第46話 待って
模擬戦後の静かな格納庫。
アルテミスは停止状態。
白い装甲に整備灯が落ちている。
接続解除。
フィーナはゆっくりと降りる。
20%。
単独でも問題ない。
負荷も安定している。
なのに。
胸の奥が、ざらついている。
レイも降りてくる。
「数値は良好だ」
いつも通りの声。
フィーナは一瞬、迷う。
言わない方がいい。
分かってる。
でも。
「……レイ」
呼ぶ。
レイは止まる。
「どうした」
フィーナは視線を落とす。
言葉を選ぶ。
「私のこと、信じてないの?」
空気が止まる。
レイの眉がわずかに寄る。
「なぜそうなる」
本気で分からない顔。
それが、つらい。
「今日も」
「危険予測、全部先に潰した」
「私が動く前に」
レイは即答する。
「危険だった」
「被弾確率が高い」
フィーナは小さく首を振る。
「それって、私が判断できない前提だよね」
静かな声。
怒っていない。
責めていない。
でも。
刺さる。
レイは少し黙る。
「違う」
短く言う。
「俺がいる」
フィーナの胸が、きゅっと締まる。
それは優しさだ。
分かってる。
でも。
「それじゃ、私いらないみたいだよ…」
思ってもいなかった言葉が、出る。
自分でも驚く。
レイの目が揺れる。
「そんなことはない」
「フィーナは必要だ」
「だから守る」
フィーナは、少し笑う。
苦い。
「それ」
「それが、重いんだよ」
言ってしまった。
言いたくなかった。
レイが黙る。
本気で、傷ついた顔をする。
その顔を見て、フィーナの胸が痛む。
違う。
傷つけたいわけじゃない。
「私も守りたいの」
声が震える。
「レイを」
「並びたいの」
「隣で戦いたいの」
「後ろじゃなくて」
涙が落ちる。
止めようとする。
止まらない。
「……守られてばっかりだと」
「私、弱くなる」
レイは何も言えない。
ただ、立っている。
フィーナは涙を拭う。
「言いたくなかった」
「こんなの」
「だって、レイが優しいの、分かってるから」
嗚咽が混じる。
「でも……」
「怖いの」
「レイが、私いないと戦えないみたいになってるのも」
それは本音。
そして。
言ってはいけない本音。
レイの視線が落ちる。
「俺は」
少し間。
「フィーナが傷つくのは、困る」
それだけ。
それが全部。
フィーナは笑う。
涙でぐしゃぐしゃのまま。
「うん」
「知ってる」
一歩、近づく。
レイの服を掴む。
弱い力。
「でもね」
「待って」
小さく言う。
「私を」
「私の判断、少しでいいから」
レイはすぐには頷かない。
考えている。
本気で。
「……分かった」
小さく言う。
でもその声は、
どこか迷っている。
フィーナは分かる。
この人はまた無意識に動く。
それでも。
今は、それでいい。
レイの胸に額を押し付ける。
体温がある。
鼓動がある。
静かだ。
「私、強くなりたい」
小さく言う。
「レイと、並びたい」
レイの腕が、ゆっくりと背に回る。
今度は、強くない。
包み込むのではなく。
支えるように。
その違いを、
フィーナはちゃんと感じている。
涙は止まらないけれど。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
二人の距離が、変わった。
――はずだった。
けれど。
レイの指は、無意識に。
フィーナの背を、離さないように、強く握っていた。




