第55話 切断と接続
荒野。
要塞外縁の砂塵を巻き上げながら、白と黒が滑走する。
アルテミスのブレードが振り抜かれ、
ヘイデスのブレードが受け止める。
衝撃。
地面が抉れる。
八槍が伸びる。
ブレードテイルが迎撃する。
金属音が重なり、空気が震える。
「分散接続値、上昇してる!」
ユユの声が通信に割り込む。
「70……80……」
発光ラインが強まる。
桃と橙が脈打つ。
セナの声が弾む。
「ちょっと上げるよー?」
シンが低く言う。
「90だ」
瞬間。
ヘイデスの圧が変わる。
踏み込みが深い。
速い。
重い。
アルテミスが押される。
ガトリング弾が胸部に叩き込まれる。
フィーナが歯を食いしばる。
「っ……!」
ブレードで受ける。
だが八槍が回り込む。
回避が間に合わない。
肩部装甲を裂かれる。
警告音。
そして。
衝撃。
視界が白く弾ける。
「フィーナ!」
レイの声。
次の瞬間、通信にノイズが走る。
――ザッ……ッ……。
ユユの声が途切れる。
「……聞こえ……アルテ……」
断絶。
静寂。
通信系統、損傷。
外部リンク消失。
コックピット内に、二人の呼吸だけが残る。
フィーナの視界が揺れる。
「……ユユ?」
返答はない。
ヘイデスが迫る。
八槍が同時に突き出される。
レイが即座に割り込む。
「右」
フィーナが回避。
だが遅い。
地面を滑る。
「分散90……90だ」
レイの声は冷静だった。
「合計180相当」
押されている。
明らかに。
フィーナの喉が鳴る。
残響が重い。
濃い。
「……重い」
一人なら、崩れる。
今の圧は、それだ。
レイが言う。
「共有値を上げる」
フィーナが息を止める。
「今は50……」
「足りない」
ブレードが再び衝突。
衝撃で装甲が軋む。
ヘイデスは崩れない。
分散している。
二人で負荷を分けている。
アルテミスは違う。
同じものを抱えている。
レイの声が近くなる。
「80まで上げる」
フィーナの指が震える。
80。
試験域。
実戦では未確定。
しかも今、通信は切れている。
ユユはいない。
判断は二人だけ。
「レイ……」
「俺がいる」
以前と違う響き。
包む、ではない。
並ぶ。
「一緒に持つ」
ヘイデスが再び加速する。
八槍が迫る。
ブレードが閃く。
フィーナは息を吸う。
怖い。
でも。
「……分かった」
出力上昇。
60。
70。
波形が絡む。
歪む。
だが崩れない。
80。
一瞬、世界が静かになる。
重い。
だが。
隣が、はっきりといる。
近い。
近すぎる。
ヘイデスの八槍が突き込まれる。
フィーナの視界が澄む。
「今!」
ブレードが振り抜かれる。
八槍三本、切断。
ブレードテイルが絡みつく。
ヘイデスが後退する。
だが崩れない。
桃と橙の発光がさらに強まる。
セナの声が笑う。
「へぇ……上げてきた」
シンが短く言う。
「分散維持。下げるな」
ヘイデスの波形は荒れない。
180。
安定。
アルテミスは80。
絡まりながら、維持。
荒野に白と黒が対峙する。
距離を取る。
睨み合い。
通信は繋がらない。
支援はない。
ユユの声は、届かない。
あるのは。
二人分の意識。
フィーナが小さく言う。
「……静か」
残響は濃い。
だが。
一人ではない。
レイが答える。
「ああ」
その声は落ち着いている。
だが。
80の深さに、どこか沈んでいる。
白と黒。
80と180。
砂煙の中で、動かない。
次の一撃で、どちらかが崩れる。
その均衡のまま。
戦場は、止まった。




