第65話 均衡
共和国上層部会議室。
円卓。
静かな照明。
重苦しい空気。
議題は一つ。
「フィーネリア・ルミナリアの戦闘運用継続について」
資料が並ぶ。
・残響共有接続値100%
・単機での要塞制圧
・帝国新型撃破
沈黙。
「抑止力として機能する」
「共和国の象徴だ」
「戦争を終わらせられるかもしれない」
誰かが希望を口にする。
その時。
端に座る一人の補佐官が静かに言った。
「問題はありません」
控えめな声。
「精神数値は安定」
「接続波形は完全同期」
誰も疑わない。
彼は――
カルネア連邦の諜報員。
共和国中枢に潜む観測者。
「運用継続は妥当かと」
会議は、まとまる。
アルテミスは“希望”として扱われる。
誰も気づかない。
その希望が、
戦争を終わらせない構造であることに。
⸻
カルネア連邦本部。
地下深層。
白い室内。
巨大スクリーンに表示される波形。
100%。
完全重合。
“Fina / Ray”
観測官が言う。
「基準値を超過しています」
「過去事例では排除対象」
静かな返答。
「今回は観測を優先」
「干渉不要」
理由を問う声。
短い答え。
「彼女は戦争を終わらせない」
スクリーンに残響波形。
「戦争が消えれば残響は薄れる」
「残響が薄れれば、彼は消える」
レイ。
「彼女はそれを選ばない」
だから戦う。
終わらせない。
終われない。
依存は理想より強い。
愛は倫理より強い。
「均衡は維持される」
カルネア連邦の判断は冷静だった。
共和国が勝ちすぎても困る。
帝国が勝ちすぎても困る。
だが。
フィーナは壊れながら戦い続ける。
その状態こそが、
最も均衡に近い。
「観測継続」
それだけで十分だった。
⸻
共和国。
夜。
アルテミス。
後席にネックレス。
フィーナは目を閉じる。
「レイ」
残響。
「フィーナ」
微笑む。
戦争は続く。
均衡は保たれる。
彼女が望む限り。
誰も知らない。
彼女の愛が、
世界を終わらせない理由になっていることを。




