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第7話 愛してるの勉強

中央広場の時計塔が、三度ゆっくりと鐘を鳴らす。


午後三時。


春の光がやわらかく石畳を照らしている。


フィーナは立ち止まり、空を見上げた。


「次、どこ行こっか」


隣ではレイが静かに周囲を見ている。


「任せる」


あっさり。


フィーナは小さく笑う。


「そればっかり」


そのとき、端末が震えた。


フィーナだけが画面を見る。


《2時間後に合流するー!》

《夕食くらい一緒に食べさせてよね、お祝いだし》

《それまで映画でも見てきたら?》


フィーナはため息をつく。


「……ほんとお節介」


「どうした」


レイが問う。


「ユユが夕食には間に合うってさ」


一拍。


「それまで、時間ある」


レイは時計塔を見る。


「約二時間」


「うん」


フィーナは少しだけ視線を逸らす。


「だから……映画、行こ?」


レイは瞬きをする。


「映画」


「戦闘記録じゃないよ」


「分かっている」


数秒考える。


「内容は何だ」


フィーナは映画館の看板を見る。


戦記もの。

歴史劇。

冒険譚。

そして――


ラブロマンス。


少しだけ頬が熱くなる。


「……これにしよ」


レイはポスターを見る。


男女が見つめ合っている。


「目的は?」


フィーナは少し自信なさげに。


「これも……社会勉強」


レイは頷く。


「共有か」


「うん」


フィーナは券を二枚買った。



上映開始。


暗くなる場内。


並んで座る。


画面の中では、出会い、すれ違い、誤解、再会。


予想通りの展開。


フィーナは途中から、少し退屈だった。


きっと最後は――


案の定、クライマックス。


雨の中、主人公が叫ぶ。


「僕は君を愛してる!」


ヒロインが泣きながら抱きつく。


音楽が盛り上がる。


エンドロール。


明るくなる館内。


フィーナは横を見る。


レイは真顔だった。


「……どうだった?」


少し不安げに聞く。


レイは数秒考える。


「勉強にはなった」


「どのあたりが」


「“愛してる”という言葉は、確認ではなく宣言らしい」


フィーナは思わず吹き出す。


「そこ?」


「感情の最大出力を言語化していた」


真面目だ。


フィーナは少し肩を落とし、それから微笑む。


「それならよかった、のかな」


館内から人が出ていく。


二人も立ち上がる。


人の流れの中、自然と手が触れる。


離れない。


フィーナは少し勇気を出す。


「ね、レイはさ……私のこと――」


言いかけた瞬間。


「おまたせー!」


明るい声。


ユユだ。


入口付近で大きく手を振っている。


フィーナは反射的に手を離す。


「そ、そんなことないよ!」


まだ何も言われていないのに。


ユユが二人の手元を見る。


そしてにやりと。


「あ、やっぱりお邪魔?」


フィーナは顔を赤くする。


「全然全然!」


レイは自分の手を見る。


そして周囲を見る。


人は減っている。


接触は合理的ではない。


だが。


なぜ離れたのかは、分からない。


ユユは肩をすくめる。


「ふーん、まいっか」


くるりと背を向ける。


「さ、ご飯食べ行こー」


フィーナは深呼吸する。


さっきの続きを言えなかった。


でも。


まだ時間はある。


レイは歩き出す。


少しだけ、フィーナとの距離を意識しながら。


映画の台詞が、頭の奥に残っている。


――愛してる。


意味はまだ、整理中だ。


でも。


隣にいることは、選んでいる。


それだけは、確かだった。

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