第45話 共有と依存
REV倉庫。
整備ドックの奥、簡易テストブース。
フィーナは接続席から降りる。
「20%。問題なし」
モニターを確認しながら言う。
「10%と変わらない」
軽い。
残響は遠い。
薄い。
静かだ。
ユユは何も言わない。
ログを睨んでいる。
数秒。
そして低く言う。
「……静かすぎるでしょ」
フィーナは瞬きをする。
「え?」
「波形が揺れてない」
「揺れなさすぎ」
フィーナは小さく笑う。
「安定してるってことでしょ?」
ユユの視線が鋭くなる。
「違う」
「押さえつけられてる」
空気が張る。
フィーナの表情が固まる。
「……レイがいるから」
静かに答える。
それは否定じゃない。
理由だった。
ユユは机を叩く。
ガン、と乾いた音。
周囲の整備兵が振り向く。
「それだよ!」
声が荒れる。
「レイがいるから、で全部済ませるな!」
フィーナの肩が震える。
「済ませてない!」
「私はちゃんと戦える!」
「20%でも平気だった!」
「平気すぎるのが問題なの!」
ユユは一歩踏み込む。
「前は20%で“重い”って言ってた!」
「怖いって言ってた!」
「今は? 何も感じない?」
フィーナは言葉を失う。
残響。
確かに、遠い。
うるさくない。
痛くない。
楽だ。
「……守られてるだけ」
小さく呟く。
ユユの顔が歪む。
「それが依存だって言ってんの!」
空気が凍る。
フィーナの喉が詰まる。
「依存じゃない……」
「共有だよ」
「一緒に戦ってるだけ」
ユユは深く息を吸う。
怒鳴るのを抑えるために。
「共有はね、対等なの」
「今は違う」
「レイが抱えてる」
フィーナの視線が揺れる。
「抱えてない」
「レイは問題ないって」
ユユが笑う。
乾いた、怒り混じりの笑い。
「言うに決まってるでしょ」
「レイが“問題ある”って言えると思う?」
フィーナは何も言えない。
レイはいつも、
“俺がいる”
と言う。
“問題ない”
と言う。
それを疑ったことはなかった。
ユユの声が低くなる。
「フィーナ」
「レイ、最近守りすぎ」
「ログ見た?」
「アルテミスの制御、常にフィーナ優先」
「危険予測全部自分に引き寄せてる」
フィーナの胸が締めつけられる。
「……それは」
言葉が出ない。
ユユは一歩引く。
怒りが、少しだけ落ちる。
「……ごめん」
ぽつりと。
「こうなったの、私のせいでもある」
アルテミス。
二人乗り。
設計思想。
“二人のための機体”。
「私はさ」
「壊れないように、繋げた」
「でも」
視線を逸らす。
「繋ぎすぎた」
沈黙。
フィーナは唇を噛む。
「……でも」
「私は、楽なの」
正直な言葉。
「レイがいると、静か」
「安心する」
「怖くない」
ユユは目を閉じる。
それが一番危ない。
「それが怖いの」
静かに言う。
「怖くなくなることが」
フィーナの目が揺れる。
「……じゃあどうすればいいの」
ユユは即答しない。
答えは簡単じゃない。
「距離を取れ」
そう言えば済む。
でも、それは壊れる。
三人とも分かっている。
ユユは低く言う。
「自分で立てるようになって」
「レイがいなくても」
フィーナは俯く。
指が震えている。
レイがいなくても。
立てる?
その想像が、もう怖い。
「……無理かも」
小さな声。
ユユの胸が痛む。
怒鳴った自分を少し後悔する。
でも。
言わなきゃいけなかった。
「無理にしなくていい」
「でも、気づいて」
「今のままは、危ない」
フィーナは何も言えない。
ただ、唇を噛んでいる。
残響は薄い。
でも。
胸の奥が、うるさい。




