。


「知るとちょっと怖いね」


「でも今は普通に街になってる」


 サチが言う。


「人が住んで、学校もあって、公園もある」


「うん。それは分かる」


 ミカは少し間を置いてから続けた。


「でも、夜は元の海を思い出しそう」


 車内が少し静かになった。


 リュウが小さく言う。


「それ、今日の話に使われそうだな」


「自分で言ってから思った」


 昼は海に近い商業施設で食事を取った。


 新しく明るい店だった。


 ナオとサチは量の多い定食を選び、リュウとミカもそれぞれ好きなものを頼んだ。


 ミカは料理が届くと、朝の警戒を少し忘れたように表情を明るくした。


「千葉、最初のご飯はいい」


「ご飯で県を評価するな」


 リュウが言う。


「大事だから」


「でも海鮮じゃないんだな」


「海鮮はもっと海っぽいところで食べたい」


「こだわりあるな」


 サチが笑った。


「今度、漁港の近くにも行こうね」


「行きたい。でも夜の漁港は嫌」


「まだ誰も夜とは言ってない」


 ナオが言うと、ミカはじっと見た。


「ナオさんは言わなくても考えてる」


「否定はしない」


「ほら」


 午後は、市川方面へ向かいながら海沿いの公園や広い道路を回った。


 晴れていれば明るく開放的な場所なのだろう。


 だが今日は雲が多い。


 海と空の境目がぼやけ、遠くの建物も少し白く霞んでいた。


 風は昼を過ぎても弱まらない。


 海辺へ出ると、会話の間に風の音が入る。


 ミカは髪を押さえながら言った。


「海の近くって、ずっと音があるね」


「波と風だな」


 リュウが答える。


「静かな山とは逆」


「でも、人の声が消える感じする」


 サチも風に髪を押さえながら頷いた。


「近くで話してても、少し離れると聞こえないね」


 ナオは海側を見た。


 水面は灰色に近い。


 波が大きいわけではないが、細かく揺れている。


 防波堤の向こうで、低い音が繰り返し聞こえる。


 海は明るい昼でも、底が見えない。


 湖とは違い、向こう側が遠すぎる。


「今日は夜、どこへ行くの?」


 ミカが聞いた。


「市川の海側に、昔から変な音の話がある場所がある」


「変な音?」


「海沿いの道を夜に走っていると、車の海側の窓だけ叩かれるって話」


 ミカの顔が固まった。


「降りないやつ?」


「最初は車で通るだけ」


「最初は?」


「必要なら止まる」


「止まらなくていい」


 リュウが少し面白そうに聞く。


「誰が叩くんだ?」


「話によって違う。海から上がってくるものだとか、埋め立て前に水の事故で亡くなった人だとか、昔の作業員だとか」


「まとまってないな」


「よくある土地の噂だ。伝わるうちに話が増える」


 サチが言った。


「窓を開けたらどうなるの?」


「開けた人の話は、ほとんどない」


「それ、開けちゃいけないってことじゃん」


 ミカがすぐに言った。


「絶対開けないで。ロックして」


「窓は走行中に勝手に開かない」


「ナオさんが確認しようとして開けそうなの」


「開けない」


「本当に?」


「本当に」


 夕方、4人は市川市内のホテルへ入った。


 夕食を済ませ、暗くなるのを待つ。


 待つ必要などないとミカは言ったが、結局4人とも部屋にいた。


 リュウとミカは酒を控えた。


 夜に車で出るからだ。


「飲まないリュウさん、ちょっと珍しい」


 ミカが言う。


「俺はたまに運転代わるかもしれないからな」


「代わらなくていいよ。今日は早く帰ろう」


「行く前から帰る話か」


「大事だから」


 夜の9時前。


 4人はホテルを出た。


 街中にはまだ人も車もいる。


 コンビニも明るく、飲食店にも客がいた。


 その景色を見ているうちは、ミカも落ち着いていた。


 だが海側へ近づくにつれ、建物が減っていく。


 倉庫。


 閉まった門。


 広い駐車場。


 街灯の間隔。


 大型車のために作られた広い道路。


 昼間は開放的に見えた空間が、夜になると大きな空白へ変わっていた。


 海は見えない。


 ただ、左手の暗い方角にあることだけは分かる。


 ミカは窓から少し離れて座っていた。


「海側って、こっち?」


「左側だな」


 リュウが答える。


「言わなくていい」


「聞いたのはミカだろ」


「位置だけ知りたかったの」


 ナオはゆっくり車を走らせた。


 速度を落としすぎると不自然になる。


 かといって、何も確認できない速さでは意味がない。


 街灯が車内を一定の間隔で照らしていく。


 明るくなる。


 暗くなる。


 また明るくなる。


 道路の右側にはフェンスと倉庫。


 左側には低い柵と、その向こうに続く暗闇。


 窓はすべて閉まっている。


 車内にはエアコンの小さな音だけがあった。


「この辺?」


 リュウが聞いた。


「もう少し先」


 ナオが答える。


「具体的な場所が決まってるの?」


「噂では、海沿いの直線区間。街灯が一度途切れる場所」


「一度途切れる場所?」


 サチが前方を見る。


 確かに少し先で、街灯の明かりが途切れている。


 その先は完全な闇ではない。


 遠くに工場や港の光が見える。


 だが道路の一部だけが、細長く暗く沈んでいた。


 ミカが小さく言った。


「行かなくてもよくない?」


「通るだけだ」


「ゆっくり行かないで」


「普通に走る」


 車が暗い区間へ入った。


 フロントガラスの先に、ヘッドライトで照らされた道路だけが浮かぶ。


 左側の海は見えない。


 柵が続いている。


 風が強くなったのか、車体がわずかに揺れた。


 その時だった。


 コン。


 小さな音がした。


 ミカが息を止める。


「今、何?」


「小石じゃないか?」


 リュウが言った。


 コン。


 もう一度。


 今度ははっきり、左後ろの窓から聞こえた。


 ミカのすぐ横だった。


 ミカは反射的にリュウの腕をつかんだ。


「窓」


「分かってる」


 ナオは前を見たまま走り続けた。


 サチは助手席から左のサイドミラーを見る。


「何も見えない」


 コン。


 3回目。


 少し位置が前へ移った。


 左後ろの窓ではなく、助手席側の後ろ寄り。


 何かが、車と同じ速度で横を移動している。


「止まらないで」


 ミカの声が震えた。


「止まらない」


 ナオが答える。


 道路には他の車がいない。


 後ろにもライトは見えない。


 前方に大型車のテールランプが遠く見えるだけだ。


 コン。


 今度は助手席の窓だった。


 サチが肩を跳ねさせる。


「近づいてる」


「窓を見ない方がいい」


 ナオが言った。


「なんで?」


 サチが聞く。


「今は前だけ見てる」


 その言葉に、サチは窓から視線を外した。


 ミカは完全にリュウの腕へしがみついている。


「窓、開いてないよね?」


「開いてない」


「ロックは?」


「かかってる」


「絶対開けないで」


 コン。


 音が運転席側へ移った。


 左側から始まったはずなのに、今度はナオのすぐ横だった。


 ナオは一瞬だけサイドミラーを見る。


 そこには、道路と柵が映っている。


 何もいない。


 ただ、ミラーの下側に水滴がついていた。


 雨は降っていない。


 フロントガラスも乾いている。


 運転席側の窓にも、細い水の筋が1本だけ流れていた。


「ナオくん?」


 サチが声をかける。


「大丈夫」


 ナオは前を見た。


「このまま抜ける」


 街灯のある区間まで、あと少し。


 その時、車の天井で音がした。


 ゴン。


 先ほどまでの軽い音とは違う。


 何かが上から落ちたような重い音だった。


 ミカが短く声を上げた。


 リュウも天井を見上げる。


「枝か?」


「この道に木はない」


 ナオが答える。


 ゴン。


 もう一度。


 今度は天井の後方。


 そのまま何かが滑るように、車の屋根を後ろへ移動した。


 ざり、ざり、と硬いものを引きずる音。


 そして、車の後ろへ落ちた。


 バックミラーには何も映らない。


 ナオは速度を変えなかった。


 急加速もしない。


 急ブレーキもしない。


 ただ街灯のある場所まで走る。


 最初の光がフロントガラスへ入った。


 次の街灯。


 さらに次。


 暗い区間を抜けた。


 その瞬間、音は止まった。


 車内には誰の声もなかった。


 ナオはそのまま数百メートル進み、明るいコンビニの駐車場へ入った。


 人もいる。


 車も数台停まっている。


 店内の光が駐車場を照らしている。


 車を停めても、すぐには誰も降りなかった。


 ミカはリュウの腕をつかんだままだった。


「もう帰ろう」


「ああ」


 リュウも普段より低い声で答えた。


 サチは助手席の窓を見た。


「水、ついてる」


 窓には、細い水の跡がいくつも残っていた。


 運転席側だけではない。


 左側の窓すべてに、上から下へ流れた跡がある。


 雨に濡れたようにも見える。


 だが車の右側は乾いていた。


 ナオはエンジンをかけたまま車を降りた。


「ナオくん」


「外から見るだけ」


「ひとりで?」


「リュウは中にいて」


 ミカがすぐに言った。


「ナオさん、遠く行かないで」


「行かない」


 ナオは車の左側へ回った。


 窓には水滴。


 ドアにも細かい水がついている。


 海水かどうかは見ただけでは分からない。


 そして屋根の上には、細い傷のような跡があった。


 前から後ろへ。


 3本。


 何か硬いものを引きずったように並んでいる。


 ナオは触らなかった。


 車の後方へ回る。


 リアガラスの下に、濡れた手の跡がひとつ残っていた。


 子どもの手ではない。


 大人のものに見える。


 指が長い。


 手のひらの跡は薄く、5本の指だけがはっきりしている。


 車内からリュウもそれを見つけた。


 顔つきが変わる。


 ナオはすぐに運転席へ戻った。


「何かあった?」


 サチが聞く。


「水の跡と、屋根に擦った跡がある」


「それだけ?」


 ミカが聞いた。


 ナオは一瞬だけ迷った。


「後ろに手の跡がある」


 ミカの顔から血の気が引いた。


「見ない」


「見なくていい」


「帰ろう。今すぐ」


「帰る」


 車はコンビニを出た。


 今度は海沿いの道を避け、街中を通ってホテルへ戻る。


 明るい道路。


 信号。


 住宅。


 飲食店。


 対向車。


 普通の夜の景色が、これほど安心できるものだとは思わなかった。


 ミカはホテルへ着くまで、一度も左の窓を見なかった。


 リュウも冗談を言わなかった。


 サチは時々ナオの横顔を見ていた。


「大丈夫?」


「ああ」


「本当に?」


「運転は大丈夫」


「そうじゃなくて」


 ナオは少し間を置いた。


「音が移動したのは説明しにくい」


「小石とかじゃないよね」


「小石なら天井までは来ない」


 車内がまた静かになった。


 ホテルの駐車場へ着くと、ナオは明るい場所を選んで停めた。


 4人全員で車の外へ出る。


 ミカは1人で残る方が嫌だったらしい。


 左側の水滴は、まだ残っている。


 屋根の傷もある。


 後ろの手形も消えていない。


 リュウは近くで見て、顔をしかめた。


「これ、外からついたよな」


「ああ」


「走ってる車に?」


「そう見える」


 サチは手形を見ながら、腕をさすった。


「海側から来たのかな」


「やめて」


 ミカがすぐに言った。


「今はそういうの考えたくない」


 ナオはスマホで写真を撮った。


 記録のためだった。


 ミカはそれを見て少し嫌そうな顔をしたが、止めなかった。


「消えたら困るから?」


「ああ」


「消えてほしいけどね」


 4人はホテルへ戻った。


 部屋へ入ると、ミカはすぐにカーテンを閉めた。


 海が見える部屋ではない。


 駐車場側の窓だ。


 それでも閉めたかったらしい。


 リュウは冷蔵庫から水を出し、ミカへ渡した。


「飲め」


「お酒じゃなくて?」


「今日は水の方がいいだろ」


「うん」


 サチもベッドへ腰を下ろした。


「音、最初は小さかったね」


「後ろの窓から始まった」


 リュウが言う。


「それで前へ来て、運転席側に回って、最後は屋根」


「車の周りを移動したみたい」


 サチが言った。


 ミカは水のボトルを握った。


「海側の窓を開けたら、どうなってたと思う?」


 誰もすぐには答えなかった。


 ナオは椅子に座り、スマホで撮った写真を確認した。


 窓の水滴。


 屋根の傷。


 リアガラスの手形。


 どれも写っている。


 だが最後の写真を開いた時、ナオは指を止めた。


「どうした?」


 リュウが気づく。


 ナオは写真を拡大した。


 リアガラスの手形を撮った写真。


 手形の向こうには、車内が映っている。


 後部座席。


 ヘッドレスト。


 暗い車内。


 その中央に、顔のようなものがあった。


 輪郭はぼやけている。


 白く濡れた額。


 暗い目元。


 口は見えない。


 まるで車の中から、リアガラスへ手をついているように見える。


 だが写真を撮った時、車内には誰もいなかった。


 ナオは画面を伏せなかった。


 リュウへ渡す。


 リュウの表情から笑いが消えた。


「これ、中にいるように見えるな」


 その言葉を聞き、ミカが首を横に振る。


「見ない」


「見なくていい」


 サチは少し迷ったあと、写真を見た。


 そして静かにスマホをテーブルへ置いた。


「車に、入ったの?」


「分からない」


 ナオが答える。


「でも、ホテルへ戻る時は何もなかった」


「本当に?」


 ミカが聞く。


「後ろに座ってた私たちの間に?」


「何も見てない」


 リュウが答えた。


「音もしなかった」


 ミカはさらに顔を青くした。


「見えないだけだったら?」


 誰も答えなかった。


 その夜、4人は車へ戻らなかった。


 写真を撮り直すこともしない。


 確かめに行くこともしない。


 ナオも、今夜はそれが正しいと思った。


 深夜0時を過ぎた頃。


 部屋の明かりはまだついていた。


 リュウとミカは同じベッドの端に座り、サチはナオの隣にいた。


 テレビはついているが、誰も見ていない。


 その時、ナオのスマホが短く鳴った。


 駐車監視機能からの通知だった。


 車の周囲で動きを検知しました。


 4人の視線が、テーブルの上のスマホへ集まる。


 ミカが小さく言った。


「見なくていい」


 リュウも頷いた。


「朝でいい」


 ナオは通知を開かなかった。


 スマホを裏返す。


「朝、明るくなってから確認する」


 サチが静かに言った。


「今日はそれでいい」


 それから誰も、駐車場の話をしなかった。


 外では風が鳴っている。


 海はここから見えない。


 波の音も届かない。


 それでも、ミカはカーテンの向こうを一度も見なかった。


 千葉へ入った最初の夜。


 4人はようやく、東京とは違う怖さに触れた。


 人の記憶でも、待ち合わせでもない。


 暗い海側から、走る車へついてきたもの。


 そして今も、駐車場のどこかにいるかもしれないもの。


 朝まで確認しないと決めたことで、夜は余計に長くなった。


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