最終話 全部共有しよ?
朝は、変わらず来る。
王都は静かで、空は淡い。
ユユは訓練場の端に立ち、フィーナを見ていた。
白いレゾネイトスーツ。
滑走する足取りは軽い。
振るうブレードは正確。
残響接続テスト――20%。
「安定してる」
技術者としての評価は、問題ない。
会議室でも同じだった。
王女として発言するフィーナは理路整然としている。
笑う。
頷く。
指示を出す。
完璧だ。
変わらない。
――変わっていないように見える。
⸻
昼過ぎ。
ユユが何気なく声をかける。
「フィーナ、レイが起きたよ」
フィーナの顔が明るくなる。
「分かった! すぐ行く!」
それが日常になった。
アルテミスの活動限界が来る夜。
燃料が尽きるまで接続し、
停止と共に「おやすみ」と言う。
そして翌朝、また「おはよう」と言う。
誰もそれを止めない。
止められない。
⸻
その夜。
珍しく、フィーナが言った。
「ユユ、たまには二人でご飯食べない?」
「……? いいけど」
「レイも寝ちゃったからさ」
ユユの部屋。
簡単な食事。
王女が愚痴をこぼす。
「今日ね、第2部隊の子がさー」
他愛もない話。
不思議と、笑えた。
自分が罪人だという自覚は消えないのに。
それでも。
笑ってしまった。
ふと、沈黙。
ユユの表情が曇る。
「フィーナ……」
「あ、ごめん! 何?」
「大丈夫だよ」
「え?」
フィーナは、優しく笑った。
目に涙を浮かべながら。
「大丈夫」
「なにが……?」
聞くのが怖い。
でも、逃げられない。
フィーナは、少しだけ俯いて、それから顔を上げた。
「分かってるよ。ユユが背負ってるって」
「それにね、私、ちゃんと分かってる」
ユユの呼吸が止まる。
「レイはもう、死んだんだよね」
笑顔。
けれど、頬は赤く、涙がこぼれている。
「いい……もういいよ」
ユユの声が震える。
「分かってるのに……ダメなの」
「本当に、あそこでレイの声が聞こえるの」
ユユは喉を詰まらせながら言う。
「それは……レイだよ」
技術でも、理屈でもない。
そう言うしかなかった。
フィーナは泣きながら首を振る。
「ごめん、ごめんねユユ」
「私が悪い……」
「私が、あんなものを作ったから……」
沈黙。
重い空気。
フィーナが、ゆっくり言う。
「それでもね……言わせて」
「え……?」
「ありがとう、ユユ」
ユユは、崩れた。
許されたからじゃない。
嬉しかったからでもない。
どうしようもなく、悲しかったから。
こうなってしまったこと。
止められなかったこと。
止めないと決めてしまったこと。
全部が重なって、涙になった。
フィーナは泣きながら、ユユを抱きしめる。
「ごめんね」
「ありがとう」
何度も、何度も。
⸻
次の日の朝。
変わらない空。
変わらない倉庫。
アルテミス。
フィーナは後席にネックレスを置き、接続席に座る。
ユユは何も言わない。
言えない。
起動。
残響共有。
100%。
フィーナは微笑む。
「おはよう、レイ」
残響が返る。
「フィーナ」
「今日も全部、共有しよ?」
静かな倉庫。
白い機体。
戦争は続く。
世界は均衡を保つ。
フィーナは壊れている。
けれど立っている。
愛は消えていない。
だから、終わらない。
――それが、彼女の生き方だった。




