第53話 前夜
共和国本土。
再編を終えた各部隊は、明朝の出撃を前に静かだった。
食堂にはいつもより笑い声が多い。
整備区画には最後の確認の声。
誰もが、明日を知っている。
境界要塞。
再奪還。
そして――毒蜘蛛。
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REV倉庫。
白い機体が静かに立つ。
残響共有一体型REV。
ユユは脚部フレームを閉じ、端末を確認する。
共有波形ログ。
前回のシミュレーション。
絡まり、重なり、歪みながらも安定した数値。
理想的ではない。
だが。
「……これが人間だよね」
小さく呟く。
完璧な平行ではない。
どちらかが強すぎるわけでもない。
支配でも、従属でもない。
歪で、面倒で、手がかかる。
「世話のかかる二人」
苦笑する。
アルテミスの装甲に軽く触れる。
「……あんたも大変だね」
答えは返らない。
ただ、冷たい外装の奥で、静かに待機している。
「フィーナとレイを頼むよ」
それは命令ではない。
祈りに近い。
ユユは端末を閉じる。
「壊すなよ、どっちも」
誰に向けたのかは、曖昧だった。
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王城。
フィーナの私室。
灯りは落とされ、月光だけが差し込む。
フィーナはベッドに腰掛けている。
掌の中に、銀の首飾り。
冷たいはずなのに、握るとあたたかい気がする。
レイのことを思い出す。
思い出さなくても、考えているのに。
明日の出撃。
緊張はない。
怖くもない。
それよりも。
「……また、共有できる」
小さく笑う。
以前は、包まれていた。
守られていた。
溺れるように、レイの中に沈んでいた。
でも。
前回のテストは違った。
包まれるのではなく。
一緒に抱えていた。
並んで、立っていた。
「やっと……また二人で立てた」
隣に立てる。
それが、嬉しい。
胸の奥がじんわりと温かい。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
明日も。
きっと。
⸻
特別区画。
レイの部屋。
灯りは消えている。
だが、眠ってはいない。
ベッドに腰掛け、静かに呼吸を整える。
残響は、少しだけうるさい。
以前ほどではない。
だが、消えたわけでもない。
レイは首元から銀の首飾りを外す。
握る。
温度が移る。
不思議と、静かになる。
フィーナは言った。
“私には、レイが必要だよ”
胸が熱くなる。
理由は分からない。
だが、確かな熱。
あの映画の最後を思い出す。
主人公が、ヒロインに向けて言った言葉。
あの時は、ただの台詞だと思った。
今は、違う。
理解は、完全ではない。
でも、近い。
「……愛してる」
ぽつりと漏れる。
声に出した瞬間、少しだけ鼓動が速くなる。
間違っていない。
たぶん、これが正しい。
レイは目を閉じる。
明日。
また、隣に立つ。
それだけでいい。
⸻
夜は深い。
三人は、それぞれの場所で目を閉じる。
アルテミスは静かに待つ。
白い機体の奥で、残響が微かに揺れる。
まだ、誰も知らない。
この夜の静けさが、
どれほど脆い上に立っているのかを。




