表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/66

最終話 全部共有しよ?

朝は、変わらず来る。


王都は静かで、空は淡い。


ユユは訓練場の端に立ち、フィーナを見ていた。


白いレゾネイトスーツ。


滑走する足取りは軽い。


振るうブレードは正確。


残響接続テスト――20%。


「安定してる」


技術者としての評価は、問題ない。


会議室でも同じだった。


王女として発言するフィーナは理路整然としている。


笑う。

頷く。

指示を出す。


完璧だ。


変わらない。


――変わっていないように見える。



昼過ぎ。


ユユが何気なく声をかける。


「フィーナ、レイが起きたよ」


フィーナの顔が明るくなる。


「分かった! すぐ行く!」


それが日常になった。


アルテミスの活動限界が来る夜。


燃料が尽きるまで接続し、

停止と共に「おやすみ」と言う。


そして翌朝、また「おはよう」と言う。


誰もそれを止めない。


止められない。



その夜。


珍しく、フィーナが言った。


「ユユ、たまには二人でご飯食べない?」


「……? いいけど」


「レイも寝ちゃったからさ」


ユユの部屋。


簡単な食事。


王女が愚痴をこぼす。


「今日ね、第2部隊の子がさー」


他愛もない話。


不思議と、笑えた。


自分が罪人だという自覚は消えないのに。


それでも。


笑ってしまった。


ふと、沈黙。


ユユの表情が曇る。


「フィーナ……」


「あ、ごめん! 何?」


「大丈夫だよ」


「え?」


フィーナは、優しく笑った。


目に涙を浮かべながら。


「大丈夫」


「なにが……?」


聞くのが怖い。


でも、逃げられない。


フィーナは、少しだけ俯いて、それから顔を上げた。


「分かってるよ。ユユが背負ってるって」


「それにね、私、ちゃんと分かってる」


ユユの呼吸が止まる。


「レイはもう、死んだんだよね」


笑顔。


けれど、頬は赤く、涙がこぼれている。


「いい……もういいよ」


ユユの声が震える。


「分かってるのに……ダメなの」


「本当に、あそこでレイの声が聞こえるの」


ユユは喉を詰まらせながら言う。


「それは……レイだよ」


技術でも、理屈でもない。


そう言うしかなかった。


フィーナは泣きながら首を振る。


「ごめん、ごめんねユユ」


「私が悪い……」


「私が、あんなものを作ったから……」


沈黙。


重い空気。


フィーナが、ゆっくり言う。


「それでもね……言わせて」


「え……?」


「ありがとう、ユユ」


ユユは、崩れた。


許されたからじゃない。


嬉しかったからでもない。


どうしようもなく、悲しかったから。


こうなってしまったこと。


止められなかったこと。


止めないと決めてしまったこと。


全部が重なって、涙になった。


フィーナは泣きながら、ユユを抱きしめる。


「ごめんね」


「ありがとう」


何度も、何度も。



次の日の朝。


変わらない空。


変わらない倉庫。


アルテミス。


フィーナは後席にネックレスを置き、接続席に座る。


ユユは何も言わない。


言えない。


起動。


残響共有。


100%。


フィーナは微笑む。


「おはよう、レイ」


残響が返る。


「フィーナ」


「今日も全部、共有しよ?」


静かな倉庫。


白い機体。


戦争は続く。


世界は均衡を保つ。


フィーナは壊れている。


けれど立っている。


愛は消えていない。


だから、終わらない。


――それが、彼女の生き方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ