第48話 数値
REV倉庫。
アルテミス、定期残響共有シミュレーション。
前席、フィーナ。
後席、レイ。
⸻
「接続開始」
5%。
10%。
揺れる。
明確に、噛み合わない。
フィーナの波形は安定している。
レイ側だけが、ざらついている。
同期率低下。
警告音。
「切る」
共有遮断。
⸻
コックピットを降りる。
フィーナが振り向く。
「……大丈夫?」
「問題ない」
即答。
だが目は合わない。
ユユは端末を操作する。
「レイ、単独接続」
「了解」
ナハトレグ起動。
5%。
開始直後、波形乱高下。
警告。
6%に上げる前に、強制切断。
沈黙。
ユユの声が低い。
「接続者適正、著しく低下」
「現状、戦闘運用不可」
フィーナの喉が震える。
「嘘……」
レイは言いかける。
「問題―」
「ある」
ユユが即座に遮る。
「5%でこれだよ?」
「以前の20%安定は、もうない」
レイの拳が強く握られる。
「俺はフィーナの」
「フィーナを理由にするな」
冷たい。
感情を削いだ声。
ユユは端末を掲げる。
「見て」
「フィーナ単独10%」
「安定域」
フィーナの脳波ログが表示される。
確かに、落ち着いている。
「共有10%」
表示が切り替わる。
レイ側の波形が乱れている。
「不安定」
「むしろ単独より悪い」
静寂。
ユユは、はっきり言う。
「今の共有は、意味がない」
「フィーナ単独の方がマシ」
レイの呼吸が止まる。
「……」
ユユは続ける。
「守ってるつもり?」
「逆」
「引きずってる」
「波形が歪んでるのは、あんた」
フィーナが小さく「やめて」と言う。
だがユユは止まらない。
「共有ってのは支え合うもの」
「今は一方的」
「フィーナがあんたを支えてる」
「だから共有の効率が落ちてる」
レイの視界が白くなる。
守っている。
そのはずだった。
「今のあんたは」
一拍。
「足を引っ張ってる」
はっきり。
逃げ場のない言葉。
レイの声が、初めて揺れる。
「……俺がいるから、ダメなのか」
ユユは迷わない。
「そう」
即答。
「今のあんたなら、いない方が安定する」
完全な断罪。
フィーナが息を呑む。
レイは何も言えない。
数値が証明している。
共有しても強くならない。
むしろ弱い。
意味がない。
「レイ、接続禁止」
「これは命令」
レイはゆっくり頷く。
「……了解」
その声は、かすれていた。
アルテミスは動かない。
二人で一つの機体。
なのに今は、
二人でいることが、
弱点になっている。
フィーナは立ち尽くす。
レイは視線を落とす。
守るつもりだった。
だが今は。
守れないどころか、
隣にいる資格すら、数値に否定されている。
共有が、
切れたのではない。
意味が、
切れた。




