第54話 白と黒
明朝。
薄い朝靄の中、各部隊が順に滑走路へ展開する。
第1部隊。
第2部隊。
第3部隊。
その中央。
白い巨体――
残響共有一体型REV。
コックピット内部。
前席、フィーナ。
後席、レイ。
「共有接続、開始」
波形が立ち上がる。
50%。
重なり、絡み合い、歪みながらも整う。
以前のように包む感覚ではない。
だが、揺れない。
ユユの声が通信に乗る。
「共有波形、安定確認」
レイが低く告げる。
「問題」
ユユが重ねる。
「なし」
わずかな沈黙。
レイがほんの少しだけ視線を落とす。
フィーナが、くすりと笑う。
「行こう、レイ」
「ああ」
アルテミスが滑走を開始する。
白い機体が、朝の空気を裂いた。
⸻
要塞へ向かう途上。
高度を維持しながら、静かな飛行。
フィーナは前を見たまま言う。
「……よかった」
「どうした」
「また、共有できて」
小さな息。
レイが一瞬だけ黙る。
「……すまなかった」
フィーナは首を振る。
振り向かないまま。
「謝ることないよ」
「私も……」
言葉を探す。
「ううん、誰も悪くない」
「……そう、なのかもな」
「うん。そうだよ」
静かな共有。
穏やかな50%。
レイが続ける。
「フィーナ」
「ん?」
「俺は――」
その瞬間。
警告音。
甲高く、鋭く。
フィーナの声が即座に切り替わる。
「敵!」
レイが前方を捉える。
「前方、距離800」
視界に入る。
黒。
巨大な、蜘蛛の影。
毒蜘蛛。
フィーナの声が全回線へ響く。
「各機横から抜けて! 毒蜘蛛の相手はアルテミスが!」
腰部レールキャノン展開。
発射。
白い閃光が走る。
黒い機体は跳躍。
紙一重で回避。
着地と同時に――
八本の槍が伸びる。
横を抜けようとした共和国機を正確に捉える。
貫通。
コックピット。
爆散。
「……っ!」
フィーナの歯が軋む。
「もっと横に離れて抜けて!」
アルテミス加速。
着地した黒へと突撃。
両腕部内蔵超振動ブレード展開。
振り下ろす。
だが。
黒も腰から大型振動ブレードを引き抜く。
激突。
白と黒。
衝撃波が地面を裂く。
金属が悲鳴を上げる。
六つのブレードテイルが広がる。
同時に。
黒の背部ユニットから八槍が展開。
蜘蛛の脚のようにうねる。
交差。
絡み。
斬撃が連続する。
その中で、通信が割り込む。
軽い声。
「今日は摘ませてもらうよー? 白百合ちゃん」
セナ。
続いて低い声。
「落とすの間違いだろバカ」
シン。
フィーナの目が鋭くなる。
「あなた達は止める!」
ブレードがぶつかる。
火花。
衝撃。
六尾と八槍が絡み合う。
ヘイデスの発光ライン――桃と橙が、不気味に明滅する。
レイの声が後ろから飛ぶ。
「右、三槍来る」
フィーナが即座に機体を捻る。
回避。
カウンター。
白が黒を押す。
だが。
黒も引かない。
接続値50%。
対する向こうも――分散50。
重い。
真正面から拮抗する感触。
「……強い」
フィーナが呟く。
レイが短く答える。
「ああ」
槍が弾き、ブレードが滑る。
一瞬。
互いの機体が至近距離で停止する。
黒の装甲越しに、視線がある気がした。
次の瞬間。
両者同時に後退。
再加速。
白と黒。
再び衝突へ。
要塞外郭の荒野。
削れた地面の上で、白と黒が滑走する。
本当の決戦が、始まった。




